車は快調、天候も良く道路も空いてるなんて最高の条件の中、
いつもと違うのはお気に入りの音楽を聴きながらゆっくりと運転するだけという
事でなかったのがちょっと面倒だ。
前車はその前のVOXYからそのまま移植したT社純正ナビだったからさ。
当時は主流だったHDナビという物でCDからデータ移行はハードディスクに
自動録音されるようになっており、数年間で既にCD200枚近くが入っている物だったのだ。
じっくりと好きなアーティストのアルバム1枚を聴くのも良し、
長距離運転の際にはランダム再生にしておくだけで次から次へと
自分のご機嫌になれる曲の設定だったのだ。
前オヤジ号に乗り換えた際に遅まきながら判ったのがこのHDに蓄積された
データは取り出しが出来ないのがHDタイプの最大の欠点だろう。
PCの先入観があったのが否定できない事ではあるが事実は現実として認識せねばなるまい。
発売からもう7年目になるナビでは機能的減価はいうまでもなく、
新車との相性、今後の使い勝手をも考えて今回は一緒に新品を選択したのである。
それも音質よりフィッティング性を重視し、
T社純正ディーラーオプションのT-Connectってのが使えるらしい物にした訳だ。
選択した物も含め汎用社外品も今の主流は既にSDナビという物で
これならもし今のナビが壊れたり買い替えたりしても
SDカードのまま記憶されたデータも簡単に移すことが出来るのだ。
また事前にPCからSDに入れておく方法も出来る。
新車に乗り換えて3日目で殆ど録音されてない状態ではランダム再生じゃなくて
お気に入りCDを出来るだけ取り込むのが今回の長距離ドライブでの
必要ルーティーンワークとなったのである。
急に決めた九州行きで適当にコンビニ袋に突っ込んできた何十枚かのCDを
次から次へと入れては出し、出しては入れと少々面倒くさい。
録音データが古いからか中には音源の録音は大丈夫でもアルバム名や曲目を
認識しない物もあったりして後からマニュアル入力するのを考えると
これまた鬱陶しくなってしまうなあ。
といっても私自身が元々適当で怠け者なだけで案外不快な作業でもないのである。
本音を書けば自分の好きなアーティスト達のCDで久々に聴く物もあったりして、
寧ろ古いアルバム写真を見返すように結構懐かしくそれなりには楽しんでいたのさ。
私は基本高速道路での夜間走行は好まない。
運転のしにくさ、また覆面パトによる追尾など視認性が悪いのが大きな理由である。
オドメーターの7、8割を占める程度に比率の高い高速走行は出来るだけ
日中を選択しているのだ。
今回もその為わざわざ早朝に出発し、午前中に現地入りする予定である。
これくらいの長距離を走ると何度となく覆面パトカーに停止させられている車両を目撃することになる。
山陽道では特に岡山、広島辺りはかなり盛んなようだ。
4ドアセダンで二名乗車の車両を追い越す際には必ず乗員の確認は当然のこと、
後方から来た際には女子レスリングの吉田沙○里並みの判断力でサッと車線を譲るのが常識さ。
背後を取られるのは致命的なのだから。
捕まっている人達には上から目線で申し訳ないけど、それさえ守っていれば良いのになんて思うのだけどね。
岡山、広島と順調に過ぎて山口に突入する。
道も空いているしこの調子だと予定より早く着きそうだ。
ナビモニターに録音済みの表示が出るたびに次のCDを入れ替えることも
片手でかなり手馴れた調子に出来るようになってきた。
録音中はCDを聴くだけでなく別のSDカード内の音楽やラジオを選択しても無論大丈夫である。
イメージ的にはCD一枚約10分程度で記録出来るようだ。
次にコンビニ袋から取り出てきたCDは相川七瀬。
おっ久々に彼女の曲はじっくりと聴こう。
「もっと激しい夜に抱かれたい NO NO それじゃ届かない
素敵な嘘に溺れたい NO NO それじゃものたりない♪♪」 (注1)
少しの時間楽しんだ直後に私は久々にプロフェッショナルな仕事を目の当たりにすることになる。
今更ながらプロと言うのは私を含めて殆どの者がそうなように
仕事をすることでその対価を得ている者すべてが厳密にはプロなのだが、
実際第三者から見てそういえるかどうかとなれば全く別の意味合いとなるのは誰もがそうだろう。
私の場合なら近年ではMLBに行ったイチローレベルくらいしか思い浮かばないくらいである。
「車両は、車両通行帯の設けられた道路においては、道路の左側端から数えて
一番目の車両通行帯を通行しなければならない。ただし、自動車は、当該道路の
左側部分に三以上の車両通行帯が設けられているときは、政令に定めるところにより
その速度に応じ、その最も右側の車両通行帯以外の車両通行帯を通行することができる。」
何だか判るような判らないような堅苦しい上記の文章は道路交通法第20条の1項である。
判りやすく言えば通行帯が2つ以上ある道路では一番右側以外を走らないと
いけないらしいのである。
高速道路でも一般道でもそんな状況は少ないし、ましてや法令化されているとは
恥ずかしながら私は知らなかったのである。
調べてみると一応例外規定があり、
1.追越をするとき
2.緊急車両に道を譲るとき
3.道路状況その他やむを得ないとき
どれも全てがどうもあやふやで怪しいものである。
特に3.なんて酷いものじゃないか。
具体的に一体どの程度の距離なのかなんて明記されていないのである。
その判断は現場の警察官の裁量に掛かっていると言っても過言ではないだろう。
気持ちよく相川七瀬とデュエットしていたオヤジ号の推定速度は100キロちょっとか。
「・・・ん?・・・・・・・・!」
突然バックミラーにパトライトを点滅させて現れたパトカーには驚いた。
指示されて路肩へと誘導されるのには素直に従うしかあるまい。
パトカー、それも覆面でない通常白黒ツートンの車両である。
警A 「運転手さん。ちょっと急いでました?」
私 「はあ、まあ。」
警A 「ずっと追い越し走ってはったでしょ。速度も109キロ出てますわ。
我々も点数稼ぎが目的やないので先に違反した通行帯違反でだけ
切符切らせてもらいますね。」
私 「はああ・・・?」
警A 「山口県は全域速度制限80キロで29キロオーバーは3点減点ですが、
通行帯違反は1点で罰金も6000円で済みますから。」
あまりに穏やかで流麗に話しかける警官に対しては
実はこの時通行帯違反なんてのを知るはずもなく、29キロは出ていたかどうかは
多少疑問はあったものの仮に20キロオーバーだとしても2点減点になるなんて
瞬時に考えて多少得したかも的にサインをしてしまったのだった。
その手口、いや仕事ぶりは追尾走行テクニック、柔らかい物腰、
そして原稿を全て完全に暗記したような滑らかな口調は全て一流のプロと認めざるを得ない。
停止させられてから次に発車するまで5分余りの出来事であった。
別れて冷静になって考えてみれば常に周囲に気を配っている私にとって
まともにずっと追尾していたのでないのは間違いなく、
おそらく一番左の車線で死角になる斜め45度くらいを保持したまま『通行帯違反』とやらで
捕まえる為に急激に車線変更してきたとしか思えないのである。
その動きはさながら先の大戦の零戦が敵艦目掛けて突撃する様であったろう。
考えようによっては形を変えた司法取引みたいな気もするなあ。
が、しかしバックを取られた時点でゴルゴ13なら命を覚悟したであろうと考えると
BGMにうつつを抜かしていた私はかなり甘いという事である。
やはり彼らのテクニックに素直に脱帽するしかないのだろうと思い直している。
山口県警恐るべし。
これをご覧の方々もゆめゆめ侮ってはなりませぬぞ。
(了)
(注1)曲 夢見る少女じゃいられない 作詞/作曲 織田哲郎 唄 相川七瀬