東京都から40キロほど南西部に八王子という場所がある。
ここにその道30数年という大ベテランのSという名の男がいる。
店の名前を聞けば車好きなら一度は目にしたことがあるだろうJETSETの文字を。
そうそこはレカロシートの販売をメインに販売、取付を行っている店である。
http://www.club.recaro-automotive.jp/shop_info/431
ただ売るだけでなく着座姿勢や運転方法、また各個人に対するカスタマイズ等、
20,000回以上に及ぶシートの脱着で、そのキャリアからくる現物主義は
どこかの雑誌の御用評論家やカタログ情報で頭でっかちになった一般ユーザーまで
何を言われようが己の見たこと経験した事に裏打ちされた信念以外は
一切受け付けない頑固一徹親父なのだ。
あれは全く偶然のことだった。
ミューレンに直接電話しAVV50用のシートブラケットはあるのかと問い合わせた際、
技術、営業系の社員は不在の上、曖昧な受け答えで一応後日に担当者から再度
連絡をもらうことにはなっていたものの不安は拭いきれなかった時の事。
そりゃそうだろう、もう買う気満々状態で肩透かしを食らうなんて。
ふとデルタツーリングのHPにある取り扱い店一覧を眺めていると
全国のマツダディーラー以外ではあるのは唯一JETSETだけだったのだ。
それもマツダの方は取り寄せで現物が見れるのもここしかないと書かれている。
http://www.mu-len.jp/mu-len/index.html
東京まで行くことはまずないが聞くだけなら電話で済むではないか。
電話に出てくれたのがたまたまそのS氏だった。
俺 「すみません。ミューレンのシートについて教えてもらいたいのですが。」
S 「はい、何でしょうか?」
俺 「実はこのシートはAVV50に装着可能でしょうか?」
S 「はい勿論、問題なく取付出来ますよ。」
ここで注文だけすれば話は99パーセント以上終わるはずだった・・・。
その後、俺のシート、主にレカロに対する使用履歴や考え方、
また何故ミューレンに替えようと思った経緯なんかを切々と語ると言うか、
ヒヤリングされたんだろうね、きっと。
いやはや専門家のS氏の方がそれを遥かに上回る熱い口調でシート談義に。
この時点で只者ではないとは薄々感じてた訳なのだ。
結局40分くらいは話しただろうか。
電話を切ったその後のメールでのやり取りでS氏が店のオーナーなのも知ったくらいさ。
納得して購入を決め、後は配送してもらうだけなのがごく普通の通信販売だろう。
今回AVV50用のブラケットはやはり標準ではなく受注生産してくれた為、
納期も2~3週間掛かったのとそのやり方は車種の形式認定を取得、
尚且つシート本体の強度証明書まで添付してくれる有り難さなのである。
30年前のブリンプ時代のレカロを思い出すよなあ。
入荷までの時間も待つ楽しみとするか。
その後はメールでのやり取りが(現在でも)連日のように続いているのも何故か不思議。
商品は思った通りの物が送られてきて何の問題もないのだから。
以前記事にしたPPL+なる怪しげな商品(?)を紹介したが、
S氏の軽いお勧めだったのさ。
残念ながら今回のシート程の衝撃は感じなかったけど、
レースにも使われて効果をそれなりに感じる者がいるのも事実なのである。
その評価、結果は後日に残るかどうかで判断するとしよう。
S氏の人となりがある程度判って来ると単なる親切な店主という程、暇な方ではないのがよく判る。
とにかく朝から晩までシート一筋でとても忙しい様子である。
こんな俺に色々と相手をしてくれてるのは手前味噌を半分以上溶き混ぜて言えば
多少は何か気に入ってくれたのかも知れないね。
当初メールでもさんづけで書いていた名前も
最近ではすっかり親父呼ばわりさせていただいている。
俺のID名に被るみたいだがこちらは単なる「車好きオヤジ」、
あちらは「(頑固一徹)親父」のなので誤解のなきように願いますぞ。
無論馴れ馴れしさと多少の無礼は承知の上、
おそらくご隠居やsettaiさん、はげおやじさんと同じ位の人生の先輩であり、
親父さんと呼ばせてもらって差し支えないと勝手に解釈しているのである。
肝心のシートについてはまた折々に触れて報告するつもりだが、
感激度、効果の大きさはパフォーマンスダンパーの時に勝るとも劣らないくらい。
あらゆる意味でレカロと対極にあるポリシーのシートであった。
レカロもトップメーカーとしての矜持はあるだろうし腐すつもりも毛頭ない。
純正装着品は最早論外としてどういうシートを望むのかで結論は別れるだろう。
少なくともコンフォート系な快適さなら断然ミューレンをお勧めする。
レカロの場合はカチッとしたホールド感を持たせつつ腰やお尻が疲れないように
形状や固さを考えられた物である。
一方ミューレンはメーカーの宣伝ではハンモック的と書かれているが
俺自身は人の手のひらに座っているような感じだろうか。
よく「人肌の感触」なんて表現が使われることがあるが
小さかった頃に親に抱きかかえられた感触と言えば大袈裟だろうか。
男の場合なら子供の部分を女性に置き換えても結構である。
おっと、また脱線しそうになるので修正してと、
ポジションもレカロに比べると座面の長さが短く前側(足先側)がやや下がっているのが特徴的である。
これに変えてすぐに気づいたのは太ももから膝に掛けての圧迫感のなさ。
気づかなかっただけで今までは多少なりともうっ血していただろうな。
また膝から下の脚の部分はブラブラとしているだけのような軽さなのだ。
3Dネットと呼ばれる独特な素材は臀部や腰、肩が触れるたびにふんわりと撓む。
稚拙な文章ではなかなか表現できないがそれはフカフカクッションとは全く違い、
頼りないというより心地良いものなのだ。
これまた喩えになるが今では当たり前の車の足廻りの4輪独立懸架は
俺が免許を取った頃はひとつのウリになるほど特別な装備だった。
今ではトラック系しかお目にかかれないけど、
この頃は結構リーフ式(板バネ)なんて車も多かった時代さ。
ミューレンがガ4独ならその他のシートは板バネかって思えるってことだ。
座面と背もたれが別々に機能している感覚は味わった者しかおそらく判るまい。
俺の車は先月ショックとサスを一新し純正より2割程度減衰力が増しているのに
ノーマルより遥かに振動が伝わって来ない滑らかさは不思議な気持ちになる。
クラウン、レクサスやベンツ、BMWには乗ったことがないけど乗り心地は
オヤジ号の方が良いのではなんて思ってしまうね。
S親父によれば頭部を動かさないように上手に他の部分が揺れているのだそうな。
ホールド感が優れているシートは表面的な部分でなく脳や内臓には良くないという考え方である。
レカロに限らず普通のシートは足裏で運転姿勢を保持、補助するのが常識だが、
ミューレンの場合、足はフリーの状態で床で踏ん張るものでなく
単に運転するのにアクセル、ブレーキを操作する為のものなのである。
のんびりと走る限りにおいてはこれに勝る物はない気がするよ。
先週これを装着後いつもの六甲山コースを逆に(上り道)を走ってみた。
タイヤもその前日に夏用(MAXX050+)に交換済みさ。
楽ちんポジションより背もたれを少し起こして頑張ってみよう。
このシートの性格上欠点とは言えないが左右の連続するようなコーナーの場合
サイドサポートのホールド感が薄い為、その度ごとに上半身が左右に大きく動く。
このシチュエーションならレカロの方が優れているだろう。
だからフットレストやニーレストに足裏や体を預けて常にコーナーをガンガン走りたいと
いう向きにはミューレンをお勧めはしない。
一瞬の緊張した走りも車の楽しみのひとつではあろう。
但しこの場合疲れとか腰への負担なんて論議は意味がないのも同義だし、
99パーセントの者には不要な条件だろうとも思うのである。
これは後日談にならざるを得ないが残りの懸念は耐久性だけだろうか。
今回ミューレンを見つけ、またS親父と面識を持てたのは幸運だったと思う。
全てが上手くいくはずはないが何事も自分が良いと思ったことは
失敗を恐れず実行するに限るのを改めて再認識する事となった。
決して望まぬ失敗も経験しなければ人生面白くないってもんだぜ。
まだまだ現時点でも発展途上で今後これより更に向上した製品を販売してくれるだろう
ミューレンには期待を込めて応援していきたいと思う。
最後になったが随分お世話になったレカロ嬢についても触れておきましょか。
彼女案外人気があって1○万円の持参金までいただいて新たな主の元に嫁いでいきました。
めでたし、めでたしとさ。
これにてゲスシリーズは一旦終了だ。
(了)