
先日文響社より新刊された「夢をかなえるゾウ4」水野敬也著を読んでみた。
タイトルから判る通りシリーズ物で既に刊行された前3作は非常に売れ、
累計販売400万部の大ヒット作品である。
ドラマ化されたりしてご存じの方も多いだろう。
実は1作目を読んだのはそのドラマ化されてかなり時間が経った後だったのもあり、
テレビを殆ど観ないのもあって流行には非常に疎い私である。
アマゾンから届いた箱を開封した際に一瞥した妻から
「その本やったらうちにあるよ、随分前になるから何処に置いてるか判らんけど。」
なんて言われる始末。
だが実際読んでみればそれが面白いだけでなくタメになるのも実感し、
続けて2作目、3作目も購入すればやはり良書であるとの認識を確信したのだった。
知らない者に簡単に説明するとこのゾウとはガネーシャと呼ばれるインド仏教の
神様が象の化身でごく普通の一般(日本)人に対して悩みの解決や願望を叶える為、
様々な課題を与えてそれを達成することで主人公の願望が叶うという筋書きだ。
何故か関西弁で話すガネーシャに親近感を持つのもあるが非常に良くできた、
いや全く凄いと感心する物語でもある。
売れるはずと得心するがこれを読んで実践して叶えた知人は周囲には見当たらない。
第13話 「ETSUKO2」
久々に江津子からライン着信が正博にあったのは梓と痛飲した翌日だった。
『来週空いてる?』
このパターンは食事のお誘いに違いない。
春に孫が出来て三重にしばらく行ったきりだった江津子だったが、
コロナ騒動のせいで逆に生まれて間もない抵抗力のない赤ん坊に
万が一自分がコロナに罹患させてはならないと2ケ月程度で戻ってからも
好きな酒や食事も専ら自宅で我慢する日々を送っているとは聞いていた。
当然仲良しの江津子ならノータイムでOKと行きたいところだったが
最近は一度外で飲み食いすると眠気や体力が回復に2、3日は掛かる。
「返答を数日待ってくれるかな。もし先に用事が入れば
そちらを優先してもらって結構なので。」と返すと
『じゃあもうイイよ。今回は無しにしとこ。』と即返答があった。
こりゃイラチな正博を遥かに上回る短気だわ。
コロナ禍のせいで飲食業界は想像できないくらいに疲弊し、
何とか微力でも協力してあげたいと思っているが、
知り合いの店すべてに行くには経済的、時間的、体力的にも難しく、
誰かときっかけがなければわざわざ足を向けるのも面倒くさい。
特に食欲が落ちてきてからは食事に行くのが億劫なのだ。
江津子は見た目は恰幅の良い目鼻立ちのくっきりした美人だが
旦那も子も孫もいる女性である。
特筆すべきはその人間観察眼にあり、その考察は正博も唸るほどだった。
世間的にはW不倫と思われるようなシチュエーションだろうが、
笑いながら「ありえん話やけどもし鈴木さんが私の前でパンツ下ろすことが
あったとしたら私を嫁にもらう覚悟が出来た時やろうなあ。」
と言われたことがあるがそれは地球が破滅するとしても無理な条件である。
負けずとこちらも「えッちゃんは魅力的な女性やとは思ってるで。
だけど俺からすれば野生の猛獣、檻の外から餌を投げ入れることはあっても、
絶対に中に入って直接渡す勇気なんかないからね。
まかり間違っても餌付けしようなんてムリッ!自殺願望もないし。」と返したものだ。
正博からすれば恋愛感情の対象異性というよりは、
同性と言う目線からの鋭い女性観なんて話が非常に参考になり、
知り合った女性の相談や助言を受けることもしばしばだった。
当然昨夜の梓についても事前にラインや電話で話をしていた訳で、
ある意味親友の男性以上に厳しくもあるが的確な意見をもらっていた。
どう助言されたかって?
もうボロカス。
『何を考えてるか知らんけど飲み屋のママでもホステスでも
水商売やってる者でまともな人間なんてまあそうおらんからそう思とき。
ましてや寿司屋の喫煙所で知り合ってホイホイと出ていくなんて最低やん、
信じられんわ!』
ここはグッと言いたいことを抑えて聞くだけ聞いておくに限る。
梓は飲み屋で過去にアルバイトした経験はあるが今は昼間の仕事をしてるし、
逆に江津子と知り合ったのは近所のスナックだったのはどうよって思うよな。
但し直接会話するまで数年間互いに様子見の期間があったのは確かだが。
相手にそういう関係さえ望まなければ危険度が低いのは当然。
但し酔っぱらった状態となればどこまで正常な感覚が維持できるかと
問われれば彼女達ほど強くない正博には断言できる自信は無かった。
『先に言うといたるけど自分なあ※都合の良い事ばかり考えてるやろ?
そんな相手なんてそこらで簡単に見つかるかいな。』
※自分とは発言した己自身を指すのではなく相手に対して向けた表現で
「あなた」、「君」、「お前」等と同義である。
冒頭のガネーシャは関西弁で専らこういう言い方で発言するのである。
「ガネ江津様、よく判りました。
まだまだ精進が足りませんが見捨てずご指導お願いします。」
『自分、判ったんならもうええわ。ちゃんと言うたこと守らなあかんで。』
とか言いながら次回は何処かの居酒屋でビールジョッキ片手に焼き鳥食いながら
腹を擦ってこんなセリフで言われてる情景が目に浮かぶ・・・。

(おわり)