わたしを束ねないで 新川和枝
わたしを束ねないで
あらせいとうの花のように
白い葱のように
束ねないでください
わたしは稲穂
秋 大地が胸を焦がす
見渡すかぎりの金色の稲穂
わたしを止めないで
標本箱の昆虫のように
高原からきた絵葉書のように
止めないでください
わたしは羽撃(はばた)き
こやみなく空のひろさをかいさぐっている
目には見えないつばさの音
中略
わたしを名付けないで
娘という名 妻という名
重々しい母という名でしつらえた座に
坐りきりにさせないでください
わたしは風
りんごの木と
泉のありかを知っている風
わたしを区切らないで
,(コンマ)や.(ピリオド) いくつかの段落
そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには
こまめにけりをつけないでください わたしは終りのない文書
川と同じに
はてしなく流れていく
拡がっていく 一行の詩
新川和枝さんの有名な詩です。
あらせいとうを、ご存知ですか。
洋風に言えばストックです。
香りがつよく、お正月に飾られる春を呼ぶ花、
偶然私の大好きな花でした。
こんなふうに自由に のびやかに
あり続けられたら 素晴らしいでしょう。
どんな風にもくくられたくなくて
いくつもの私を生きてきたけれど。
今もくくられたくなくて、
抵抗しているのかもしれないと思うのです。
老いという名で、病を持つ人という名で
くくられたくはないと。
いいえ、くくりそうな自分と戦っているのです。
でも今は 私には、私がみえなくなっているようです。
まあ、焦ることないか。
回復を楽しみましょう。
わたしを束ねないで
あらせいとうの花のように
白い葱のように
束ねないでください
わたしは稲穂
秋 大地が胸を焦がす
見渡すかぎりの金色の稲穂
わたしを止めないで
標本箱の昆虫のように
高原からきた絵葉書のように
止めないでください
わたしは羽撃(はばた)き
こやみなく空のひろさをかいさぐっている
目には見えないつばさの音
中略
わたしを名付けないで
娘という名 妻という名
重々しい母という名でしつらえた座に
坐りきりにさせないでください
わたしは風
りんごの木と
泉のありかを知っている風
わたしを区切らないで
,(コンマ)や.(ピリオド) いくつかの段落
そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには
こまめにけりをつけないでください わたしは終りのない文書
川と同じに
はてしなく流れていく
拡がっていく 一行の詩
新川和枝さんの有名な詩です。
あらせいとうを、ご存知ですか。
洋風に言えばストックです。
香りがつよく、お正月に飾られる春を呼ぶ花、
偶然私の大好きな花でした。
こんなふうに自由に のびやかに
あり続けられたら 素晴らしいでしょう。
どんな風にもくくられたくなくて
いくつもの私を生きてきたけれど。
今もくくられたくなくて、
抵抗しているのかもしれないと思うのです。
老いという名で、病を持つ人という名で
くくられたくはないと。
いいえ、くくりそうな自分と戦っているのです。
でも今は 私には、私がみえなくなっているようです。
まあ、焦ることないか。
回復を楽しみましょう。