空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

「白いしるし」 西加奈子 新潮文庫

2020-07-16 | 読書

 

白いしるしって何かな、あれかなこれかな、西マジックのような恋愛小説。
西さんの物はキリコについて」と「円卓」を読んだ。どちらもほのぼのした親子や家族の物語で、暖かい肩の凝らないいい話だった。
様々な賞をうけ、ベストセラーにもなり、今は人気作家の一人だと思う。
問題の受賞作は読んでいないので、いい読者だとは言えないけれど、好感を持っていた。これは猫の背中が可愛らしい表紙を見つけたので読んでもいいなと買ってあった。
題名はその猫の背中にある白い毛のことで猫の話だろうなと。相変わらずいい加減な選択だったが、「新潮文庫の100冊2020」に入っていたので読まないと面白い本が腐るかもと、読みます宣言をした。

前置きが長すぎだが、読み始めて、これはなんだという予想外の恋愛小説。それも少し婚期が遅れ気味で、絵など描きながら生活のためにバーでアルバイトをしているという今時の主人公。
なんか聞いたことがあるような設定で、解説の言う「男漁り」で何度も傷つき、やっと2か月前に男と別れたことから立ち上がったところ。
「男漁り」って誉め言葉かなと解説者をいぶかりつつ、いやこの内容ならぴったりなのかなどなど、いささか当て外れの出だしだった。

絵を気に入ってくれている、付かず離れずの瀬田という写真家がいて、オープンする間島という画家の個展に誘われた。
間島というのは好みにぴったり合った青年で、会った瞬間惹かれ過ぎまた落ちた。気のなさそうな活力の乏しそうな、無気力かといえば絵を見ればそうでもない、という役どころ、気にいった絵は白地の上に白い絵の具で富士山が書いてある。絵具に光が当たり発光していたという感覚も、普通に言えばそれは恋の始まりでしょう。
西さんは主人公の、悪く言えばありきたりな境遇を何か独特のものであるかのように描写するのが旨い。
間島というごく普通に見える青年の頼りなさげな様子なども、人によればビビッと来る(古?)のだな。大抵の読者が納得するようなまつ毛の陰の瞳の美しさや細身すぎる体つきまで主人公向けにうまく書いている。

そしてついに部屋まで誘い二人で暮らすが、四日目になって漏らした身の上話から彼には女がらみの出生の秘密があった。

一方瀬田にも彼が深入りしない訳があった。彼の過去は「猫」に繋がる。ここでやっと猫が出てくる。しかし脇役、背景だが、表紙にしてドジョウを狙ったのかも。と勘繰るのは卑しいかな。

まぁそのくらいのおとな子供という、成長しきらない恋愛がらみにドタバタして話が終わった。

一口で言えば、西さんはストーリーの展開が巧みで、表現も綺麗に納める。主人公だけがひどく悩み苦しみながら読者はそれを追いかけていく、現実的だと思えればきっと感動的な物語に違いない。
まっすぐに読めば恋愛の心理や、境遇に流される悲しみのようなものも読み取れるかもしれないが。

過去を振り返る年にもなると、そいうこともあるかもしれないなぁという距離感が少し残念。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする