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「裏切り」 カーリン・アルヴテーゲン 柳沢由美子訳 小学館文庫

2021-02-24 | 読書

夫が浮気をした。最近会話もない。妻も夜中に家を飛び出し成り行きで浮気をした。不倫小説かなんだありふれたテーマかと読み始めたら、あちこちで小さい山が鳴動して落石に会うくらい驚いた最後だった。
恋して衝動的に結婚した夫婦は甘える間に甘えておかないと、青春ホルモン(?)と子孫繁栄本能が消えかかると、そこからは思いやりの暮らしになる。それに気がつかない妻のエーヴァ、急に冷たくなったのはなぜかと悩む。自立しすぎた妻は夫の欠点に目をつぶって生活をリードしてきたのだ。

夫は息子の保育園で不倫相手を見つけていた。相手は離婚経験のある、手を差し伸べたくなるようなリンダで、彼は同棲する準備をして、口実を作って二人で船旅をすることにしていた。
エーヴァはそれに気がついて嫉妬に狂う。憎いリンダは保育園から追い出す。夫とはもう一緒に暮らせない。

夫は話しかけても「知らない」とにべもなく、挙句には「君といっしょにいてももう楽しくない」という。
さぁどうやってこの問題を解決するか。
悩み疲れてバーで酒を飲み、近くにいる若者に一杯奢った。酔った勢いで若者(ヨーナス)の部屋で一夜を明かしてしまった。リンダという偽名を使ったが、ヨーナスは美人と寝て舞い上がった。

ヨーナスの恋人は二年半植物状態で病院のベッドに横たわったまま、もう先が長くないと言われていた。彼は病院側の看護も迷惑なほどつきっきりで、たまに泊まり込んで彼女のベッドで寝た。精神科医はそういった行為を異常だと感じていた。

ヨーナスはエーヴァの家の周りを徘徊した、美しい家に住む美しいエーヴァ。常に夜は窓の外からエーヴァを見ている。夫の名はヘンリックだ。

ヘンリックの浮気を探り出したヨーナスはエーヴァを救う任務を遂行しなくてはと思う。
ヨーナスはヘンリックにエーヴァと愛し合っていると告白をする。ここに来ては夫婦の危機はもう救いようがないが、エーヴァはヨーナスにその後会うこともなく記憶もおぼろで。
彼の行動を知らないままリンダを陥れ保育園から出て行かそうと計画する。

ヨーナスの話を信じたヘンリックはエーヴァとの生活の快適さを手放す恐怖に震える。
ここにきてエーヴァまでヘンリックとの生活に未練を感じる。
ヘンリックも自分も哀れで悲しい。
彼を不倫に走らせたのは自分ではないだろうか。

ヨーナスの彼女は死んだが彼にはすでに過去の女になっていた。

船旅に出たには出たが、ヨーナスの話を聞いても、煮え切らないヘンリックを見限ってリンダは逃げようとする。
エーヴァの執拗な嫌がらせに手首を切って瀕死の状態になる。


よくある不倫から始まった登場人物の「裏切り」についてヨ-ナスとエーヴァの最後の会話が面白い。
ヨーナスは
「自分が愛することになっている相手に愛情を感じなくなったらなにも言わずにいつもどおりの生活を続けて、すべてうまくいっているふりをするのがいちばんいいと言っているんだね」
「それもまた、ある種の裏切りじゃないのか?愛していると思っている相手に対し、実は義務感と思いやりからそこに踏みとどまっているだけなら」
「それじゃ全生涯をいっしょに生きた夫婦はみんな幸せなのか?その人たちは単に運がよかったということか?」

こうして変質的な形で愛し愛された夫婦はもう戻れない人生に堕ちてしまう。

あれさえなかったら、と何度も振り返る。そして息子のそばでしみじみと独白する最後の章は胸が詰まる。

と並みでない心理ミステリと解説されるのは、こういう描写で登場人物の特異性や陥った状況を心理や会話から浮き彫りにしていく手並みの鮮やかさにあるのか。

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