不適切な表現に該当する恐れがある内容を一部非表示にしています

空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

「約束の森」 沢木冬吾  角川書店

2012-11-10 | 読書

 

 


終わりまで読もうか、どうしようかと迷うような本だった。
ただ序章で、設定やペットを含む展開が面白そうだと思い読み始めたが、読み通すのは少し苦痛だった。


たまたま集まった擬似家族のふれあいや、オウム、犬、それに野良猫も加わって、ペットたちがストーリーを豊かにしている。

ハードボイルドにわずかにミステリの味つけがあり、それにホラーチックな場面も加わって、味の濃い作品にはなっている。

ただ、肝心のバックヤードというか、こういう物語が生まれたそもそもの要素が説明不足で、導入過程が絵として見づらい。

読み進めば、理解できないこともないが、入り乱れた物語は、メインの人物たちはいいし、面白く作られてはいる。だが説明不足もあり、話の順序から言えば、もっと整理しなければ、とっかかりから面白さに入り込むことは難しい。


* * *


元警視庁公安部に勤めていた奥野侑也は、妻の冬子が殺害されたのを期に離職して、不安定な生活を送っていた。

そこに元上司の太田の口利きで公安の緒方という男が接触してくる。
遠い北の果ての「モーターモウテル・光芒」の管理人にならないかという勧めだった。侑也は何気なく現地の航空写真を見て、そこに写っている犬に気がつく。
侑也は一時ハンドラー(の手伝いといってるが)をしたことがあり、写っている犬の生気のない汚れ果てた姿を見つける。


 ドーベルマンは賢い美しい犬のはずだった。彼はその犬に惹かれて仕事を引き受ける。犬はマクナイトという名で、痩せて、人に親しみを感じることもない痛ましい目をしていた。傷まで負い、重い鎖につながれた姿だった。

「モーターモウテル光芒」という変な名前のリゾート施設の管理人になり、少し離れたところにある4階建てのサイロに住むことになる、ところが着いてみると、そこには隼人という青年とふみという娘が同居するというのですでに部屋に入っていた。
 
国際的無政府主義者組織の通称「N」を追っている、緒方を指揮官とする公安組織があり、侑也たちは、その「N」誘い込むための餌らしい。(あれ?、なんだかなぁの始まり)
 三人には常時監視がつき、「N」の娘だというふみは自称陸自出身の隼人が見張っている。

侑也はマクナイトの訓練を開始し、人間には不信感と無関心しか示さない元警察犬でも、いつか親しみの感情が表れることを期待している。

孤独な集まりの擬似家族は時が経つに従って気持ちが通うようになる。

その上侑也たちと生活を共にする間に、マクナイトは特に優秀な奇跡の犬だったことが分かる。

そして「ふみ」は子供のころからのペット、オウムの「どんちゃん」を連れていた。

公安の「N」作戦は、別の集団「スカベンジャー」という組織に狙われる。これは表沙汰に出来ない殺人事件の被害者を、闇に葬るのが目的で生まれたのではあるが、次第にオカルト好みの人間で組織された殺人集団になっていった(これもなんだか)
 
徐々に、隠されていた陰が明らかになり三つ巴の戦闘が始まる。


* * *


片手のない「隼人」、孤児院で育った文字の読めない「ふみ」。

モーテルのオーナーと支配人の恵造という二人の老人に好かれる「ふみ」

マクナイトという侑也が教育した奇跡の犬。

歌うオウム。

次第の人の輪が暖かく回りだすが。

偏屈な老人が心を開いて「ふみ」に文字を教えだす。

離れたの不良たちが開いていた闘犬賭博、そこの仲間に入りきれず、ついには侑也たちと運命を共にする赤城という青年は、マクナイトと侑也を見て「ダイナマイト」という名前をつけた子犬をペットにする。

なんと、マクナイトにダイナマイト
赤城らしいといえば言える(笑)
「マクナイト」は映画「ブラックホークダウン」のマクナイト中佐に因んだ名前だそうで、最初の飼い主がつけている(笑)
 
組織対侑也たち三人の闘い、これがハードボイルドだということなら、少し絡まった枝葉が多いようだが。
「約束の森」とはどういう意味だろう。

面白くなりそうな世界だが、なり切れないもどかしさがあった。
 

 


 
 

アクセスカウンター アクセスカウンター アクセスカウンター



My Yahoo!に追加

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「神様のカルテ」 夏川草介 小学館文庫

2012-11-08 | 読書



初めての小学館文庫、巻末で既刊本を見たが、小説賞募集の広告しかなかった。
「小学館」、、そういえば、いつか喜んで読んでいた漫画が、毎年の漫画賞に選ばれてうれしかったことがあった。
漫画賞受賞作、受賞者の表を見ると感慨深く、これだけでも小学館は面白い。
子供のころからお世話になった学習雑誌、新聞広告で見る女性向けや大衆向けの週刊誌、気がつかなかった、というか発行元まで目が行き届いてなかった。検索してみたら「大人の逸品」という通販まで有った。
中の、三合用「お櫃兼用寿司鉢」に惹かれた(^^)
少し前、泊まった公共施設の斜め前が小学館だったとか、さまざま埋もれていた記憶までよみがえった。
この本は、感想の前にこんな楽しみ方もあったのか。

これはごく読みやすい本だった。
本好きは一度は目にし、手にも取るような、話題の本なので前置きはここまでで

* * *

あらすじなど必要ないようだが、忘れやすい自分用にメモしておこう。

主人公の栗原一企は信濃の国、本庄病院に勤務する5年目の内科医。愛読書の漱石「草枕」をはじめ彼のすべての著作の影響をうけて、言動がいささか現代向きでない、見方によっては変人に分類されるような人柄である。

外面はそうであっても、こころの奥は柔らかな熱い医師魂を秘め、患者第一で、過酷な生活に身をおいている。
結婚一年目の記念日を忘れて、妻に申し分けなく思うような愛妻家であり、いまだに松本城に近い、古いアパートに住み続けている。
外から見れば奇態な住人たちも、それぞれ付き合ってみれば、深いつながりが生まれていて、酒を酌み交わしているだけで心地よい。

患者には死を迎える高齢者も多い。死に向かい合う姿勢もそれぞれで、一企は、仕事とはいえ人生の終末を迎える人たちにどういう治療をすればいいのか悩んでいる。

延命治療と自然死の境目で苦悩する姿が、彼が誠実であるために、現代の高齢化する社会の悩みを反映していて、他人事には思えない。

いい妻と友人、先輩に囲まれた栗原一企という新進の医師が、直面する今の医療と、死に向かう終末医療の問題も考えさせられる。

患者とのエピソードが暖かい読後感を残す。
彼の誠実な悩みが受診者側にも希望を持たせる。福音書だ。

* * *

こういう読みやすい本が多くなった。
人気の本は、図書館にすぐに予約しても今になる。買うとなると本は高価で、売らんかなの宣伝も、コピーも、過激な帯もある。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「水滸伝 一 替天の章」 北方謙三 集英社文庫

2012-11-04 | 読書



少し間が空いたのでどんな書き方をしたのか前を見直した。
まだ二巻目だが、ますます面白い。
表紙の裏に、当時の装束をつけた「武松」の人物画があり、その横にドラマ「天地人」の武田双雲の墨書「武松」がある。今回はメインが武松かな。
 それもあるが、、、。


【前巻までの梗概】より

梁山湖に浮かぶ山寨には、王倫を頭目とする叛徒一団が籠もっているが、今は盗賊集団になり果てていた。宋江と晁蓋は叛乱の拠点として、山寨を奪うことに決める。

 武松は、恋焦がれていた兄嫁の潘金蓮を犯し自殺させてしまう。死ぬつもりで虎と闘ったが果たせず、失意の武松を、魯智深は王進に預け、再生を希う。宋江の意を受けた林冲は梁山湖の山寨に潜り込むが、その武勇を王倫に疎まれ、地方巡検視の楊志と決闘させられる。一方、渭州の牢城には、かって河水で叛乱を企てた公孫勝が囚われていた。晁蓋は阮小五らと公孫勝を開放。公孫勝は劉唐らと特殊部隊・致死軍を組織する。
 楊志は賄賂の運搬を命じられた。それを晁蓋らが奪い、梁山湖の山寨に逃げ込む。王倫を林冲が処断。晁蓋が頭領となり、この地を梁山泊と名づけて、『替天行道』の旗を立てた。



巻を追うごとに面白い。前にも書いたがまだ二巻目。

武松のエピソードがやたら哀しい、彼は子供のころから憧れていた兄嫁をついに狂気じみた乱暴さで犯してしまう。兄嫁の潘金蓮は彼の名を出さず「賊」と書いて死ぬ。
川に飛び込むが死に切れず、虎と戦うも死に切れず、武松は迷いあぐねて古い山門に出る。そこで体を休めていたとき、探しに来た魯智深と会う。

武松はぼんやり魯智深を見つめていた。
魯智深は、すでに境内に出ていた和尚に暇を告げ、なにがしかの寄進をした。
和尚は武松になにも言わず、ただ小さな数珠をわたした。



忘れていたが、囚われていた公孫勝を救い出す戦略もワクワクする。

山寨にはいった林冲を王倫は笑顔で迎え、槍の腕試しをする。王倫の部下、選ばれた槍の使い手16人を一度に倒した林冲を王倫は内心警戒するようになり、密かに毒殺、暗殺を企てる。
林冲は王道全の処方した解毒剤をいつも持ち歩き、異臭を嗅ぎ分けては食前に飲むようにしていた。

楊志は楊業の血を引く家柄で、高名な武人であったが、地位、境遇には恵まれなかった。
賄賂を運ぶ警備隊長を命じられ、意に反する命を不満に思っていた。

この大量の財物を奪う計画は晁蓋を筆頭に組織された、ごくわずかな人数で行われた。
楊志が隘路を抜けた平地で護衛の兵を休ませたとき、ナツメ売りの出した水で眠らされ、その間に盗まれる。

この財物を餌に、晁蓋一党は山寨に入る計画だった。

王倫は頭領としての資質が崩壊して、私利私欲と小心を見抜ぬかれていた。
林冲の黒の軍袍と黒い帯が合図だった。宋万と杜遷は時が来たことを知る。
ついに林冲は彼を殺害する。

晁蓋らは七人を先頭に島に入り、梁山泊と名づけ「替天行道」の旗を揚げる。


山寨の整備もすすんできた、林冲は魯智深と湖岸を駆けていた。
会いたいと願っていた、盟友の宋江が通じたように湖のほとりで待っていた。

終盤は爽快な梁山泊の幕開けだった。


 


アクセスカウンター アクセスカウンター アクセスカウンター



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ローラ・フェイとの最後の会話」トマス・H・クック 早川書房 ポケミスNo.1852

2012-11-01 | 読書



自分が興味を持っていることは、人もきっと面白いに違いないと、とんだ勘違いを今でも改められない私は、クックがなんなのか興味のない人にまで、探す手間もかけずに、このごろクックが出ないのよ、と愚痴っていた。「翻訳物は少なくなったね」心優しい人たちは、大体を想像して答えた。

愚痴りながら待っていた私は間違っていた、従来の文春文庫ではなくてポケミスで出ていた。毎年一冊、遅いときでも二年に一冊は出ていたはず。今回もやはり「長い休暇」ではなかった。めでたし。

クックの作品は、初期のものも面白かったが、「記憶シリーズ」からが作風も少し変わって読んでいても一段と面白い、一気読みが、終わるのが惜しい。

ストーリーは、いつも似たような展開で、以前に起きた事件の記憶を振り返ったり、再構築して細部を補いながらその深層にたどり着くといった形式が多い。

事件の起きる原因は、不幸な環境や貧困や、両親の不和、降りかかった災難、陥った苦境からの逃避などで、主人公や周りの人々が織り成してきた、過去の歴史を振り返る。遠い過去は朧にかすんで、現実の前で色あせ始めている頃になって。

、ところが何かを契機に、消えてしまっていたはずの過去につながる人物や出来事が、降って沸いたように訪れる。

この「ローラ・フェイとの最後の会話」も、捨ててきたというか、逃げてきた遠い故郷の悲惨な事件のあったk過去から現れた、ローラ・フェイにたまたま再会して(ローラは意図していたが)想い出話をした夕刻、その一夜の話である。

* * *

ルークはアラバマ州グレンヴィルという田舎町の高校では抜きんでた秀才ということになっていた。卒業のスピーチもしたし、レポートも書いた。担任はハーバードに行けると励まし、市長の推薦も受けた。

彼の夢は生き生きとした歴史書を書いて世間に認められることだった。ハーバードから入学許可の通知が来る、しかし当てにしていた奨学金は認められなかった。

父親は儲けなどは無頓着で、流行らないバラエティ・ストアを開いていた。雑貨屋そのままに、商品の整理も出来ていない、父親の性格そのもののような雑然とした店だった。

母は体が弱く、そのころはもう回復の見込みの無い病気に蝕まれていた。
ルークは店員の女(ロ-ラ・フェイ)と父の関係を疑っていた、倉庫を探って浮気を確信した。そして愛して尊敬する母をいっそう不憫に思っていた。

父が射殺される。犯人はフェイの別居中の夫でウディという男だった。

父の保険金が20万ドルあると聞いてルークは胸をなでおろす。
受取人の母から金は水のように自分に流れ込むと思っていた。ところが負債を抱えていた父の死後、債権者に店も品物も母の貯金も渡ってしまう。父は無くなる二ヶ月前に保険も解約して手にしたという三万ドルもなくなっていた。

彼は絶望して途方にくれた、しかし重病だった母が無くなり家を売って学費が出来た。

ルークはハーバードを出たが、思い通りの歴史書は書けなかった。彼の書きかけた小説は、最後にはやせた論文になるのが常だった。
小さい大学で小さな講座を持ち、時々は地味な講演を頼まれ、そのとき夢とは程遠いながら、自分の新刊本を並べてサイン会の机を用意したが、人気は無かった。
そんなとき、講演先のセントルイスに彼女は現れた。

27歳の若さに輝いて父を誘惑した娘は、老いの影の忍び寄った47歳の太目の女になっていた。
彼女はル-クに話があるといい、気が乗らないままにルークはホテルのラウンジに誘う。

ローラ・フェイは馴染みのないカクテルを前に、話し始める。彼女はその後事件を追って調べつくしていた。
ルークは謂れの無い緊張感とおびえを感じる。彼の過去はそういうものと「輝かしい青春」が混在するものであったが、すべては思い出したくないものだった。
ローラは「ルークの旅路」に迫ってくる。ほのかな当てこすりと、遠まわしな感想。それはルークの傷をまた開かせる時間だった。

そして、過去のあの時、事件の原因と結果が、二人の前に真実の光景を広げてみせる。

* * *

なぜクックが好きか。ストーリーには少し緻密さがかけてきた。終わり方や話の締め方にも少し不満が残る。作者は解決したつもりでも、エピローグにしては、従来のように暗いものは暗いままに、人生とはそういう方向が現実的ではないだろうか。と古くからの読者は思う。

それでもクックが好きか。
たとえ~~~~であったとしても。頻出するこういったたとえの中の風景が鮮やかにストーリーを際立たせ、そのイメージは言葉の壁から鮮明な心象風景を伝えてくる。


(あたかも)~~~~のように。

あたかもローラ・フェイにアイスピックで突き刺され、その穴から自分が永久にもれ続けることになったかのように。

「つづけて、ルーク」と彼女は言った。「おねがい、もっと話して」彼女の頬笑みは妙に満足そうだった。油断のならない水域を乗り切り、いますこし気をゆるめて、それほど危険のない川面をゆったりと下っている水夫みたいに。

依然としてわたしの人生を覆っている灰色の蜘蛛の巣をほとんどあざ笑うかのように。

「ひとつの石で二羽の鳥を殺すなんて」「殺す?」とわたしは聞き返した。というのも、その言葉とそう言ったときの彼女の言い方にぞっとするものを感じたからだった。突然、武器を持った危険な闖入者が押し入ってきて、たちまち、ほかのあらゆる問題はなにもかも生き残れるかどうかという単純な問題に還元されてしまったかのように。

陰惨、どこにも出口がないという顔だった。一瞬、彼女は生きとし生けるものの世界から切り離され、引きずられていって、自分の人生の孤独な独房に監禁されてしまったかのように。

私はただまっすく前を見て、ハンドルをいちだんと強く握り締めた。その致命的な握り方によって、砕け散った私の夢の破片にしがみつこうとするように。


プロフィールの写真のように品のいい描写がおおい、露骨な性描写もない。寂れた町や野山の匂いを伝えるような文章は、子供のころの淋しい山の生活を髣髴とさせて、私はクックのミステリは好感をもって読むことしかできない。



アクセスカウンターアクセスカウンターアクセスカウンター
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする