本年度の総括、最後は映画です。
本日より四夜連続で展開、3日間は15選を5本ずつ短評とあわせて。
第四夜に全体から見えてくるものを自分なりの解釈で。
長くなりますが、お付き合いくださいませ!!
第一夜は、第15位~第11位までを発表します^^
ではいくぜ!!
…………………………………………
第15位『オッペンハイマー』(トップ画像)
功名心や愛国精神もあったろう、だがそれ以上に物理学者としての矜持がそうさせたのか、原子爆弾の開発に心血を注ぎ、しかし完成させたはいいが使用することの罪にまで思いが至らなかったロバート・オッペンハイマーの半生をクリストファー・ノーランが描く。
唯一の被爆国である我が国の公開が遅れに遅れたのは当然のことかもしれない、
映画ファンのあいだでも作品そのものへの是非が議論され、「絶対に観ない」ことで自身の立場を主張するものまで居た。
タイトルロールを熱演したキリアン・マーフィのオスカー受賞に異を唱えるものは居ないだろう、
しかし天才と凡人の対峙というドラマ面では『アマデウス』のそれには及ばず、トリニティ実験の再現という映像面では『ツインピークス』が「その先」までエッジに表現してしまっている。
力のこもった映画であることは間違いないが、誰かの言葉を引用すれば「ヘンテコな題材を、それらしく大真面目に」撮ることがノーランの最大の魅力だとするならば、この題材は荷が重かったのではないか、、、そんな風に感じた。
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第14位『水深ゼロメートルから』
4人の女子高生(ココロとミク、チヅルとユイ)と教員、そして水が抜かれた空っぽのプール。
すべきことは、終わりが見えてこないようなココの掃除。
背景はこれだけで充分、それぞれ事情を抱えた彼女たちの思惑が交差し衝突し、少しだけ融解する。
『アルプススタンドのはしの方』の成功は記憶に新しいが、本作もまた高校演劇の戯曲を映画化したもの。
いわゆるワンシチュエーションの構成だが、両作とも監督に恵まれ、独特な空気感を作り出すことに成功している。
べつに「常にみみっちく」とはいわないが、日本映画の成功の秘訣は、このミニマル精神にあるような気がする。
ハリウッド―いや、いまは韓国か―のようなマキシマルに対抗するには、ここを極めるべきなのではないか。
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第13位『侍タイムスリッパー』
幕末に生きる会津藩士が落雷によって現代の京都、しかも時代劇撮影所にタイムスリップしてしまうコメディ。
本年最大の発見。
指摘しようと思えば粗や穴はいくつかあるが、それらを映画愛でご破算にさせる勢いがあった。
『カメラを止めるな!』が席巻したのは7年前。
低予算の自主制作であるばかりか、口コミでスクリーン数を増やしていったところも同じ。
ときどきこういうことが起こるから映画ファンをやめられないわけだが、この映画のキモはショートケーキの場面だろう。
あれがなかったら好きにならなかったかもしれない、、、とまで思う。
ケーキは小道具としてひじょうに優秀?で、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』や『悪人』でも映画そのものの価値まで高める効果をあげている。
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第12位『コンセント 同意』
自身の性的嗜好(ペドフィリア=小児性愛者)を公言し、自作においてその経験を詳細に綴ることまでする、フランスの「実在」作家ガブリエル・マツネフ。
そんなガブリエルと14歳のころ性的関係を結んでいたバネッサが告発の書『同意』を刊行、本作はそれを映画化した「実録モノ」である。
わざわざ「」を入れて実録を強調したいのは、関係者の役名がすべて実名だから。
『SHE SAID』もそうだが、このあたりが戦う外国映画のすごいところで、いや向こうからすれば当然なのかもしれない、しかしそう出来ない・しづらいのが日本映画なのだ残念だけれど!
翻訳された著作はひとつもないため、ガブリエルは日本では無名に等しい。
しかしバネッサが告発する前からフランス国内では周知の事実であったにも関わらず、ガブリエルは一部インテリから強い支持を受け、テレビなどでの発言を有難がる風潮があったという。
フランスって進歩的な国だったんじゃないのか?
という失望にちかい驚きを覚えつつ、
この映画が、若者たちのSNS拡散によってロングラン公開されたという事実に「ほんの少しだけ」希望を宿したのだった…。
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第11位『マッドマックス:フュリオサ』
片腕の女坊主戦士、フュリオサが誕生するまでを神話風に描く『マッドマックス』シリーズのスピンオフ。
コッポラにスコセッシ、スピルバーグ、そしてまもなく80歳を迎えるジョージ・ミラー。
2020年代における世界的傾向なのか、おじいちゃん監督が頗る元気。
本作で最も観客のテンションが上がるのは、中盤における15分にも及ぶカーアクションだろう。
劇場で観ていて「待ってました!」みたいな空気を感じたほどで笑ってしまったのだが、「おじいちゃん」ミラーにとって、この場面は「撮影に時間は要した」がさして重要ではなく、単なるファンサービスに過ぎない。
復讐を誓った宿敵もまた、フュリオサと同じように親を殺され不遇な少年時代を送ってきた。
歴史は繰り返す、ヒトは哀しきイキモノだから…その諦念の先にフュリオサを置くことで、ぎりぎりの、ほんとうにぎりぎりのところで、それでも未来を信じようとするミラーの眼差しが見て取れ、このシリーズを創りつづける理由もそこにある気がした。
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明日のコラムは・・・
『映画は止まらない(2) ~映画界2024回顧~』
本日より四夜連続で展開、3日間は15選を5本ずつ短評とあわせて。
第四夜に全体から見えてくるものを自分なりの解釈で。
長くなりますが、お付き合いくださいませ!!
第一夜は、第15位~第11位までを発表します^^
ではいくぜ!!
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第15位『オッペンハイマー』(トップ画像)
功名心や愛国精神もあったろう、だがそれ以上に物理学者としての矜持がそうさせたのか、原子爆弾の開発に心血を注ぎ、しかし完成させたはいいが使用することの罪にまで思いが至らなかったロバート・オッペンハイマーの半生をクリストファー・ノーランが描く。
唯一の被爆国である我が国の公開が遅れに遅れたのは当然のことかもしれない、
映画ファンのあいだでも作品そのものへの是非が議論され、「絶対に観ない」ことで自身の立場を主張するものまで居た。
タイトルロールを熱演したキリアン・マーフィのオスカー受賞に異を唱えるものは居ないだろう、
しかし天才と凡人の対峙というドラマ面では『アマデウス』のそれには及ばず、トリニティ実験の再現という映像面では『ツインピークス』が「その先」までエッジに表現してしまっている。
力のこもった映画であることは間違いないが、誰かの言葉を引用すれば「ヘンテコな題材を、それらしく大真面目に」撮ることがノーランの最大の魅力だとするならば、この題材は荷が重かったのではないか、、、そんな風に感じた。
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第14位『水深ゼロメートルから』
4人の女子高生(ココロとミク、チヅルとユイ)と教員、そして水が抜かれた空っぽのプール。
すべきことは、終わりが見えてこないようなココの掃除。
背景はこれだけで充分、それぞれ事情を抱えた彼女たちの思惑が交差し衝突し、少しだけ融解する。
『アルプススタンドのはしの方』の成功は記憶に新しいが、本作もまた高校演劇の戯曲を映画化したもの。
いわゆるワンシチュエーションの構成だが、両作とも監督に恵まれ、独特な空気感を作り出すことに成功している。
べつに「常にみみっちく」とはいわないが、日本映画の成功の秘訣は、このミニマル精神にあるような気がする。
ハリウッド―いや、いまは韓国か―のようなマキシマルに対抗するには、ここを極めるべきなのではないか。
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第13位『侍タイムスリッパー』
幕末に生きる会津藩士が落雷によって現代の京都、しかも時代劇撮影所にタイムスリップしてしまうコメディ。
本年最大の発見。
指摘しようと思えば粗や穴はいくつかあるが、それらを映画愛でご破算にさせる勢いがあった。
『カメラを止めるな!』が席巻したのは7年前。
低予算の自主制作であるばかりか、口コミでスクリーン数を増やしていったところも同じ。
ときどきこういうことが起こるから映画ファンをやめられないわけだが、この映画のキモはショートケーキの場面だろう。
あれがなかったら好きにならなかったかもしれない、、、とまで思う。
ケーキは小道具としてひじょうに優秀?で、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』や『悪人』でも映画そのものの価値まで高める効果をあげている。
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第12位『コンセント 同意』
自身の性的嗜好(ペドフィリア=小児性愛者)を公言し、自作においてその経験を詳細に綴ることまでする、フランスの「実在」作家ガブリエル・マツネフ。
そんなガブリエルと14歳のころ性的関係を結んでいたバネッサが告発の書『同意』を刊行、本作はそれを映画化した「実録モノ」である。
わざわざ「」を入れて実録を強調したいのは、関係者の役名がすべて実名だから。
『SHE SAID』もそうだが、このあたりが戦う外国映画のすごいところで、いや向こうからすれば当然なのかもしれない、しかしそう出来ない・しづらいのが日本映画なのだ残念だけれど!
翻訳された著作はひとつもないため、ガブリエルは日本では無名に等しい。
しかしバネッサが告発する前からフランス国内では周知の事実であったにも関わらず、ガブリエルは一部インテリから強い支持を受け、テレビなどでの発言を有難がる風潮があったという。
フランスって進歩的な国だったんじゃないのか?
という失望にちかい驚きを覚えつつ、
この映画が、若者たちのSNS拡散によってロングラン公開されたという事実に「ほんの少しだけ」希望を宿したのだった…。
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第11位『マッドマックス:フュリオサ』
片腕の女坊主戦士、フュリオサが誕生するまでを神話風に描く『マッドマックス』シリーズのスピンオフ。
コッポラにスコセッシ、スピルバーグ、そしてまもなく80歳を迎えるジョージ・ミラー。
2020年代における世界的傾向なのか、おじいちゃん監督が頗る元気。
本作で最も観客のテンションが上がるのは、中盤における15分にも及ぶカーアクションだろう。
劇場で観ていて「待ってました!」みたいな空気を感じたほどで笑ってしまったのだが、「おじいちゃん」ミラーにとって、この場面は「撮影に時間は要した」がさして重要ではなく、単なるファンサービスに過ぎない。
復讐を誓った宿敵もまた、フュリオサと同じように親を殺され不遇な少年時代を送ってきた。
歴史は繰り返す、ヒトは哀しきイキモノだから…その諦念の先にフュリオサを置くことで、ぎりぎりの、ほんとうにぎりぎりのところで、それでも未来を信じようとするミラーの眼差しが見て取れ、このシリーズを創りつづける理由もそこにある気がした。
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明日のコラムは・・・
『映画は止まらない(2) ~映画界2024回顧~』