オトギリソウは乾燥してからからになってきました。お酒に漬けるのですが、ずーっと以前『自然の贈り物』(1984)という本で見つけた”浸酒アクアリウム”で私はやっています。34年前のまずい訳(今が上手ということではありませんが)をUPしておきます。
セルゲイ・オシャニーン ロシアの浸酒(ナストイカ)と果実酒(ナリーフカ)
気前のよさと客好きはずっとロシア民衆の際立つ特徴でした。今も私たちの食卓では塩漬けキャベツ、歯ごたえのよいキュウリ、キノコの塩漬け、スメタナとおろし大根の和え物・・・などが栄えある座を占めています。ところが飲み物となると変わってしまいました。より正確に言うなら、それに対する流行が変わったのです。今ではフランスのコニャックやイタリアのベルモット、ハンガリーのトカイワインやポルトガルのポートワイン、ウィスキーやジン、さまざまなカクテル、さもなければ「ファンタ」や「ペプシコーラ」といった清涼飲料水が食卓を飾っていれば、もてなし役はごきげんです。よく考えてみましょう!なぜって私たちはわが国の祖先の文化、生活習慣の歴史の一部をなくし、かつて外国人を驚嘆させた飲み物――蜜湯やクワス、蜜酒やウォッカ、浸酒(ナストイカ)や果実酒(ナリーフカ)――を忘れてしまったのですから。ロシアの宴席の大通人であった有名な作家アレクサンドル・イヴァノヴィチ・クプリーンの小説『士官候補生』の中の描写を思い出してみましょう。
「ところで腹への通りをよくするためにブリン一枚ごとに多種多様な四〇種類のウォッカと四〇の浸酒がふり注がれる。そこには古式ゆかしい庭で馨しき香りを放っているフサスグリの芽の酒が、ヒメウイキョウ[1]酒が、ヨモギ酒が、アニス酒が、フェンネル入りウォッカが、万病に効くオトギリソウ酒が、ズブロッカ[2]酒が白樺の芽とハコヤナギの浸酒が、レモン酒が、コショウ酒が、それから……みんなは数えあげられない。」
このリストにはもっとたくさんの植物の浸酒と果実酒をつけ加えることができます。しかし若干の、それも最もよいものは希少種になってしまってレッドデーターブックの中のページでしか見ることができなかったり、限定された地域でまれにお目にかかれる植物になってしまいました。ですからコウリョウキョウの根茎、オグルマの根、アニス、クルミの実の甘皮、あるいはビルベリー、サンザシ、ハスカップの乾燥させた実くらいをつけ足しておきましょう。
浸酒は次のようなやり方でつくるのが一番。
はじめに浸出液をつくります。それには刻んだ根または草を大きな(〇、七五リットル以上)細口びんや広口びんにおよそ半分くらい入れたら、七〇パーセントのアルコールかウォッカを注ぎます。数日すると浸出液が出来上がりますので、それを濾して好みでウォッカに加えます。ウォッカの入ったびんで直接浸酒をつくると濁ることがあります。
『浸酒アクアリウム』もつくれます。これに一番適しているのはオトギリソウです。花のついた草の茎をびんの太い所の高さよりちょっと低く切り、傷んだ葉を摘みとって洗ったら、ていねいにびんの中に落とします。そこへ薄切りしたコウリョウキョウ[3]の根を一、二片加えるとすてきです。もちろんびんのラベルは剥がさなければなりません。その方が食卓で見栄えがよくなります。
つぎにもう一種類。根パセリ(ペトルーシカ)を採ってきて、葉を洗い、ナイフで根の皮をきれいにとって、根を四片に切り、びんに入れます。そこへちいさなビリッと効く赤コショウとニンニク一、二片を加えます。この浸酒は一昼夜以上保存できません。つまり、三、四時間たったら飲まないといけません。
古い製法もいくつか引用しておきましょう。「モスコーフスカヤ・ウォッカ」をつくるには、一二ゾロトニク[4]のショウガ、セージ、ミントとコウリョウキョウを手に入れます。純度の高いアルコールを一シュトフ[5](シュトフはウォッカ二びんに等しく、さかずき一〇杯、つまり一、二三リットルにあたる)に浸けて、数日暖かい所に置きます。毎日かき混ぜなければなりません。そのあと、濾して、水四分の一シュトフを加えます。
さて今度は有名なエロフェーイチ・ウォッカ(薬草入りウォッカ)一ヴェドロー[6]〔一二リットル〕にミント一フント[7]、アニス一フント、すりつぶしたビターオレンジの実二分の一フントを入れ、暖かい場所で二週間浸けて、毎日かき混ぜ、それから濾過します。
イブキゼリの葉からつくる「ゾールナヤウォッカ」、ヨモギ、ミント、その他のウォッカはつぎのようにつくられました。それには外皮の大き目な粉五〇グラムを七〇パーセントのアルコール一リットルに二週間浸け、それから濾過しました。
さてつぎはボダイジュの甘いウォッカの製法――「ボダイジュの花をびんいっぱいに入れ、九〇度のアルコールを口まで注ぎいれ、ゴムの袋をしっかり巻きつけ、(針で)穴を開け、二カ月暖かい所に置く。それから花を軽くしぼって、液を濾し、一シュトフにつき二分の一フントの砂糖を溶いたものを加える。このウォッカはとてもよい香りがして美味。」
もう浸酒については十分ですね。果実酒についても少しばかり言っておかなければなりません。果実酒は強いものと弱いものに分けられます。前者はアルコールで、後者はウォッカでつくります。製法はかんたん。実際、任意のベリー(ビルベリー、クロマメノキ、ハスカップ、スグリ、ホロムイイチゴ、リンボク、ブラックベリー、サンザシ……)を広口びんに入れ、ウォッカかアルコールを注いで、暖かい所に置きます。ベリーを長く浸けこむほど、果実酒はおいしく香しくなります。でも一、二日後でも飲めます。お望みなら果実酒は甘くすることもできます。
もっとかんたんな製法もあります。ベリーのしぼり汁かシロップをウォッカかアルコールで割って、好みで砂糖を入れます。
さて今度は古い製法をふたつ。
エゾノウワミズザクラの果実酒をつくるには、熟れた実を天日干しにしたら、大びんいっぱいに入れ、ウォッカを注ぎ、暖かい所で二カ月熟成させます。好みで砂糖を加えます。
ナナカマドの果実酒もつくることができます。それには熟れきったナナカマドの実を採ってきて、ペーチの天板上で焼いて、干からびさせたものを、びんの三分の二入れ、浸し液が暗い琥珀色になるまでウォッカにひたしておき、甘味を加えます。
あなたの食卓にロシアのザクスカ(つまみ)とロシアの飲み物をどうぞ!
(くるくるしんぶん 1985.10)
参考(『ロシアナウ』)http://jp.rbth.com/arts/2013/01/03/40543.html
ナストイカとナリフカ
高級ロシア料理レストランでは、ウォッカ以外にメニューに必ずナストイカ(浸酒)やナリフカ(甘い果実酒)がのっている。ナストイカはウォッカをベースにして、さまざまな香りの良い食材を加えたもので、砂糖は入らない。
一番簡単なレシピとしては、500mlのウォッカにレモン1個分のピールを加え、3週間ほど温かい場所に置き、その後濾(こ)して冷やすものだ。ナリフカはウォッカをベースにして、新鮮な果物やベリーに砂糖または蜂蜜を加えてつくる。果実は容器の3分の2ほど入れて(ロシアで一番人気はツルコケモモやコケモモ)2ヶ月半温かい場所に置き、その後濾(こ)す。これはウォッカやウォッカのナストイカほどキンキンに冷やす必要はない。
レシピ
フレノヴハ(西洋わさび浸酒)は、ロシアのレストランなどで特に人気の高い、ウォッカのナストイカで、家でも簡単につくることができる。ウォッカ1瓶用に、西洋わさびの根を2本、レモン半分、さらに味にやわらかさを加えるために、テーブルスプーン1杯分の無加糖白蜂蜜を用意する。西洋わさびは細くせん切りにし、蜂蜜とレモン汁と一緒にウォッカの中に入れ、冷暗所に数日置く。その後は濾(こ)して、冷やして、後はここに書かれている通りに飲むだけだ。
[1] 別名 キャラウェイ
[2] 別名 バイソングラス、セイヨウコウボウ
[3] ショウガ科ハナミョウガ属の植物。
根を乾燥させたものを良姜リョウキョウといい、生薬とする。
[4] ゾロトニクはロシアの古い重量単位 一ゾロトニクは約四、二六グラム
[5] シュトフはロシアの酒の古い容量単位
[6] ヴェドローはロシアの古い容量単位 一ヴェドローは一二、三リットル
[7] フントはロシアの古い重量単位 一フントは四〇九、五グラム
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