令和6年9月2日にSKさまから「世界の旅から」茶事へお招きいただきました。
すぐに後礼の手紙を差し上げるはずが、奥伝稽古が続いて頭と体のゆとりがなく、1週間以上遅れて投函しました。
心に残る素敵な茶事の思い出として後礼の手紙をこちらへ書き留めます。よろしかったらご一読ください。茶事の写真は全て次客Yさまにご提供頂きました。ありがとうございます!
秋きぬと 荻の葉風のつげしより
思ひしことのただならぬ暮
式子内親王の和歌
台風10号が迷走し天候を心配していましたが、その日は青空が広がり、安心して世界の旅へ出立することが出来ました。
玄関の掛物、円の中に書かれた「風」の墨書、風に乗って颯爽と世界を旅する・・・なんとも雄大で、今日の茶事にぴったりでございました。
居間(待合)へ通るとすぐに庭の芙蓉の大樹を見ました。満開の花を想像していましたが・・・後で芙蓉の花が遅いと伺い、内心がっかりしましたの・・。
待合の煙草盆の灰皿やマッチや煙草入れが楽しく、後でお伺いするのが楽しみでした。スダチと炭酸水のスカッとする汲み出しで喉を潤し、味わいのある茶碗に見惚れていると、後で大野鈍阿作と伺いました。
二階の茶室へ席入りすると、「笑 相見呵々」の御軸、いつもは力強い太玄和尚の御筆がその日は優しい笑みに溢れているように見えました。最近、茶事で「笑い」の大事なことを痛感したことがあり、この御軸にご亭主の「笑いのある楽しい茶事」への想いを感じて、とても嬉しゅうございました。
床には小さな赤い実をつけたジュズサンゴが柄付籠のような花入に生けられていました。花入がアイヌの柄杓と伺って珍しいけれど素朴な花入に野性的なジュズサンゴが好くお似合い・・・と感心しました。
(ジュズサンゴの花がアイヌの柄杓に)
ロシアの細密画の香合、漆絵の細密画にイコンを重ね、香合を惹きたてている美しい綺羅の仕覆(印度)が相客のUさまのお仕立てと聞いて嬉しかったです。「忘れずにお尋ねできて良かった!」と正客として安堵し、裂地のお話しするUさまのお顔が輝いて見えました。
点前座の水指(ジノリ イタリア)を拝見した途端、雲間を飛び交う飛行機の楽しい絵柄とユニークな形に「あっ!これが世界の旅の茶事で使いたかったものね」とすぐに思いました。
(点前座・・・水指はジノリ(イタリア) (↑クリックしてね)
そして、遠州旅日記が貼られた風炉先屏風、遠州公がそこにいらして茶室と空間を引き締めていたようにも思いますが、茶室の様子を心配しながら(又はニコニコしながら?)見ていたのかもしれませんね。
小堀遠州流のお点前を拝見する度に、濃茶を美味しく点てるための魔法のようなお点前と思いながら、裏千家流とは違う所作の一つ一つに魅入りました。特に帛紗や茶巾のたたみ方、茶入や茶杓の清め方が全く違うので興味津々でした。
ガレを連想する葡萄模様のガラス茶入(新倉晴比古造)から竹の節が多い茶杓(そのように見えました 寛州老師の銘「華栄」)で濃茶が掬われました。
やがて馥郁とした香りと共に濃茶が出し袱紗と共に出され、自分の古袱紗を使って裏千家流の仕方で濃茶を頂きました。
まろやかに練られた濃茶は甘味が残り、美味しゅうございました。茶銘を伺うと、「蓬莱山」(松尾園)とのこと、初めて頂いたように思います。
満月のような主菓子「水月」(末富製)も珍しくつるりと頂戴しました。
濃茶の茶碗は李朝でしょうか。繊細な金継ぎに風にゆれる尾花を想いながら頂戴しました。各服点で次々と古格のある茶碗が出て来て眼福でした。
古曽部焼、古萩、李朝刷毛目、出雲焼が印象に残っていますが、次々と出されたので全部は覚えきれません・・・。
階下のガラス張りのリビングでの懐石の時間も美味しく楽しかったです。いろいろお話が弾み、次々と、笑顔と共に手際よく供されるお料理の数々に、一同びっくりするやら、舌鼓を打つやらでした。
最初の膳のトマトの汁が斬新で、ひろうす・小カブ・オクラの炊き合せ、松茸御飯、柔らかいステーキが美味で特に印象に残っています。
きっとご亭主様は汗を拭く暇がないほど忙しかったと思うのですが、そんなことを感じさせない素敵な笑顔にSKさま流おもてなしの真髄を見た思いがしました。
本当に美味しく、ご馳走様でございました!
中立のあと、再び二階の茶室へ席入りすると、襖を開けた途端、
「あっ!!」と大きな叫び声が出ました。正面点前座には長板に背の高いガラスの水指が置かれ、ボールのような氷が浮いていました。
床には、中国奥地の少数民族のパッチワークの額が掛けられ、何と形容して良いやら、細長いオブジェに青い蜜柑が一つ枝もたわわに生けられていました。
後でお伺いすると、圧倒的な存在感を放っているガラス水指はバカラ(ステキ! 垂涎でした)、そして花器は帝国ホテルを設計したロイドフライト作の鉄製オブジェと嬉しくお聞きしました。
小堀遠州流の氷点前で頂戴した薄茶がとても美味しく、喉を潤し、お代わりをしてしまいました。代点されたIさま夫妻も各服点やお代わりいっぱいで大変だったと思いますが、美味しいおもてなしをありがとうございました。
また、詰Fさまには随所でお世話になり、とても頼もしい詰(半東?)でございました。
どうぞよろしくお伝えくださいませ。
最後に、皆様の世界旅行の物語りをお伺いできたことも「世界の旅から」茶事の好き思い出になっています。
笑顔が溢れる温かなSKさま流おもてなしが忘れられません・・・そして気の置けないご連客の皆さまとの素敵な一座建立も今なお心に残っております。
本当にありがとうございました!
拙い正客でございましたが、これに懲りずにお付き合いくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。 かしこ
令和六年 菊月吉日 暁庵