とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

安倍公房「鞄」①

2017-07-03 18:48:19 | 国語
 安倍公房の「鞄」が高校現代文の教科書に載っている。この「鞄」について考える。その1回目。

【問題1】
青年は求人広告が出て応募してくるまでなぜ半年後もかかったのか。半年間何をしてきたのか。

【問題1の考察】
 青年の言葉によると、
「さんざん迷ったあげく、一種の消去法と言いますか、けっきょくここしかないことがわかった」
 ということである。半年間迷っていたから、応募に時間がかかったということになる。

 では何を迷っていたのか、
「この鞄のせいでしょうね。」
 と、鞄のせいで迷っていたという。そして、
「ぼくの体力とバランスが取れすぎているんです。ただ歩いているぶんには、楽に運べるのですが、ちょっとでも急な坂だとか階段のある道にさしかかると、もう駄目なんです。おかげで、運ぶことのできる道が、おのずから制約されてしまうわけですね。鞄の重さが、ぼくの行き先を決めてしまうのです。」
 と言う。鞄の重さによって行動範囲が制限され、制限された自分の範囲内で求人を出していたのがこの会社しかないために応募したという主張である。鞄を持った自分の行動範囲を確かめるために半年かかったことになる。

 するとその鞄を持たなければいいのではないかと誰もが考える。そこで
「なぜそんな無理してまで、鞄を持ち歩く必要があるのか・・・・。」
 と「私」がたずねると、
「無理なんかしていません。あくまで自発的にやっていることです。やめようと思えば、いつだってやめられるからこそ、やめないのです。強制されてこんな馬鹿なことができるものですか。」
 と答える。ここに大きな論理的な問題が生じている。

「この鞄をもつのをやめようと思えばやめられるからこそ、この鞄をもつことをやめない。」
という、この理屈は成立するのか。あきらかに無理がある。無理があるが、人間として思い当たることがないわけでもないからこそ、否定しきるわけにはいかないテーゼである。

「いつでもやめらるからこそ、やめない」もの我々の身近に何があるだろうかを考えてみよう。(宿題)
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