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現代文の参考書シリーズ 時間論5【円環的時間観と日本思想】

2017-08-10 14:25:45 | 現代文の参考書
 古代における時間観は円環的と説明してきました。それは様々な文芸作品にも表れてきます。日本文学においては、「もののあはれ」「栄枯盛衰」などの言葉によって表されています。

 『源氏物語』は最初は光源氏の栄華を極めるまでのサクセスストーリーのように思われます。もしそうだとしたら直線的な時間の物語と言ってもいいかもしれません。しかし次第にそうではなくなっていきます。光源氏の晩年は、女三宮の不義があり、また紫の上とも死別するなど、あまりうまくいっていないと言ってもよい。しかも宇治十条はもはや突破口を失い、同じところをぐるぐる回っているような展開となってしまっている。あきらかに現代的なストーリーとは違っています。

 物語論には貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)という類型があります。貴種流離譚とは若い神や英雄が他郷をさまよいながら試練を克服した結果、尊い存在となるとする説話の一類型のことです。自分のいた場所から、物理的にぐるっと一周回ってくると偉くなっているという物語のパターンです。『源氏物語』では須磨・明石のあたりがそのパターンになっています。これも円環的時間による物語展開と言ってもいいでしょう。

 『奥の細道』における冒頭の文句、
「月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。」
も、あきらかな円環的時間観をしめしています。

 このように古代の人間は円環的な時間を自らの根本に持ちながら生きていたのはあきらかですし、その思想を抜きにして古典文学を語ることはできません。現代を相対化する意味においても重要な視座であることは明らかです。
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