大人コドモ大臣が、「セクハラ罪という罪はない」と口をキレイな角度で歪めた。
確かにない。その点では正しい。
しかし、セクハラは訴えられたら「罪」になる場合がある。他にも「侮辱罪」「名誉毀損罪」などの犯罪構成要件にはなる。
政治家として、勉強不足だ。
これは、たとえば、小学生のガキが女子のスカートをめくったあとで「スカートめくり罪なんて、ないもんね!」(大人だったら強制わいせつ罪の構成要件にはなる)と、虚勢を張って言っているのと同じである
お子ちゃま太郎。
他に、昨年あたりかららしいが、電車の女性専用車両に、意図的に乗り込む男の集団が増えてきているという。
男は、満員電車で苦労しているのに、女は専用車両で守られている。男女差別ではないか、というのが言い分のようだが、論点が大きくズレている。
そもそも女性専用車両を作ったのは、朝の通勤ラッシュで、異常に痴漢が多かったための措置である。
痴漢は、犯罪だ。その犯罪抑止のために専用車両を作ったことを彼ら男たちは完全に忘れている。
何でも自分に都合のいいように解釈して、男が長年に渡ってしてきた「卑劣な行為」を忘れる愚か者たち。
そんな人たちは、たとえば、自分の妻や娘が痴漢にあっても平然としていられる「無神経で無自覚な人たち」なのだろう。
想像力がなく、自分の権利しか主張しない人。
つまり、お子ちゃま太郎。
新宿御苑近くの得意先に、最近途中入社で、大変個性的な男性が姿を現した。
その会社は、マーケティングと企画編集をする会社だった。
私が仕事をいただく部署は、編集部だ。
昨年の11月に初めて会ったとき、いきなり「あんた、年はいくつ?」と聞かれた。その時点で、無礼である。
名刺交換するときは、はじめまして、よろしくお願いします、と頭を下げ合うのが普通だと思う。
私が年を言うと、「ああ、僕より年上ね。僕、43歳。まあ、仕事に、年は関係ないからね」と、口を歪めて言った。
仕事に年が関係ないなら、なぜ年を聞いた? 自分の言葉の矛盾に気がついていないようだ。
男の苗字は、クレバヤシ。
「さん」を付ける価値もないので、ここでは、敬称略。
クレバヤシは、極めて個性的な考えを持っていた。
「僕は、生まれたときから自民党しか認めていないんだよね」
つまり、自民党の盲信者だ。
「自民党は、いい政党なんだけど、女の議員はいらないね。自民党が男ばかりだったら、僕はもっと応援するよ」
「共産党の女議員なんか、●●しちまえばいいのに」(あまりにも過激な表現なので書けない)
「とにかく、社会を引っ張るのは、男。女は陰で静かにしていればいいんだよ」
クレバヤシは、そんなことを言っていた。しかし、編集部には7人の社員がいたが、笑えることに、クレバヤシ以外は、みな女性である。編集長も女性だ。クレバヤシより年下の30代後半。
クレバヤシは、自分より年下の女性上司に指図されるのが、お気に召さないらしい。編集長に仕事を指示されたとき、クレバヤシは無言で口を歪めるだけだという。
この会社の社長の澁谷氏は、人格者である。20年近く前から、お付き合いをしていただいているから、彼の度量のでかさは、熟知していた。
澁谷社長に、あのクレバヤシを何で採ったんですか、と私はストレートに聞いた。
「Mさんが、そんな言い方をするのを初めて聞きました。よほど腹に据えかねているのですね」と高速で瞬きを繰り返しながら、私の顔を見た。
知ってますか、社長。クレバヤシは、毎日、同じ部署の女性の洋服をけなしていたんです。編集長ほか5人の私服を「全然似合ってないね」「ただ流行にかぶれているだけだね」「おのれを知っていたら、そんな格好はできないはずだ」などと言って、女性社員に不快な思いをさせていたのです。
だから、女性社員たちは、編集長も含めて、会社に来ると、私服から上下ジャージに着替えて仕事をしています。お客さんと応対するときは、私服に着替えますが、クレバヤシの前では、いつもジャージです。これって、異常ですよね。
「僕の耳にも入っています」と澁谷社長。
「でも、詳しいことは言えないのですが、クレバヤシにも、わけがありまして・・・」と何か苦いものを飲んだような顔をして、澁谷社長は、私に頭を下げた。
ワケありの男か・・・・・。
人格者の澁谷社長がしていることだから、明確な理由があるのだろうと思って、私は、それ以上言わなかった(澁谷社長に頭を下げさせたことに関しては反省している)。
今週の水曜日。
編集長と仕事の打ち合わせをした。
以前は、私と打ち合わせをするときは、ジャージから私服に着替えていたが、私が、編集長以下女性陣は、ジャージ姿でもお美しいので、そのままで、と言ったら、編集長は「ウォッホ!」と豪快に笑って、ジャージ姿のまま打ち合わせをするようになった。
編集長の隣の席には、クレバヤシがいた。
クレバヤシは、仕事はできる人らしい。だから、澁谷社長も彼を雇ったのだろう。業界歴20年のベテランさんだ。
ルックスも態度も忌々しいやつだが、確かに、私との2回の仕事は、今までスムーズに進行終了していた(女性編集長の陰ながらのフォローがあったからだと思うが)。
打ち合わせの前に、編集長みずから、私にコーヒーを淹れてくれた。
そして、編集長も自分の前に、コーヒーを置いた。
それを見たクレバヤシが、「おーい、誰か、僕にコーヒーを」と言った。
これは、毎回の光景だ。
この部では、飲み物は、各自が飲みたいときに、自分で用意するのである(あたりまえだのクラッカー)。
私は外部の人間だから、編集長が淹れてくれたということ。お・も・て・な・し。
しかし、クレバヤシは、いつもいつもいつもいつもいつも同じように、抗議するのである(最終的に、クレバヤシは近所の自販機で飲み物を買って来るようだが)。
だが、このとき、クレバヤシは、今まで言わなかった「チェッ! だから、女ってやつはよー」という言葉を吐き出したのだ。
その言葉にイラッと来た私は、「あのね、いっとくけどね、部内のルールは守ろうよ。みんな、自分でお茶やコーヒーを淹れてるんだから、君もそのルールに従うのが常識ってものじゃないの」と言った。
それに対して、クレバヤシは、「お茶は、どこの会社でも、女が淹れるのがルールだよ」と言ったのだ。
ワオッ!
どこの会社でもって、その会社はどこ?
「全部でしょうが!」とクレバヤシ。
君ね・・・・・そもそも、君がそんな態度だから、みんな着たくもないジャージを着て、普通なら和気あいあいとして飲みたいティータイムを味気ないものにしているんだよ、わかっているのかね。
「チェッ! 何を偉そうに・・・仕事をもらう立場がわかっているのか!」
そう言われた私は、編集長に向かって、編集長、今の言葉は、パワーハラスメントです。私は、澁谷社長のところに言って抗議しようと思います。編集長、証言していただけますか、と言った。
編集長は、「わかりました」と言ってくれた。
ふたり同時に立ち上がった。
そのとき、クレバヤシに両手で肩を強くつかまれた。
おや? 今度は暴力ですか?
クレバヤシの目が血走っていた。
そのとき、クレバヤシの両腋が完全に空いたのに気づいた私は、咄嗟にクレバヤシの腋をコチョコチョした。
しかし、私のお茶目な攻撃は無駄だったようだ。
「なにすんだよ!」と叫んで、クレバヤシは、両手にさらに力を込めた。
あらら、目がさらに険しくなりましたよ。やっぱり、冗談の通じないやつだったか。
私は、睨まれるのが好きではない。しかし、睨み返すのは好きだ。
だから、私は肩を掴まれたままクレバヤシの目を睨み据え、目の奥まで突き刺すようにして、目から炎を出しながら言った(星飛雄馬? たとえが古い)。
小僧ォ! 俺を怒らせるのか。君に、その度胸があるのか。
俺は、これから一生、君に頭を下げない。
君がもし俺に仕事をくれると言っても俺は断固拒否する。
さあ、俺が、この部屋を出るか、君が、この部屋を出るか、どっちだ!(指の骨ポキポキ、ついでに首もボキッボキッ)
「チェッ」と言って、クレバヤシが血走った目のまま部屋を出ていった。
ここにも、お子ちゃま太郎。
そして、残念ながら、私もこらえ性のない「お子ちゃま太郎」。
(本当の大人は、小僧の言うことなど聞き流しますからね)