リスタートのブログ

住宅関連の文章を載せていましたが、メーカーとの付き合いがなくなったのでオヤジのひとり言に内容を変えました。

浴衣のふたり

2018-08-12 06:49:00 | オヤジの日記

6月のことだった。娘に「今年の誕生日プレゼントは、浴衣を2枚くれたらありがたい」と言われた。

そのときは、まだそれほど浴衣が店頭に並んでいなかったので、7月中旬に娘と一緒に店に行って、浴衣を2枚選ばせた。

なぜ、2枚も欲しがったのかと思った。いつもは、1枚なのに。今年は、何度も浴衣を着る予定があるということだろうか。

そう思っていたら、今週になって、その理由がわかった。

「ミーちゃんが、金沢から帰ってくる。4日間の夏休みだ。2人で浴衣を着て出かけたいんだ。着付けを頼んだぞ」

わかった。任せなさい。薄い胸を叩いた。

 

今でこそ、薄い胸を叩けるが、最初は大変だった。

娘が小学3年のとき、仲良しのお友だちが、2学期で転校することになった。そこで、思い出づくりに夏祭りに浴衣を着て行く運びになった。

「浴衣を着せろ」と言われた。

(我が家の息子と娘は、頼みごとがあるとき、ヨメではなく必ず私に頼む。その理由は聞いていない)

さー、困ったぞ。浴衣といえば、私の中にあるイメージは、旅館の浴衣だ。しかし、女の子が夏祭りに出かけるときの浴衣は、絶対にそれではないはずだ。

私は、娘を連れて着物屋に行った。幸い娘の気に入った柄の浴衣があったので、一式を買った。そのとき、店員さんに、浴衣の簡単な着付け方を聞いた。

「お父さまが、やられるんですか?」と店員さんが、まんまる目で私を見た。

もしかしたら、父子家庭だと思われたのかもしれない。憐れに思われたかもしれないが、そのあと丁寧に教えていただいた。

一応教えていただいたが、世界で2番目に不器用な私には、かなりハードルが高かった。30分間の悪戦苦闘があった。結果的に、ごまかせる程度のレベルにはなったが。

 

夏祭りの日。

娘に浴衣を着つけた。着物の上下を慎重に整えてから、上半身を紐で固定する。これで、20分以上。帯は、ひねったり止めたり、微調整しながら、最後にリボンを作った。リボンが左右対称にならず、しかも曲がってしまったが、もう時間がないので、ちょっとブサイクだけど、我慢してな、と娘に謝って送り出した。

きっと途中で、着物がはだけたり、帯がほどけたりすると思ったから、着替え用の普段着も持たせた。

夏祭りから帰って着た娘は、普通に浴衣を着ていた。着物の襟がややはだけていて、帯はさらに曲がっていたが、完全崩壊はしなかったようだ。

安心した。

 

それからのち、娘には、なるべくキレイに浴衣を着てもらいたいと思った私は、翌年、市民センターで開催された「浴衣の着付け方講座」に通った。先着10名様で、受講料は千円。時間は2時間。私は、その講座をビデオに撮った。そして、それを家のパソコンでキャプチャーして、Adobeプレミアという編集ソフトで15分にダイエットした。それを毎日見てイメージトレーニングを重ねた。

その努力の甲斐あって、娘が小学4年から高校3年までの着付けは、恥ずかしくないものになった。

娘の大学時代は忙しくて、浴衣を着る機会がなかった。だから、今回5年ぶりの浴衣になる。着付けを忘れていないか、心配だ。

一応、イメージトレーニングは何度もした。

しかし、それは杞憂だった。5年くらいでは、人間は覚えたことを簡単に忘れない生き物のようだ。

 

ミーちゃんは、木曜日の夜にやってきた。いきなり夜食(焼き塩鮭一尾で、3杯のどんぶりメシを食べた。ミーちゃんは、お腹がすくと眠れないタイプだ)。

金曜日と土曜日は、朝の10時から着付けにかかった。ミーちゃんには、中学三年のときに浴衣を着せたことがあったから、8年ぶりだ。「パピー、腕を上げたね」と褒められた。

ふたりは、金曜日はお台場、土曜日は、六本木、麻布十番をぶらついた。六本木では、外国人観光客に「写真を撮ってもいいか」と聞かれたらしい。英語の得意なふたりは、ここぞとばかりに、自分の語学力を試した。

外国人に「エクセレント、アンド、ソーキュート」と感嘆されたという。お世辞だろうが。

 

夕方に、恵比寿で合流した。ミーちゃんが、恵比寿でラーメンが食べたいと言ったのだ。

どこで食おうが、ラーメンはラーメンだと思うよ。

「でも、私、恵比寿に行ったことがないから。このまま金沢に永住なんてことになったら、一生恵比寿には行けないからね」

わかりました。だが、私は外でラーメンを食う習慣がないので、ラーメン屋のことは何も知らない。ただ、恵比寿自体は中目黒に住んでいた昔から、庭のようなものなので、路地は熟知していた。

4分歩いて、ラーメンを食わせてくれそうなラーメン屋さんをすぐに見つけた。ラーメン屋さんにしか見えないラーメン屋さんだった。

入った。

券売機でチケットを買った。ミーちゃんは、とんこつラーメン。娘は、チャーシューメン。私は、餃子と生ビールを頼んだ。ミーちゃんの好きな大盛りライスは、その都度頼んで、最後に清算するシステムだった。

最近、ミーちゃんは、ラーメンをおかずにしてメシを食うことにはまっているらしい。インスタントラーメンをつくって、その上に茹でたもやしをのせる。そして、小皿にはハム。

ラーメンを一口二口食って、メシをかきこむ。ラーメンの塩加減が米に絶妙に合うというのだ。あとはラーメンすすって、メシの繰り返し。味を変えたいと思ったら、ハムをかじって、またメシ。その方式で、どんぶりメシを3杯食うという。

本当は、メシはもっと食えたが、食い過ぎると赤字になるので3杯で我慢しているらしい。

しかし、今日は、心置きなく食っていいぞ。

 

「いえーい、幸せ!」

 

1杯目は、瞬く間になくなった。2杯目おかわり。2杯目は、1杯目よりも盛り方が大きかった。おそらく、1杯目は店の人が華奢なミーちゃんを見て、調整してくれたのだと思う。

しかし、1杯目の食いっぷりを見て、普通の大盛りにしてくれたのだ。

ラーメンをすすったあとで、ご飯をガツガツ。たまに味を変えるために、娘が自分のチャーシューをミーちゃんのどんぶりにのせる連携プレー。そのとき、娘が、普段は食べないチャーシューメンを頼んだわけがわかった。娘は、ミーちゃんのサポーターだったのだ。

そんな風にして、ミーちゃんは、6杯の大盛りライスを食った。本当は、もっと食えたが、浴衣の帯がきつくなりそうなので、諦めた。

ライスの勘定をしようとしたとき、厨房の男の人から、「お代はいただきません。いいものを見せてもらいました。そのお礼です」と言われた。

ゴチになります。

そのあと、娘ふたりを見て、店の人が聞いてきた。「双子さんですか」

我々3人は、躊躇することなく、「そーです」と答えた。

(ふたりは、本当によく似ていた。ただ、本田圭佑氏とじゅんいちダビットソン氏ほどの違いはあったが)

 

今日の昼間の北陸新幹線で、ミーちゃんは帰る。

新幹線の中で食うために、普通の3倍以上の大きさの握り飯3つと、でかいメンチカツ2つを持たせることにした。本当は握り飯はもっと作れたが、荷物が重くなるので、ミーちゃんが「3つ」と言ったのだ。

 

昨日の夜、ミーちゃんが、とても嬉しいことを言った。

「最近、軽いホームシックなんだよね。でもね・・・このホームというのは、自分のうちのことじゃないから。パピーのうちのことだから。また正月休みに帰ってきてもいい?」

 

 

泣いた。