リスタートのブログ

住宅関連の文章を載せていましたが、メーカーとの付き合いがなくなったのでオヤジのひとり言に内容を変えました。

旦那様は何者?

2018-08-19 07:08:00 | オヤジの日記

ブライアンが、いきなり「おひさしブリーフ」で出迎えてくれた。

土俵入りの型は、私が教えた通りだった。

 

ブライアンは、極道コピーライター・ススキダの一人娘の旦那だ。

カナダ人。モントリオールで警察関係の仕事をしていた。

私は、彼のことを「ブラちゃん」と呼んでいた。ブラちゃんは、私のことを「サトルゥ」と呼んだ。

私が「おひさしブリーフ」返しをすると、ブラちゃんは、格闘技選手のようなゴツイ体を寄せてハグをしてきた。

一年ぶりの再会だ。

 

ブラちゃんに初めて会ったのは、5年前の暮れのことだった。武蔵野のオンボロアパートで家族の晩飯を作っていたら、ススキダから電話があったのだ。

「いま新宿の料理屋で忘年会をしているんだが、出てこないか」

私は即座に、断る、と答えた。

しかし、ススキダから「店の人がな・・・いい牡蠣が大量に入荷したって言ってるんだ。今年一番の上物らしい」という話を聞いて、態度を変えた。

行ってやることに、やぶさかでない。

 

料理屋の仲居さんに、部屋に案内された。戸を開けると、白人の姿が、すぐに目に入った。それも、筋肉質のキン肉マンだ。

「紹介しよう。俺の娘の旦那さんだ。ブライアンという」とススキダが、私をキン肉マンの隣に押し込んだ。背は6フィートの私と変わらないが、体全体から溢れ出す圧迫感が半端ない。こんな奴とハグはしたくない。壊される。

そう思ったら、0.2秒で抱きしめられた。優しいハグだった。しかし、この程度のことじゃ、惚れないぜ。

このときの面子は、ススキダ夫妻と娘さん夫妻、そして、娘さんのガキだった。

ガキは、日本でも海外でも通用するような名前を付けたという。キラキラネームに近いかもしれない。

キラキラネームに関しては、批判的な人が少なからずいる。だから、ガキの名前は伏したい。

私にとっては、ガキよりもカキ。

おかわりの連続。ススキダたちは、コース料理を食ったが、私はこのとき、牡蠣しか食わなかった。絶品でした。

 

ススキダの娘さんは、五流大学出のススキダと違って、大学はアメリカのボストンに入った。そして、卒業後、カナダの大手セキュリティ会社に就職した。1年後、そこで、警察から研修に来ていたブライアンと知り合った。

ブライアンの一目惚れだったという。娘さんも好青年のブライアンを好ましく思っていたから、結婚までの道のりは、一年足らずの短さだった。

ブライアンは、警察関係の仕事をしているといっても警官ではないらしい。ススキダ夫妻は、ブライアンが何をしているか知っているようだが、私には教えてくれない。他人には教えられないヤバイ仕事なのかもしれない。

ミッション・インポッシブル?

 

5年前のブラちゃんは、カタコトの日本語しか話せなかった。そして、私の英語もカタコトコストコ。

我々2人の会話は、カタカタコトコトしか通じなかったが、それでも不思議なもので、コミュニケーションは成立した。

ブラちゃんがカタコトで言う。ブラちゃんは、7年前(その時点では2年前)に結婚式を日本であげるために、初めて来日した。花嫁は、すでに日本に帰っていて、成田空港に迎えに来ることになっていた。

入国ゲートで、ブライアンは花嫁の姿をすぐ見つけ、花嫁をハグした。しかし、花嫁に「キャー!」と叫ばれた。

「誰よ、あんた!」

人違いだったのだ。よく見ると、全然違う人だった。ブライアンは、とても目が悪かったのだ。おバカなブラちゃん。

「なげらるそに、なました」(注)「殴られそうに、なりました」

 

そのとき私は、おバカなブラちゃんに、日本のギャグを伝授した。

バイキング小峠英二氏の「なんて日だ!」とイヤミ氏の「シェー」だ。

「なんて日だ」は、すぐに覚えた。しかし、「シェー」は、手と足の動作が、なかなか覚えられなかった。手は合っていても足が合わない。今度は、足が合ったら、手が合わないというループ状態。見かねて、ススキダの娘さんが、英語で丁寧に説明したら、一発でできた。

おや? 私の英語がダメだたたたたてことすかい?

 

それ以来、ブラちゃん一家が、日本にやって来ると、必ず私も食事の席に呼ばれるようになった。2年目からは、ブラちゃんが、夏の方が休暇が取りやすいというので、8月の開催になった。

場所は、いつも新宿の料理屋だった。ススキダのフランチャイズは横浜だが、横浜は私にとっては距離的な負担がある。そこで、私が行きやすい新宿にしてくれたのだ。

優しすぎるススキダ。おまえ、まさか賞味期限が37年過ぎた、みたらし団子を食ったんじゃないだろうな(酒の飲めないススキダは、甘いものが大好きだ。特にみたらし団子が。好きすぎて、みたらし団子専門店を出すことを考えているようだ)。

 

という、どうでもいい話は、すっ飛ばして、私は、毎回ブラちゃんに日本伝統のギャグを教えた。

2年目は、オードリー春日氏の「おにがわら!」とダンディ坂野氏の「おひさしブリーフ」。3年目はタカアンドトシ氏の「欧米か!」とツッコミの「なんでやねん!」。4年目は、近藤春菜氏の「マイケル・ムーア監督じゃねえよ!」とスギちゃんの「ワイルドだろ〜」。昨年は、三瓶氏の「三瓶です」と大西ライオン氏の「心配ないさー」だった。

勉強熱心なブラちゃんは、真剣に覚えて、ものにしてくれた。「おひさしブリーフ」は、カナダの同僚にも受けたという。土俵入りのポーズが面白いらしい。だから、これは、ブラちゃん一番のお気に入りギャグだ。

 

今年は何を伝授しようか迷ったが、王道をいくことにした。

ビートたけし氏の「コマネチ!」と志村けん師匠の「だっふんだ!」だ。

コマネチは、手の角度が大事だよ。「その角度は何?」とブラちゃん。最近のブラちゃんの日本語は、急速な進歩を遂げていた。ほぼ日本語で会話が成立するレベルだ。若いっていいな。ちなみに、ブラちゃんの年は、サーティシックス。

ところで、話はやや脱線して・・・。

ススキダ一家は、トライリンガル一家だ。ススキダ夫妻は、日本語、英語、中国語が話せる。ススキダの娘さんは、日本語、英語、フランス語が話せる。そして、ブラちゃんは、英語、フランス語、スペイン語が話せる。日本語を加えたら、クァドリンガルになる。

極道一家は、インターナショナルなのだ。

私は、猫語と日本語しか話せないから、チョット足りない。

 

話を戻して・・・私は、ブラちゃんに、その角度は、体操着の股の角度なのだ。この角度は一定でなければならない、と教えた。

「どんなときに使うの?」

人の話を遮りたいときとか意表をつくときかな。

「意表をつく? ホワット?」

アネスペクテッ。

「ダッフンダ」は、顔が重要である。両目を寄せて下唇を出し、人をバカにしたような顔で言うのだ。

「どんなときに使うの?」

人に悪さをして、人から責められたときに、人を一瞬にしてパニックに陥らせる魔法の言葉だよ。

6回目となると、ブラちゃんの飲み込みも早い。すぐ覚えてしまった。

少々物足りなさが残った私は、ブラちゃんに、もう1つの言葉を教えることにした。

だが、これはギャグではない。安室奈美恵先生のご引退を惜しみつつ、ブラちゃんに伝授しようとしたのだ。

 

「安室ちゃ〜ん!」

 

いいかい、ブラちゃん。これは偉大なアーティストが引退するときに叫ぶ言葉だ。

たとえば、アリアナ・グランデが引退するとしよう。そうしたら、みんなで「安室ちゃ〜ん」と叫ぶのだ。それが、日本のしきたりだ。

私がそう言うと、ブライアンが、柔和な目を作って言った。

「サトルゥ、それは、間違っているヨー。それは、歌手の安室奈美恵のことだよね。まりあ(ススキダの娘さん)は、昔から安室奈美恵が大好きで、それにつられて、僕も大ファンになったんだ。東京ドームでのラストライブには、2人で行ってきたよ。感動したね」

あら? そうなん? カナダからわざわざザワザワ?

 

しかし、よく、チケットがとれたね。まさか、特別なコネクションを使ったとか?

 

私がそう言うと、ブラちゃんが、不気味なウインクを投げかけ、人差し指を口の前に立てた。

 

 

ブライアン、あんた、いったい何者?

 

(聞かない方がいいか)