リスタートのブログ

住宅関連の文章を載せていましたが、メーカーとの付き合いがなくなったのでオヤジのひとり言に内容を変えました。

日本全国どこにでもいるバカ

2019-06-09 05:36:00 | オヤジの日記

パーで叩くか、グーで殴るか。

 

今週の火曜日、東京神田のイベント会社に打ち合わせに行ってきた。

担当者は、中村獅童氏似のチョイ強面だ。

いつもながら、仕事の話の前に雑談を。

「久しぶりに、うちに新卒が入ってきた話しましたよね」

知っている。英語と中国語が話せる即戦力だ。声が小さいことだけが唯一の欠点で、仕事の飲み込みが早く、フットワークも軽い掘り出し物だという。

「でも、アクシデントがありましてね」と獅童氏似が、右手で頭をかきむしった。そして、ため息。

獅童氏似の会社は研修期間が、1ヶ月と短い。研修が終わったら、すぐに実践だ。新人さんは、獅童氏似の班に組み込まれた。

しかし、ここでアクシデントが起こったという。新人歓迎会だ。

先週の金曜日、新人のオバタさんのために、歓迎会が開かれた。場所は、会社の会議室。獅童氏似が勤める会社では、歓迎会に限らず、新年会、忘年会は会議室でとり行われる。

幹事が、酒や食い物を揃えて、会議室で1時間だけ開かれる。

 

獅童氏似の部署は、班ごとに分かれていた。班は全部で5つ。それぞれの班は、リーダーの名前を付けて呼ばれる。例えば、獅童氏似の班は「中村班」というように。

他に、「フビライ班」「舞妓班」「天津班」「ひょっこり班」があった(嘘だろ)。

「ひょっこり班」は、遊軍だ。他の班で手が足りない場合、ひょっこりと現れて、助ける役目だ。新人は最初は、「ひょっこり班」に配属され、適性を見たのち、どこかの班に配属される。オバタさんは、獅童氏似の班がいいと判断されたようだ。

 

歓迎会。

乾杯のあと、日本社会の悪しきしきたりとして、「新人が先輩にお酌をする」という時代錯誤の光景が繰り広げられた。

獅童氏似は、私と同じで、そういうのが嫌いだ。

「行かなくていいから」と止めたが、新人のオバタさんは「形だけでも」と言って、フビライ班、舞妓班、天津班、ひょっこり班のテーブルを回った。

そして、お決まりの「お前も飲めよ」だ。

オバタさんは、酒は強くもなく弱くもなくという程度だったらしい。普段、酩酊するほどは飲まないという。

5つのテーブルを回って、グラス9杯のビールを飲まされた。30分足らずで9杯である。子どものころから「中目黒の底なし」と言われた私には、ちっとも応えない量だが、多くの人にとっては、確実に脳から足にまでアルコールが回る量だと思う。

危険だと判断した獅童氏似は、ちょうど、ひょっこり班のリーダーが、10杯目を注ごうとしたとき、グラスを取り上げた。

しかし、ひょっこり班のリーダーは、しつこかった。新しいグラスにビールを注いで、オバタさんの目の前に差し出したのだ。

 

「こういうときは、最初に世話になった俺のところに、真っ先に来るもんだろ。それが、社会人としての礼儀だ」

 

日本全国どこにでもいるバカ。

酒が楽しく飲めないバカ。

酒をマウンティングに利用するバカ。

 

覚悟を決めて、オバタさんは、グラスビールを一気に飲んだ。

そのとき、オバタさんの体が揺れた。獅童氏似が、支えようとしたが、オバタさんが崩れる方が早かった。

救急車。

急性アルコール中毒。

オバタさんは、病院で意識を取り戻した。しかし、倒れたときに左肘を強く打った。粉砕骨折だった。オバタさんは、今も入院していた。

 

次の日の土曜日、出社日だったので、全員が出社した。

ひょっこり班のリーダーも来た。

リーダーの姿を認めた獅童氏似は、早速応接室にリーダーを引きずり込んだ。

そして、平手で頬を叩いた。ひょっこりは、抵抗しなかった。むしろ、「ゴメン」と謝った。

だが、獅童氏似の怒りは、収まらない。

ひょっこりの方が、1つ年上だったが、獅童氏似は、「ひょっこり」と呼び捨てにした。

「あんた、どのツラ下げて、今日会社に来たんだ。2回目だぞ、何人うちの社員を潰せば気がすむんだ。帰れ、とっとと帰れ!」

応接室は、曇りガラスで囲まれただけの簡単なものだった。その怒鳴り声は、当然のことながら、事務所全体に響き渡った。

そのとき、部長が出社してきた。歓迎会には、上司は参加しないしきたりがあったので、部長は現場にいなかった。だが、獅童氏似に報告を受けていた。

応接室に顔を出した部長が言った。「ひょっこり、今日から3日間自宅謹慎だ。だから、帰ってくれ」

 

そして、部長は社員全員を集めた。

部長が言う。「ひょっこりには、厳罰を加えたが、悪いのは、ひょっこりだけではない。オバタに酒を飲ませた人は、正直に名乗り出て欲しい」

正直に9人が名乗りをあげた。9人にはペナルティが課された。ひょっこりを含む10人で、オバタさんの入院費、治療費を折半で支払うように言われた。

そして、今後、歓迎会、忘年会、新年会は、永久に中止することが告げられた。

 

「酒は怖いっすねえ」獅童氏似が、大きなため息をついた。

違いますよ。酒は怖くない。人が怖いんです。バカが怖いんです。

重苦しい雰囲気の中で、打ち合わせをした。

私は、そういう空気が苦手なので、獅童氏似に「ホットコーヒーが飲みたいですねえ」とおねだりをした。

5分11秒後に、私の前にホットコーヒーが置かれた。獅童氏似は、コーラっぽいものを手に持っていた。

 

たとえば、他人に、俺の入れたコーヒーが飲めないのか、って強制する人っているんですかね(カフェイン苦手なんです)。俺の作った味噌汁が飲めねえのか(塩分控えているんで)。俺が買ってきたタピオカドリンクが飲めねえか(カエルの卵みたいで気持ち悪くて)。今搾ったばかりの牛乳が、なんで飲めねえんだ(低脂肪乳でなくちゃイヤだ)。

 

俺の酒が飲めないのか!

不思議ですよねえ。酒のときだけ、日本全国どこにでもいるバカは、本当のバカになる。

酒の強要を受けて、今まで何人の人が命を落としただろう。逃げろ、というのは簡単だが、日本全国どこにでもいるバカは、バカだから、自分が悪いことをしていることに気づいていない。

つまり、自覚がない。それが、パワハラ、虐待だということに気づかない。自覚のないバカほど危険な生き物はいない。

こんなことを言ってはいけないだろうが、獅童氏似の会社にも、そんな日本全国どこにでもいるバカが最低10人いたということになる。

私は、そんな酒強要場面を自分が体験したら、相手の襟首掴んで引きずり回すという暴挙に出て、周りの空気を白けさせるのが趣味である。

テメエの汚ねえ酒なんか飲めるか!  控えおろう!

私がそう言うと、獅童氏似が頭を下げた。「俺の判断が甘かったんです。俺が嫌いなことを部下がやっているのだから、俺が責任を持ってやめさせるべきでした」

コーラを持つ手が震えていた。

 

私は、人を慰めるのが苦手なので、ピントのずれたことを言って、フォローした。

獅童氏似さんが、ひょっこりを叩いたのは、俺はいいと思いますよ。窮屈な考えの人は、暴力はいかん、と非難するかもしれませんけど、俺は応援しますよ。

ただ、獅童氏似さんは優しすぎる。俺だったら、グーで殴っています。しかも、腰の入った右フックを。

 

「Mさんだったら、本当にやりそうで怖いなあ。いま一瞬鳥肌がたちましたよ、ほら」

人の鳥肌を見るのは趣味ではないのだが、目の前にあったので、見てあげた。気持ち悪かった。

 

 

まあ、グーで殴るは、冗談ですけど・・・・・ハハハ。

(実は、今までに1発ありました。私は、人の酒の楽しみを奪うバカが、機雷帰来嫌いなんですよ)