テクニカルイラストの達人・アホのイナバと国立のバーミヤンで仕事の打ち合わせをした。
イナバ君は、夏風邪をひいたようだ。
マスクをしていらっしゃった。
しかし、何かがおかしい。マスクってワイヤーが入ってますよね。そのワイヤーで、鼻の形を調整するんですよね。鼻の部分、フニャフニャじゃん、と思ったら、口の下あたりにワイヤーの痕跡が。
上下逆につけたんだね、イナバ君。とても似合っているよ。
「最近、ボロ雑巾が、名前を間違えるんですよ」とアホのイナバが言った。
ボルゾイ犬だよー。
「僕が、モネって呼ぶとドガが来るんですよ。犬ってもっと賢いと思っていたんですけど、そうでもないんですね」
イナバ君の家では、ボルゾイ犬を二頭飼っていた。モネとドガ。どちらも気品のある美形だ。
2人が幼い頃から、私はイナバ君に画像を見せられていたから、見分けはつく。左耳の形で、簡単にわかるのだ。
イナバ君、モネの画像を見せてくれるかな。
スマートフォンで、画像を見せてもらった。
ああ、それ、ドガだねえ。じゃあ、ドガは?
ああ、それ、モネだねえ。
3年も一緒に暮らしていて、今さら間違えるのか。3年の蓄積は、どこにいった? 暮らしていない俺だって間違えないのに。
まあ、イナバ君らしくて、いいんだけどね。
「この間、紳士服のアオキに行ったんですよ」とアホが言う。
「3年ぶりに、靴下を買いに行きました」とアホ。
「ゴアシで1500円。まあ、リーズナブルですよね」
「でも、ゴアシで1500円って、何ですか」
ゴアシってなあに?
「だって、フタアシで1人分でしょ。ヨンアシで2人分ですよ。あとのゴアシは、片方しか履けないじゃないですか」
おまえは、何を言っているんだ?
一足という概念を知らんのか。
今年、48になる年男が、何を言う? 早見優。
イナバ君、人間の足は、左右でワンセットだよね。そのワンセットが一足なんだよね。要するに、左右揃ってヒトアシなんだ。
「でも、馴染みの靴屋さんでは、フタアシくださいって言うと、左右2つ持ってきてくれますけど」
それは、馴染みの店だから、君に恥をかかせたくないと思っているんだろうね。ちなみに、靴下も今まで馴染みのお店で買っていたんじゃないかい?
「はい、20年以上の付き合いの洋品店です」
みんな、優しいね。イナバ君は、幸せだね。
「ところで」とアホのイナバ。
「石垣島に別荘があるじゃないですか」
アホは、いつも唐突だ。
「僕、クルーザーが欲しいなって、奥さんにお願いしたんですよ」
アホの奥さんは、8年前に親の遺産を継いで大金持ちになったのだ。
「でも、私はお金持ちの真似ごとはしたくないの」と奥さんは言う。
ちょっと待ってください。石垣島とハワイに別荘があるって、十分に金持ちですよね。今さら、クルーザーを渋る気持ちが私にはわからないんですけど。
「クルーザーは、ダメなんですって」とイナバ君が肩を落とした。
豪華客船なら、いいのだろうか。
ただ、どちらにしても、アホには船舶免許は取れないであろう。
ビンボー人には、どうでもいいことだが。
「僕は、石垣島の別荘のウッドデッキのハンモックで、うたたねをするのが、最高の幸せだったんです」
「でも、2年前に、カニに足を切られたんですよね」
今年、48になる男が靴下を脱いで、傷跡を見せた。「3針縫いました」。見せなくていいよ。
「そこで、僕は考えたんです。カニに足を切られなくするには、どうすればいいか。長靴を履けば、チョキンはないいだろうなと・・・でも、カニのチョキンは強いですね。足は無事でしたけど、長靴はチョキンされました。そのとき僕は考えました。長靴をもっと強くすればいいんだと。そこで、金網で長靴を覆ったんですね。それから、カニの被害には、合わなくなりました。
あのね、イナバ君。
それって、カニが侵入するルートに、高い壁を作ったり、ウッドデッキの周りに柵を作ればいいことじゃないかな。
そうすれば、カニ君は侵入しないと思うよ。
長靴なんか履かなくても、休暇をタップリ楽しめるんじゃないかな。
「ああ、Mさん、さすがですね。頭いいですね。今年は、それをやってみましょう。うたたねが楽しみになったなあ」
平和だね、イナバ君。
「ところで、今年のトウココロモシは、どうでした?」
今年もトウモロコシは美味しかったね。
イナバ君の奥さんは、東京日野市でレンタルファームを利用して、色々な野菜を栽培していた。その中に、トウモロコシがあった。毎年10本程度送ってくれるのだ。
今年も食ったが、美味かった。甘くて、豊かな歯ざわりがした。
「でも、今年のトココロモシシは、ちょっと味が変じゃありませんでした?」
いや、充分美味しかったよ。トウモロコシ。
「そうですか、トココロモッシ、僕は今年のは美味しく感じなかったんですけど。子供たちも今年のトウモモコロシは、イマイチだって言ってましたよ」
そうかなあ、あのトウモロコシは絶品だと思うがね。なんといっても、色が美しい。店で買うよりもはるかに新鮮に感じるよ。
「へー、あのトウモコロモシが、そんなに美味しかったですか。去年のトコココモシの方が、美味しかったと思うんだけどなあ」
美味かったね。あのトウモコロモシ。
「あれ、Mさん、いま変でしたよ。トウモコロモシって。トウコロモシでしょ。普通」
もう、ええわ!
ところで、詳しい情報は知らないのだが、雨上がり決死隊の宮迫氏が事務所を退社するという記事を見た。
そんなに大層なことなの。
お笑い芸人叩き、ひどすぎませんかね。
何で事務所は、自分のところの社員を守ろうとしないのだろうか。今まで多大な貢献をしてきただろうに。
反社会勢力のパーティに参加して、報酬をもらいました。それは非難されるべきだが、人生を棒にふるほどの落ち度とは、私には思えないのだが。
プロは、ギャラをもらったら、芸をするのが当たり前。
プロって、そういうもんですよ。それが、たとえ反社会勢力だったとしても、その場で分かるかどうかは、結果論です。私は、結果論にまでは、責任が持てないと思う派だ。
彼は、直接反社会勢力に加担したわけではない。嘘をついたからと言って、その嘘は保身のためだろう。誰だって、保身のための嘘をつく。それを認めないなんて、なんて狭量な世の中なんだ。
人間は、嘘をつく。
誰だって嘘をつく。
その嘘を認めない社会は、俺の想像を超えている。
あんたたち、嘘をついたこと一回もないのかよ。
そんなに、おキレイなのかよ。
芸人をいじめて、うさを晴らすのはやめてくれ。
いじめるなら、もっと強いやつをいじめてくれ。
そんないびつな正義感、私には臆病者にしか思えませんよ。