リスタートのブログ

住宅関連の文章を載せていましたが、メーカーとの付き合いがなくなったのでオヤジのひとり言に内容を変えました。

馬の夏休み

2019-07-28 05:48:00 | オヤジの日記

馬がVOLVOでやってきた。

 

国立のバーミヤンで、人類史上最も馬に激似の「お馬さん」と打ち合わせをした。

仕事をシェアしたのだ。

お馬さんとは、年に数回仕事をシェアしていた。

今回は、趣味で絵画を描き続けている素人画家の個展の仕事だ。ポスターと招待状、プロフィール帖を作る。

お馬さんは、作品を一眼レフデジタルカメラで撮る係だ。私が、それをプロフィール帖に配置し、作者が一番気に入った作品をA2のポスターにする。

お馬さんは、若い頃から写真が趣味で、腕前は完全にプロだ。家に小さな写真スタジオも持っていた。

馬が一眼レフ? とうとう、そんな時代がやってきたか。豚が紅の空に向かって、飛行機を操縦する日も近いかもしれない。

ヒヒン、ブヒブヒ。

 

個展は2ヶ月先だが、原稿が早々と揃ってしまったので、とりあえず打ち合わせだけしておこうとお馬さんが希望した。その希望を叶えてあげたのだ。

打ち合わせが終わって、昼メシを食った。お馬さんは、喜多方ラーメン。私は何度食っても飽きないW焼餃子と生ビールだ。

しかし、お馬さんには、メシを食う前にひとつの儀式があった。ヒヅメを切ってもらうのだ。嘘でしたしたした。

超潔癖症のお馬さんは、テーブル周りを除菌スプレーでシュッシュするのである。これでもか、というくらい念入りにやる。その鬼気迫る姿は、まるでシュッシュ教の教祖様みたいだ。

お馬さんは、電車に乗れない。誰が座ったかわからない座席には座れない。つり革にも掴まれない。どの飲食店でも、周りから白い目で見られるが、構わず身の回りをひたすらシュッシュする。困った馬だ。

移動はVOLVOでしかできない。馬にとってVOLVOは、足代わり、ヒヅメ代わりなのだ。さらに、外でトイレにも入れない。大も小も家に帰るまで我慢する。きっと馬の膀胱は巨大なのだろう。でも、馬って基本的に垂れ流しですよね。

お馬さんも牧場では、できるのだろうか。

 

メシを食うとき、店の箸やフォークは使わない。消毒したマイ箸、マイフォーク、マイスプーン、マイナイフ、マイ馬具で食うのだ。

「だって、清潔かどうかわからないじゃないですか」

あんた、自分が一番清潔だと思っているのか。自惚れちゃあかんぞ。

人間は、そのままでは不潔だが、努力して清潔になったのだよ。都市や町、村もそう。努力して清潔を維持しているのだ。

その努力を否定するなかれ(馬には、わからんだろうが)。

 

そんなお馬さんが、夏休みに二泊三日でキャンプに行くという。

大丈夫だろうか。何本除菌スプレーを持っていけば、足りるだろうか。トイレは、どうするの? 公共のトイレに入れるかな。牧場があれば、垂れ流しできるが。

「ドライブのとき、2回携帯トイレを使ったことがあります。あれで乗り切ろうと思っています」

すごい覚悟だね。でも、何で急にキャンプに行こうと思ったの。潔癖すぎて家族旅行に行ったこともないお馬さんが。

「孫が、ジイちゃんとキャンプに行きたいって、泣きながら頼んできて」

そうなのだ。お馬さんは、私より10歳若いのに、40代終わりにジイちゃんになったのだ。孫は、そろそろ4歳になる。

お馬さんの長男は、馬の雰囲気を残していた。しかし、孫は完全な人間だ。馬の血統は三代続かないのかもしれない。残念だ。

 

残念に思いながら、私は焼餃子と生ビールを追加注文した。お馬さんは、塩麹のからあげを頼んだ。

食い物が来る前に、お馬さんが、体を身震いさせながら言った。

「この前の朝、マンションのゴミ置き場に、ゴキブリがウジャウジャいるのを見てしまったんです。その日1日、テンションが上がらなくて、食欲もなかったです」

馬はゴキブリが苦手なようだ。

「だって、不潔じゃないですか!! ブヒヒン!」

お馬さんのいななきに、料理を運んできたウェイトレスさんが、驚いてジョッキを落としそうになった。両手でジョッキを守った。危ないアブナイ。一番大事なものを。

からあげを口に頰張りながら、お馬さんが言った。

「Mさんは、平気ですか」

いや、平気ではございません。ゴキブリを見かけたら・・・。

手近にある雑誌を丸めて、ポン、ポン、バシッ、この外道がー! あとは、ゴキブリ用マイ箸で挟んで、ゴミ箱にポイ。

ポンポンバシッ、ゴミ箱にポイ。

ポンポンバシッ、ゴミ箱にポイ。この外道がー! が日常でした(新しいマンションでは見かけなくなったが)。

 

おや? お馬さんの箸が止まったぞ。箸を持つ右手が震えていた。唇も震えていた。

大丈夫だろうか。キャンプ場にだって、ゴキブリはウジャウジャいるかもしれないのに。キャンプでゴキウジャはありえますよ。

そう思ったが、優しい私は何も言わなかった。

 

お馬さん、お孫さんとの夏を、思い切り楽しんで来てください。いい思い出を作ってください。

きっとゴキブリを気にする暇なんてないと思いますよ。楽しすぎて。

 

そのあと、お馬さんが残したからあげは、生ビールを追加して私が美味しくいただきました。

 

 

ウマまけた。ウマかった。