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リスタートのブログ

住宅関連の文章を載せていましたが、メーカーとの付き合いがなくなったのでオヤジのひとり言に内容を変えました。

三角大福

2019-12-22 05:39:03 | オヤジの日記

新宿で、いかがわしいコンサルタント会社を営むオオクボから「渡したいものがあるから来てくれ」というLINEがあった。

 

偉そうだな、オオクボ、まるで社長みたいじゃないか。

渡したいもの、ラブレターか。もしそうなら、キッパリと言ってやらねばならない。

俺もおまえも妻子ある身だ。火遊びは、やめておこうぜ。

 

20日、12月にしては珍しいほど気温が上がった夏の日の午後2時、オオクボの会社を訪問した。

会社に足を踏み入れたとき、社長の机の横にある応接セットで、オオクボは49歳程度に見える女性と打ち合わせをしていた。

私の姿を認めたオオクボは、左手を中途半端に上げて、「おお、悪いな。窓際のソファで待っててくれ」と私に向かって命令した。

部屋の隅っこに、幅広のソファが置いてあった。言われた通りに座った。

すみっこぐらし。

聞くつもりはなかったが、私の左耳には、2人の会話が空気のように入ってきた。

マナー講座の話だった。オオクボの会社は、企業の社員研修のサポートもしていたのだ。その研修の1つに、マナー講座があった。

オオクボの仕事には全く興味がないのだが、マナー講座の講師は、たしか70歳の品のいい女性だと聞いていた。しかし、今回オオクボの前にいた女性は、がっついた話し方をする忙しない人だった。

マナー講師には見えない。例えるなら、料理研究家の平野レミさんを少しだけおとなしくした感じだ。

よく見るとオオクボの眉間のシワが深かった。苦戦しているようだ。

 

「2時間の講座で、40の項目は、どう考えても詰め込みすぎですよ。半分に削りましょう。これまでは、20程度でした。僕は、20でも多いと思いますけどね」

「いえ、社内外マナーには、重要なものはいくらでもあります。これが、最低限の項目です。削れません!」

鼻息荒いマナー講師を制して、オオクボが私のところにやってきた。そして、右耳にささやいた。

聞こえねえぞ、オオクボ。俺の右耳が役に立たないのを忘れたか。

ただ、私には得技の読唇術があった。オオクボの口は、「悪いな、すぐ終わらせるから」と語っていた(と思う)。

 

それから講師は、LINEでの社内伝達の可否を熱弁した。「たとえ会社の規則でLINEでの報告が認められていたとしても、上司には直接報告か電話報告が基本です」

アホか。社内規則でいいと言っているんだから、LINEでいいでしょうが。それは嘘を教えるための講座なのか8日9日10日。

アホらしくなったので、眠ることにした。時間を有効に使うのもマナーの一つだ(と思う)。

すみっこ寝ぐらし。

 

両肩を叩かれた。

きっと、起こされたのだと思う。

「待たせたな」

寝かせたな。

事務所の掛け時計を見たら、2時52分だった。1時間の打ち合わせの予定が52分超過かよ。それって、マナーとしてどうなの?

「悪いな悪いな、ご馳走するからよ。今年の6月に開店したばかりの近所の料理屋に招待するつもりだったんだ。1日12組だけしか予約を受け付けない店なんだ。一度に2組しか入れないんだ。高級感大ありだろ」

で、いつの予約なんだ。

「2時半だが」

行くのが遅れるって、連絡したのか。1日限定12組って店の場合、プライドが高いぞ。遅れた場合、即キャンセルってこともあるんじゃないか。

オオクボが電話をした。

キャンセルされたそうだ。やっぱりね。

「キャンセル待ちのお客さんは、いくらでもいますから」ってことだろうか。

 

オオクボ、おまえ、マナー講座なんてやっている場合じゃないよな。おまえのポンコツ体質を何とかしないとな。

結局、いつも連れ込まれる海鮮居酒屋に行った。

オオクボは海鮮特盛りとライス、生ビール。私は牡蠣バラエティと生ビールだった。

オオクボが仕事中にアルコールを取るのは珍しい。本当にラブレターを渡す気なのか。アルコールの勢いで渡そうとしているのだろうか。

私は、オオクボが変な気を起こさないように話題を振った。

おまえのとこの研修でやるマナー講座の講師は、品のいいおばあさんじゃなかったっけ。

「ああ、今まではそうだったが、先日その先生が亡くなってな。くも膜下出血だった。だから、弟子に頼んだんだ。先生の一番弟子に頼んだが、断られた。なんでか、わかるか」

国立にイノシシが現れたからだろうな。もしくはイモトアヤコが結婚したからか。いやまさか、メイプル超合金の安藤なつが結婚したからってこともあるか。

「研修先が一部上場じゃないからだよ。教えがいがないから嫌だってよ」

おまえ、俺のボケを消して、そんなに楽しいか。ここは、ボケの応酬をするところだぞ。

「そこでな、一番弟子以外が来たってことだ」

ところで、ネプチューンの名倉潤は、うつ病から復帰したのか。水泳の池江璃花子は、喜ばしいことに退院したらしいが。

「亡くなった先生が言っていたが、一番弟子以外はドングリの背比べだってよ。だから、今回はドングリが来たのさ。まだ2ヶ月あるから、俺がドングリを成長させてやるさ」

なあ、フィギュアスケートのアリーナ・ザギトワの秋田犬マサルが女の子だって知ってたか。

 

「おまえ、この漫才をいつまで続ける気だ」

 

牡蠣を食いながら、知っているか、とさらに私は言った。

牡蠣はオスのカキと書く。昔は牡蠣はオスしかいないと思われていたから、この漢字が当てがわれたのだ。しかし、メスがいなければ普通は繁殖できない。だから、牡蠣は繁殖期だけオスメスに分かれるんだよ。そして、繁殖期が過ぎると中性化するんだ、面白いだろー。

たとえば、おまえが繁殖期だけ性別が変わって、繁殖期が終わったらオカマさんかオナベさんになるってことだよ。

牡蠣って深いよな。ディープだよな。だから、うまいんだよ。おまえは、浅くてウンコだけどな。

「ところでな」とオオクボが私の前に封筒を置いた。

 

不意打ちのラブレターかい!

 

震える手で封筒を開けた。

スーツとワイシャツの仕立券が入っていたナッシー。

確か3年前もスーツ貧乏の私に、オオクボは仕立券をプレゼントしてくれた。そのおかげで、冬物のスーツが増えて、2着になったのだ。

これで夏物を作れるな、と仕立券を見ながら、私はヨダレを垂らしたナッシー。

「おまえにはいいクライアントを紹介してもらってるからな。これでも少ないくらいだ」と頭を下げたオオクボ。

 

おまえ、まさか賞味期限が38年過ぎた・・・。

「イチゴ大福は食ってねえぞ」(オオクボはイチゴ大福が大好物なのだ)。

しかし・・・。

「塩大福も豆大福も食ってねえ」

じゃあ、三角大福はどうだ。

「三角大福? 三角の大福? なんだ?」

ボケたか、おまえ。三角大福を忘れるなんて、おまえ、もう終わったな。

三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫の4人のことだろうが。1970年代から80年代の自民党の醜い派閥争いの象徴だ。

今の派閥政治の根源を作った罪深い魍魎(もうりょう)の集合体だよ。

 

「しかし、なんでいま三角大福なんだ」

バカだな、おまえ。今さら三角大福なんて、大福の話題のときしか出せないだろうが。

だったら、一体いつ出すんだよ。

 

「今でしょ!」

 

オオクボ、ナイスアンサー。