杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

お酒の神様はしご詣り

2010-06-08 21:47:04 | 吟醸王国しずおか

 6月4~5日と、京都・奈良へ行ってきました。『吟醸王国しずおか』の撮影はひと段落したのですが、パイロット版の“祈り”のパートの評判がよく、自分も気に入っていて、さらに深みのある構成にしようと思い立ち、酒造の神様・京都の松尾大社、酒林(杉玉)発祥の地でもあるモノ造りの神様・奈良の大神神社、そして日本清酒発祥の地である奈良・菩提山正暦寺の外観を撮りに行ったのです。

 

 

 3か所はかなり距離が離れているので、一日で回るのはちょっと難しいんですね。とりあえず4日昼前に京都に着いて、JRか近鉄に乗り換えて奈良へ向かおうと思ったら、運悪く両線とも事故で運転中断中。いつ復旧するかわからないと言うので、切符を払い戻し、バスで松尾大社へ向かいました。

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 いきなり真夏になったかのようなカンカン照り。平日昼間の境内はとても静かで、お参りをする人もまばらです。松尾大社には京都へ行くたびに、時間があれば足を伸ばし、お世話になっている蔵元さんや酒販店さんにお守りを買って帰ったものです。今回はとにもかくにも「映画が無事完成できますように」と、ただひたすら一心にお祈りしました。

 

 

 

 京都駅に戻り、JRが復旧したのを確認して奈良線・桜井線を乗り継いで大神神社へ。ここへ来るのは2度目で、1度目は10年ぐらい前、寒い冬だったと思います。三輪駅で降りると、昭和の時代のまま時間が止まったような素朴な門前商店街が続き、「三輪明神」の立派な鳥居が現れます。

 

 

201006041616071  『吟醸王国しずおかパイロット版』第1弾で、岡部町にある神(みわ)神社の夏期大祓いに参拝する初亀の蔵元橋本さんを紹介していますが、神神社は、この奈良・大神神社の分霊。大神神社は三輪山を神体山とし、国造りの神様である大物主神(おおものぬしのかみ)をお祀りしています。農業、工業、商業、方除、治病、造酒、製薬、交通、航海、縁結びetc・・・あらゆる暮らしに結び付く守護神なんですね。ご神体の三輪山は、杉、ヒノキ、松、榊など40種以上の樹木にも神が宿ると信じられ、中でも酒造家が清めの効果がある杉を蔵の軒先に吊るしたことが、酒林(杉玉)の伝統につながったようです。

 

 

 ちなみに岡部の神神社は高草山をご神体とし、高草山はその昔、三輪山と呼ばれていました。644年、皇極天皇の時代に東国の疫病を鎮めるために建立されたといわれますが、志太のこの地に大物主神がおでましになったことで、この地が酒どころになったに違いない、と橋本さんも私も確信しています。

 

 

 

 4日は京都の格安ビジネスホテルに泊まり、翌5日、ふたたび奈良へ向かい、正暦寺行きのバスを探したら、1日に2本しかなく、バス停から歩いて30分以上かかるとのこと。やはり10年ほど前、最初に行った時は友人の車でサーッと連れて行ってもらったので、そんなに遠いとは思わなかったのです・・・。やむをえず友人にSOSの電話を入れたら、昼前にならないと体が空かないとのImgp2529 こと。時間がもったいないので、“せんとくん”で盛り上がっている平城遷都1300年祭を観に行くことにしました。

 

 

 友人には「すごーい混んでるから覚悟しといたほうがええよ~」と忠告されたんですが、行ってみると、確かに人は多かったけど、順番待ちするほどでもなく、大極殿などもスイスイと見学できました。

 

 

 

 お昼に友人と合流し、奈良の市街地から車で20分ほどの菩提山正暦寺へ。この寺は正暦3年(992)に一条天皇の勅願で創建され、当時は大伽藍を誇っ201006051405321 たそうですが、平氏の南都焼き打ちで焼失し、現在は1681年建立の福寿院客殿(国重文)が残っています。寺のそばを流れる菩提仙川の清流を使って醸された僧坊酒は、日本の清酒技術の原型となり、今も日本の寺院では唯一酒造免許を持つ寺として、年明け1月に酒を仕込んでいます。正暦寺の僧坊酒についてはこちらをぜひご覧ください。

 

 

 福寿院客殿と、その奥にある本堂には合わせて3体の愛染明王像がお祀りしてありました。なぜ愛染明王ばかり残っているのか聞くと、昔は数え切れないほどの仏さまがあって、数々の戦火をくぐりぬけて残ったのが、たまたま愛染明王さまだったとのこと。御本尊は薬師如来さまなんですが、なんとなく愛染明王さまの生命力の勁さに惹かれ、明王さまのお守りを買いました。全身真っ赤で血潮が燃えたぎるお姿は、恐ろしさと同時に、情愛のみほとけらしい温もりを感じます。

 

 

 

 5日夜は、薬師寺で開催された朗読活劇『義経』を観賞しました。朗読は、3年前に脚本を書いた『朝鮮通信使』の林隆三さんの朗読に魅せられてImgp2545 以来、自分でも“音読する文章の書き方”を意識したり、実際に朗読講座に通ったりもしました。考えてみれば初めて書いた脚本を、林隆三さんに朗読してもらうって、ライターとしてこんな幸せないですよね…!

 

 

 朗読活劇『義経』は、大沢たかおさんの朗読です。ただ座って台本を読むのではなく、ところどころにパフォーマンスを取り入れて、視覚効果や音楽(吉田兄弟の津軽三味線&井上鑑氏のキーボード演奏)や踊りも加えての総合舞台になっていました。演劇の世界はあまり詳しくなく、こういうスタイルの舞台は初めて観るので、とても興味深かった! 

 

 朗読劇って実力ある俳優さんなら一人で演じられるし、お寺みたいな場所を借りれば舞台美術にはそんなにお金をかけずとも済むし、静岡にもこういう演劇が増えるといいなぁ・・・。ライターの仕事の幅も増えるかも!?

 

 

 21時過ぎに薬師寺を出て、友人宅のある西大寺の駅の近くで一杯呑んで、京都を23時55分発の夜行バスで静岡へ帰りました。

 

 

 映像を撮り溜めるだけなら楽しい映画制作ですが、これから地獄の編集作業が待っています。合間には各地でパイロット版試写会をやって資金集めもしなければなりません。

 いつの日か、ふたたび朗読劇の脚本が書ける日が来るといいのですが、それまでライター稼業を続けていられるかどうか…。あちこちの神さま仏さまにあれこれお願いしすぎて、ひとつも実らなかったらどうしましょう(苦笑)。