杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

中日新聞掲載の日

2010-06-11 12:07:06 | 吟醸王国しずおか

 昨日(10日)の中日新聞朝刊県内版(16面)をご覧いただけたでしょうか?『吟醸王国しずおか』の制作への思いを書かせていただきました。元の原稿は掲載分よりも3倍ぐらい長くて、編集サイドでかなり削られてしまいましたが、資金不足で四苦八苦している中、これだけの紙面を提供していただけるなんて本当にありがたい…! これも、長年、私のライターとしての成長を見守ってくださった中日新聞東海本社の編集委員・長井満喜廣さんのおかげです。

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 他の業界と同様、下請けのライターや映像制作者が置かれた環境というのも厳しさを増す一方で、何か自分たちから仕掛けていかないと不況の大波にいとも簡単に呑まれてしまいます。そんなとき、思うのは、たとえばライターとしてまともな仕事ができない者が、目先の変わったことに手を出したとしてもやっぱり中途半端で終わるんじゃないかということ。

 

 私の周辺にも、「スズキマユミはライターで食っていけなくなって映像に手を出し、酒屋にカネをたかっている」とか「ろくな資本もないから、今になって募金だ何だと騒いでいる」と批判する人がいますが、『吟醸王国しずおか』は、世間から相手にされなくなったライターが一人で騒いで出来るものじゃありませんし、ライターとしてまっとうな仕事が出来ない人間に、新聞の紙面が提供されるはずもありません。

 確かにこのご時世でのライター稼業はタイヘンで、仕事の量は確実に減っているけど、ギャラは少なくとも「スズキさんだからお願いする」という仕事がある限り、プロとして恥ずかしくない仕事をしたいですね。

 

 

 『吟醸王国しずおか』はライターとしての地酒取材歴22年の結晶。食える・食えないで線引き判断して作っているんじゃないし、食えなくなっても女一人、今の世の中、生きて行く方法はきっとあるはず…と楽観しています。今のNHK朝ドラ『ゲゲゲの女房』で水木しげるさんが貧乏神に取り憑かれてても泰然自若としている姿に、どことなく励まされています。もっとも水木さんは後に大家になるって視聴者の誰もが知ってるから安心して観ていられるんでしょうけど(苦笑)。

 昨日の中日新聞の原稿は、そんな思いも込めて綴りました。中日の読者の多い県西部地区の方、どうぞよろしくお願いいたします。長井さん、本当にありがとうございました!

 

 

 

 

 さて昨日は丸一日東京でした。朝、静岡駅で中日新聞を買って新幹線の中で目を通した後、新宿伊勢丹で9日~14日開催の『チアアップ!ニッポンの“食”展』を観に行きました。

 

 以前、JA関連の仕事で「地産地消をさらに進めて日本の食料自給率を上げる(=関税率が緩和され海外から食料がドッと入ってきたら日本の農業が壊滅するから)」というようなメッセージ性あるポスターのImgp2590 キャッチコピーを、という依頼を受けて、今の日本の農業の実力って、幕末の黒船襲来時みたいにアタフタするほど脆弱なんだろうか…と心配になったことがありました。

 その一方で、静岡県の広報の仕事で、川勝知事が、静岡県は食材品目数が日本一の「食の王国だ」とさかんに強調されるのを聞いて、それって日本中で認識されている話なんだろうかと思いました。

 

 

 今回の伊勢丹のイベントは、食料自給率向上に向けた官民一体のキャンペーン「FOOD ACTION NIPPON」の一環。よくある“全国うまいもの物産展”的な催事とは違い、イートイン、農産物、直売所、海産食材、畜産食材、チーズ、スイーツなどいろいろなジャンルに分かれて、全国のわりと隠れた逸品や地元でしか知らない新しいB級グルメみたいなものがたくさん出ていました。

 

 

 Imgp2589 とくに興味深かったのは、生産者と有名シェフが「地方食材のコラボレーション」をテーマに、日替わりランチプレートを均一2100円で食べさせてくれるプロジェクト“Cu-Cal”。

 この日は軽井沢のフレンチ『エルミタージュ・タムラ』田村良雄さんが軽井沢サラダファーム依田義雄さんの野菜、東京銀座の『レカン』高良康之さんが群馬・「太陽と雨」奥田典子さんの野菜を使ってワンプレートランチを紹介していました。私は田村さんのほうをチョイスして、カウンター越しに田村さんの手仕事を眺めながら味わうことができました。…ファンの人にはたまらない企画ですね!

 

 ただ、フロア全体をザッと観渡した限り、静岡県の食材はゼロでした。北海道から九州まで、出展者の地域は全国まんべんなく揃っていましたが、緑茶のブースがあったかと思ったら三重県の業者…。静岡県の業者が参加しない事情はよくわかりませんが、新宿伊勢丹のような情報感度の高い場所で、しかもニッポンの食をテーマにしたイベントならば、もっと図太く賢く利用すればいいのになぁと率直に思ってしまいます。

 

 

 

 

 午後はANAインターコンチネンタル東京で開かれた(社)日本ニュービジネス協議会連合会の総会取材。記念講演の講師は長野県小布施町の町おこしでおなじみ・枡一市村酒造場の市村次夫さんです。市村さんは長野県のニュービジネス協議会の前会長で、10数年前、かのセーラ・マリ・カミングスさんが入って話題になったころ、静岡県ニュービジネス協議会の視察でうかがったことがあります。

 

 町を整備する目的は、第一に地元住民にとっての住み心地、第二に地域のアイデンティティ、第三に産業振興や観光振興だというお話が印象的でした。ややもすると産業や観光の振興を優先する町おこしが多い中、当初からこの順列で一貫して取り組んできたことが、小布施の成功につながっているようです。町おこしの哲学として見事ですね!

 

 本業の酒造のほうは、「年間生産量が200石程度で、売り上げは1億2千万。ふつうの蔵元が1億2千万売りあげようと思ったら1000石は造らないと出ないと思う。その分うちは売値が高い」そうです。直売化した上、高くても売れるしくみを作ったのはさすがニュービジネス団体の代表を務めるだけの経営者。「資本は品質向上に投下し、しかも価格を抑えて売る」静岡の蔵元とはある意味対照的ですね。…私はそういう蔵元を『吟醸王国しずおか』として必死に世に伝えようとしているわけですが、こういう成功例を聞かされると複雑な気持ちになります…。

 

 

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 夜は、静岡県地酒まつりIN東京の常連さんで、日経BP社を早期退職し、先月21日、開店した菅原雅信さんの日本酒バー『酒庵 醉香』を訪ね、開店祝いに先日京都松尾大社で購入したお守りをお届けしました。場所は押上駅から歩いて10分くらい。建造中の東京スカイツリーのお膝元です。

 他に高層ビルのない、地方の町の昔ながらの商店街みたいな一角で、築50年の酒屋を見つけて開業されたそうです。

 

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 醉香は2000円で好きなお酒90ml+おまかせおつまみ4品が付き、後は自由にオーダーできるしくみです。お酒は全国の有名無名がそろっていて、静岡県では『開運』だけでしたが、「これから徐々に増やしていきますよ~」とのこと。

 

 私は秋田出身の菅原さんにちなんで、いぶりがっこを肴に秋田の純米酒を一杯。…ホントにここが東京都内で、スカイツリーがオープンしたら大規模開発で町が大きく変わると言われる場所なのか…なんだか不思議ひとときでした。

 

 

 

 

急遽決定!「吟醸王国しずおかパイロット版」試写&トーク 参加者募集

◆藤枝会場

◇日時 6月12日(土) ①15時~ ②17時~ ③19時~

 <各回およそ1時間・試写(20分)+蔵元&監督トーク>

◇会場 藤枝市生涯学習センター 第1会議室 

(藤枝市茶町1-5-5 TEL054-646-3211

*JR藤枝駅よりバス中部国道線10分、「上伝馬」もしくは「千才」下車、徒歩10分)

 

◇費用 無料

 

◇申込 直接会場へお越しください。

 

◇参加蔵元  杉井均乃介さん(「杉錦」蔵元・杉井酒造)、青島孝さん(「喜久醉」蔵元・青島酒造)

 

◇吟醸王国しずおか映像製作委員会加盟の蔵元より試飲酒を提供していただきました。試飲ご希望の方は、公共交通機関にてお越しくださいませ! お車でお越しの方には、杉錦、喜久醉のおいしい汲みたて仕込み水をご用意いたします。