杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

液状化に挑む土木技術

2011-05-26 15:27:12 | 東日本大震災

 

 なんだかこのまま梅雨入りしそうな陽気です。5月って、5月らしい爽やかなお天気の日って何日ありましたっけ?

 

 2週間前になりますが、12日(木)、浜松でニュービジネス協議会の勉強会があり、中村建設㈱環境事業部長の平田昌宏さんに、今回の東日本大震災と液状化現象の問題について解説してもらいました。中村建設では、LSS流動化処理工法(Lequefied Adjusted Grain Soil Stabilization Method)という液状化防止につながる特許技術を持っています。建設現場で発生するいろんな土を、その特性に応じてブレンドして粘土にし、土構造材料=流動化処理土に甦らせるというもので、水を浸透しにくくする性質になるそうです。

 

 

 技術工学的な事はよくわかりませんが、地震で破損する恐れのある下水道管を埋め戻すとき、災害で河川の護岸ブロックが崩れて短期間に緊急対策が必要なとき、使わなくなった工場や施設の配水用管を閉塞するとき、地下を掘っていたら昔の防空壕が見つかってすぐに埋めなければならないときなど、社会インフラで発生するさまざまなトラブルに即応でき、建設発生土を再資源化するというリサイクルプロジェクトでもあり、地盤を強くするという頼りがいのある工法とのこと。浜松駅前の旧松菱百貨店の地下街&地下道を閉塞したのも、この技術だそうです。

 

 ふだん、何気なく見過ごしているさまざまな土木工事ですが、災害の多い日本で“倒れない・崩れない”技術を確立するまで、とてつもなくハイレベルな技術開発があるんだな~って思いました。自分がのほほ~んとした文系人間だけに、理工学系のテクノロジーには心底尊敬してしまいます。

 

 平田さんのお話で印象的だったのは、地盤のお話。洪積層と沖積層というやつです。洪積層は1万年以上経つ古い岩盤地層で、浜松市を例にとると主に三方原台地から北のほう。液状化の心配はほとんどありません。欧米都市の多くは洪積層の上に立つので、地震災害が少ないのです。

 一方、歴史の浅い沖積層は、沿岸部に近い低地の、砂や砂利や泥質の地層を指し、当然、液状化のリスクも高い。でも、日本の都市の大部分が沖積層に立っているんですね。

 

 水辺に近い=水利の良い沖積層は肥沃な土地で稲作に適しています。農耕民族である日本人にとって、岩盤の厚い洪積層=痩せた土地とみなされ、多くが低地の沖積層に住みつき、そのまま町として発展していった・・・。平田さんは「繁華街は軟弱な地盤に作られ、地価も高い。しかし液状化のリスクは極めて高く、住環境としては甚だ疑問」と指摘。東海地震が発生したら、浜松市内ではJRより南側の広い範囲で液状化が発生する可能性があるとの見方を示します。

 

 浜松市HPを見ると、液状化危険度分布が一目瞭然。海に浸食されてほとんどなくなってしまった中田島砂丘のあたり、浜名湖沿岸の旧雄踏町などは、安政東海・東南海地震時にも浸水したと推測されます。

*浜松市防災HPはこちら 

*静岡県内全市町の被害想定はこちら

 

 

 

 最も液状化のリスクの高い埋立地。今回の震災でも幕張あたりの液状化現象が問題になりました。ちなみに東京ディズニーランドや羽田空港は、大型杭打機で地中に砕石の柱を打ち付けて締め固めることで地耐力を高める「サンドコンパクション工法」が施されているそうです。

 

 

 多くの犠牲の上に、多くの教訓を与えてくれた東日本大震災。文字通り「足元を見つめ直す」意味で、住んでいる町の地盤や地層の歴史を知っておく必要がありますね。

 そして、いつもは公共工事に対して税金の無駄遣いだ何だと文句ばかり言っているけど、いざという時、日本に土木工学の高いスキルがあるということがどれだけ心強いか考えさせられました。建設会社と聞くと、汚職事件を起こす業者ばかりに目が行ってしまいますが、リスクの高い地層の上で“倒れない・崩れない”技術を地道に追求してきた日本の土木技術者に、心からエールを送りたいと思います。