昨日(18日)は(社)静岡県ニュービジネス協議会中部部会の定例講座・NBサロン中部に、「正雪」の醸造元・神沢川酒造場(静岡市清水区由比)の望月正隆社長をお招きしました。
NBサロンで蔵元トークを企画するのは、2009年11月に「初亀」の橋本社長をお招きして以来(こちらを参照)、2回目です。橋本さんも望月さんも、静岡県酒造組合副会長という要職を務め、需要開拓分野を担っておられる立場であること、「正雪」が2011・2012年と連続して静岡県清酒鑑評会県知事賞(最優秀)を受賞されていること等を勘案してのお招きです。
異業種団体のビジネスサロンでのトークということで、酒造繁忙期にもかかわらずパワーポイントで資料を作ってくださったり、とっておきの秘蔵酒を試飲酒に提供してくださったりと、大変親身に対応してくださいました。あらためて、望月社長ならびに神沢川酒造場のみなさまに御礼申し上げます。ご参加くださったNB会員ならびに酒徒のみなさまにも感謝申し上げます!
まず試飲用に提供してくださったのが2012年県知事賞受賞の大吟醸斗瓶取り。蔵に、奇跡的に残っていた1本です。
私は昨年3月の県鑑評会一般公開と、その直後に開催したしずおか地酒サロンで味見をしていますが、1年経った受賞酒は、気品と豊穣が融けあったゴージャスな味わいにふくらんでいました。かといって、くどさやしつこさがない、さばけのよい静岡吟醸らしさをしっかり保っています。こういう酒は1年経過させてから、もう一度審査しても面白いんじゃないかと思いました。たぶん新酒の時期よりも、一般の人や外国人にはわかりやすいというか、“日本酒ってこんなに深く複雑で豊かな酒なんだ”って伝わるような気がします。
もう1本は備前雄町の純米大吟醸。山田錦の斗瓶取り受賞酒と並べて呑むと、ほんとうに米の違いや個性がよく判ります。雄町という米が、酒米の王者・山田錦とは異なるポジションで確たる地位を築いていることを、あらためて実感しました。
静岡県が開発した酒米「誉富士」も、山田錦の二番煎じとか“ご当地米”の扱いを超えて、酒の個性という面で確たる存在感を持てるようになって欲しいですね。米の作付け・収穫量が安定してきたら、蔵元がもっといろんな造り方・売り方に挑戦してほしい、とも思います。
「正雪」の酒造り解説では、麹造りの重要性、洗米に始まり酒袋洗いに終わる“洗い”の重要性を強調。250kgの米を洗うのに25トンの水を使うという、他県では驚愕の洗米作業を写真付きで解説してくれました。
質疑応答では「複数の酵母を使い分ける理由は?」「素手で洗米や麹の切り返し作業をするのに衛生面で問題はないか」など等、鋭い質問も。麹室内での上半身裸で素手での作業については、私が撮っている『吟醸王国しずおか』の映像の一部がテレビニュースに取り上げられたときも、視聴者から「不衛生ではないか」というクレームがきてビックリした経験があります。
今回も、企業人からあらためて問われ、「ヒトの肌に付着した菌よりもはるかに強力な菌を扱っているということを、丁寧に説明しなければいけないな」とつくづく思いました。
酵母については、望月さんの回答は、“業界のここだけの話”的な内容だったので、ここで書くのは控えますが、その蔵にフィットする酵母、目指す酒に近づける酵母を選択することも、造り手の重要なスキル。「静岡酵母」は、酒造の元素材のひとつにすぎないのに、「山田錦」や「雄町」のように、酒質全体をイメージさせる強さと存在感を持っているだけに、静岡酵母をどう使いこなすかも、蔵元の姿勢を推し量る上で要注目ですね。
ただ、山田錦が産地や作り手によって違うように、静岡酵母にもいくつかの種類があり、単独で使ったりブレンドしたりとさまざまですし、正直、そんなところまでディスクローズしてもらわなくてもいいような気もする。美しい女性を観て、使っている化粧品や通ってるエステ店まで突っ込んで知りたいのか、そこまで聞かなくても眺めているだけで十分か・・・そんな感じかな(笑)。
サロンは20時前にお開きとなり、2次会、3次会と呑み次いで、最後に久々、深夜のラーメンで締めました。最後までつきあってくれたのが、望月さん、書道家の岩科蓮花さん、今回のサロンを楽しみにしていたという花の舞酒造静岡支店長の永田さんという不思議なメンバー(笑)。さすがに50歳を超えての飲酒後ラーメンは、胃腸に重苦しかったのですが、なんだか気分よく、タクシーが逆方向でつかまらないのも気にならず、100分かけてプラプラ歩いて帰りました(多少はカロリー消化できたかな)。
・・・そういえば、近藤美津江さんと呑み歩いていたころも、こうして締めにラーメン食べて、ぷらぷら歩いて帰っていたことを思い出しました。(病気で)呑めなくなったから(地酒研を)脱会しますと、辛い顔で言われたときのことを振り返ると、美味しいお酒を元気で呑めることが、なんとぜいたくなことかを思い知らされます。
貴重なお酒、美味しい酒肴、愉しい仲間との出会いや共有する時間の大切さを、今一度、かみしめたいと思います。