5月27日、東広島市市民文化センターで開かれた第50回(独)酒類総合研究所講演会。今年の演目は、
①少量飲酒の健康への影響(Jカーブ)
②お酒の中の微生物を改めて知る
③清酒の中鎖脂肪酸等分析法とその成分調査
④平成25酒造年度全国新酒鑑評会について
⑤特別講演「世界は日本酒を待っている!~南部美人の海外戦略と世界の日本酒を取り巻く現状」
このうち、興味深かったのはお酒と健康に関する最新研究①でした。詳細は来週UPする日刊いーしずの地酒コラム【杯は眠らない】で報告しますので、さわりだけ紹介すると、古来より“酒は百薬の長、されど万病の元”と言われていた説を、マウス実験で立証した研究です。
「Jカーブ効果」って聞いたことありますか? お酒を全く飲まない人の死亡リスクを1とすると、適量飲む人はリスクがマイナスに下がり、適量を超えてしまうとプラスに急上昇=ハイリスクに転化する。グラフ化すると、アルファベットのJのようなカタチになるのです。マウスの実験でこれが生理学的に立証され、適量はマウスではアルコール1%程度。人間ならば1日あたりビールで250~500ml、日本酒なら80~160ml と計算できたそうです。毎晩飲むなら1合弱ってところでしょうか。もちろん「それっぽっちで済むはずがない」と苦笑する酒徒も多いと思いますが、いい年齢になれば、適量をわきまえ、細く長~く呑み続けていきたい、それがオトナの流儀って感じでしょうか。
いずれにしても、科学的に証明されたってことは心強い限りです。アタマから自分は飲まないと決め付けている人と宴席を共にする機会があったら、それとなく、ウンチクってみようと思います。
②の微生物の話も聞き応えがありました。微生物と聞けば、麹菌や酵母菌など酒造りにとって優良な菌を思い浮かべますが、もろみを腐らせる腐敗原因菌(酢酸菌や納豆菌など)も存在します。いわゆる微生物叢=醗酵の途中で何種類ぐらいの微生物が何割ぐらい活動しているのかは、実は正確なことはわかっていないそうです。というよりも、わかっている微生物というのは“人間の手でも培養できる特別な微生物”に過ぎなかったということ。つまり、既存の培養法では検出できる微生物が限られていたというわけです。
今回、酒類総研では新たな遺伝子解析法(次世代シーケンサーと定量PCR)を開発。今までの培養法では10属程度だった微生物叢が、新しい解析法では57属にまで広がり、菌の種類を一つ一つ数えたら、今までの数倍~数百倍存在していることを確認できたそうです。
日本酒では醗酵途中では酵母菌や乳酸菌の働きが強すぎるため、なかなか難しかったようですが、発泡性清酒・・・後から炭酸ガスを吹き込むのではなく、瓶内二次醗酵によって発泡性を付与したいわゆる活性型では、乳酸菌系の微生物が多く検出されました。これらの中には品質に影響する細菌も多く含まれるため、細心の品質管理が必要であるとのこと。
多くの時間が割かれた解析法の説明は、理系の知識がない素人にはとてもついていけませんでしたが(苦笑)、微生物の実態把握につながる分析技術を究めていくことで、品質管理面のみならず、醸造発酵酒の真の理解につなげてほしいと思います。こういう科学研究の成果にふれると、微生物とヒト、生物同士の叡智が融合した地球上で最も価値あるものの一つだ・・・と感動させられます。ヒトは自然の前で傲慢になり、ときに謙虚にもなる、そのやっかいな普遍性を、一杯の酒が示してくれるんですね。
①と②の研究については、酒類総研の広報誌エヌリブ最新号に概要が紹介されています。こちらを参照してください。