平成25酒造年度、第102回全国新酒鑑評会。全国から845品が出品され、入賞は442品、うち金賞は233品という結果でした。詳細は酒類総合研究所のサイト(こちら)で確認してください。
5月28日、東広島運動公園アクアパーク体育館で開かれた製造技術研究会。JR西条駅前から出るシャトルバスの朝一番(8時5分発)に乗ったのに、会場に着いたらすでに長蛇の列。猛暑の中、開場10時まで外で立ちっぱなしはキツイですが、注目産地の金賞受賞酒を試飲するにはみなさん必死です。去年(こちらを参照)と同様、今年も好成績だった東北・北関東エリアは試飲コーナー前に長蛇の列が渦を巻いていました。
前日の講演会で聞いた鑑評会の審査結果によると、全出品酒を通し、カプロン酸エチルの指摘数が去年の2850点から今年は3457点に激増。グルコース(ブドウ糖)も高かったようです。つまりヘビーな香りで甘い酒がたくさん出品されていたということ。審査員から「香りが高く、甘く、くどい。甘味が浮くような酒が多い。酒としてどうなのか?」と疑問の声すら上がったそうです。
そうはいっても、審査するとき、甘いから落とす、というわけではないようで、甘くてくどい酒ばっかりの中で、まあまあバランスの取れたものが入賞するのでしょう。静岡のように、甘くはないし香りもハデではないけどバランスが取れているって酒が優位ってわけでもないようです。
以前は原料米を、山田錦5割以上使用と、他の米を5割以上使用、の2部門に分けて審査していましたが、今は分けずに一緒に審査します。また県や各国税局主催の鑑評会では吟醸の部、純米の部を分けて審査していますが、全国ではずっと一緒です。そのことをこちらで書いたとき、読者から「出品酒のほとんどが純米ではなく吟醸(アルコール添加酒)だったなんてショック!」というコメントがありました。
一般消費者や海外市場で支持されている純米酒や、地域独自に栽培されるご当地米を使った酒が、吟醸酒の原料としてゆるぎない実績と信頼を持つ山田錦と、酒質を安定させるアルコール添加酒が必勝条件ともいえるコンテストで入賞するのは至難の技だと思います。審査基準を決めるとき、酒造業界の将来を見据え、純米やご当地米の酒を伸ばしていこう=多様性を認めていこうというコンセンサスが必要でしょう。多様性を評価するには審査方法もそれなりに高度化させなければならないと思います。
講演会でも「なぜ純米の部を設けないのか?」という質問が会場から上がったのですが、なんと、「研究所は推進したいが、鑑評会共催者の日本酒造組合中央会が反対している」とのこと。・・・う~ん、理由がわからない。
それはさておき、私はいつものように、誰もいない静岡県出品酒コーナーにイの一番に駆けつけ、ゆっくり試飲しました。静岡県からは18品が出品され、入賞6品、うち金賞は4品という結果です。金賞ゼロだった去年に比べたらまあまあの成果でしょうか。会場でお会いした【開運】土井社長のホッとした表情が印象的でした。
毎回お会いする【杉錦】の杉井社長、今回は入賞を逃しましたが、出品リストをボートに貼り付けて真剣に寸評を書き込む姿はいつもどおりです。こういう熱心な蔵元さん、昔はたくさんいたのに、私みたいな素人がハバを利かせているなんて・・・複雑な思いで、結局、他県をみてはまた静岡へ戻り、というのを繰り返し、つごう4回静岡県出品酒を試飲しました。
最初は「カドがたってるなあ」と思えた酒も、時間が経って温度が上がるとバランスよく感じられます。今回自分の口にマッチした【英君】は、1回目に利いたときは香りが立ちすぎ、渋味も強く、新酒の硬さがありましたが、回を重ねる毎に落ち着いてきました。【磯自慢】は素人でも一口で静岡酵母らしさが判る香り。味とのバランスにやや乖離感があったのですが、4回目に利いたときは、香味バランスがふんわりマッチしていました。品温の差が審査にどれほど影響を与えるのか、素人には判りませんが、両方とも、静岡酒を愛飲し続ける者にとっては、まぎれもなく静岡代表だと自慢できる酒質でした。
去年、ベストワンだと思った【若竹】。今回も誉富士精米40%の純米大吟醸で堂々と出品されていました。香り控えめのおとなしい出来で、他県の入賞酒と比べたら印象が薄かったかもしれません。でもこれは〈今がピークではない〉だけのこと。熟成が進めばすっきりまろやかな静岡らしい純大に仕上がると思います。
他県では、山田錦以外の県で奨励する酒造好適米を使用した出品酒が増えていました。もちろん圧倒的に多いのは山田錦ですが、
○北海道(出品12)―『吟風』3、『彗星』2
○青森(出品15)―『華想い』4
○秋田(出品31)―『秋田酒こまち』6、『美郷錦』2、『美山錦』1
○新潟(出品70)―『越淡麗』28、『越神楽』2、『五百万石』2
○長野(出品59)―『美山錦』14、『ひとごこち』4、『金紋錦』2
○広島(出品39)―『千本錦』16
という県もあります。上記は米の産地で、比較的規模の大きな酒蔵が多く、1社で何品も出品できるメリットもあろうかと思いますが、山田錦以外の米が少しずつ実績を作って行かなければ、いつまでたっても多様性が評価されるコンテストにはなれないでしょう。
国を挙げてのアルコール飲料の品質評価コンテストが100年以上も続いている、世界でも稀有な鑑評会です。伝統的に培ってきたものと、時代と共に変革するもの、そのバランスをうまくとってほしいですね。
静岡県も、静岡酵母や誉富士といった独自性を貫き、実績を作っていってほしいと思います。そうでなければ『吟醸王国しずおか』という名の映画を発表する自信がなくなりそうで怖い・・・です。
お昼近くなって、人気のエリアから人が分散し始め、静岡県コーナーにも列が出来始めたころのこと。いつまでたっても先に進まない老齢の3人組がいて、手元を覗いたら、なんと、静岡県の出品酒を片っ端からブレンドしていたのです。「静岡は、気イの入ってない酒ばっかりや」と捨て台詞。西日本の方言の、酒造職人らしいおっちゃんたちでした。出品した蔵元さんたちが見たら、どんな思いをされるだろうと、思わず、近くに土井さんや杉井さんがいないか見回してしまいました。
・・・いろいろな意味で、鑑評会が変わる時期に来ているのではないでしょうか。