杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

酒器をめぐる夏

2014-08-19 11:12:28 | 地酒

 この夏はお酒代よりも酒器代にお金をつかってしまいました。

 

Dsc04472  きっかけは、9月に開かれる蕎麦の会で磯自慢を使いたいという主催者を、磯自慢酒造に案内したとき。おみやげに磯自慢ロゴが入ったグラッパグラスをいただき、自宅であれこれ愉しんでみました。磯自慢のような甘くフルーティーな酒には、なるほどピッタリ。雑然とした我が家のリビングが、一瞬、高級ワインバーになったかのような気分でした。新しい酒器を使うときって、新しいメイクや洋服を身に纏うような高揚感があるみたいです。

 

 

 その後、仕事で上京した足で東京国立博物館の故宮博を観に行き、紀元前3000年ぐらいから酒器が作られていたこと、酒器が皇帝の神事と密接なかかわりが合ったことや歴代皇帝の故宮コレクションの中でも異質な存在感を示していたことに心惹かれました。

 

 さらに数日後、プラザヴェルデ沼津の白隠講演会の折、同会場で開催されていた開館記念陶器市をのぞいて、久しぶりに自分遣いの酒器を何点か購入しました。陶芸品は学生の頃から好きで当時はコーヒーカップ、酒を覚えてからは酒器をコレクションしていたのですが、2009年8月11日の駿河湾沖地震で、耐震補強していなかった食器棚は無残に倒れ、コレクションの大半を失ってしまったことから(こちらを参照)、しばらく陶器集めから遠ざかっていたのです。

 

 

 折りしも茶道の勉強で古田織部に親しんでいたこともあり、瀬戸・赤津焼窯元の【喜多窯・霞仙】の織部のぐい飲みに一目惚れ。事前にPRしていなかったのか、開館記念イベントだというのに陶器市会場はあまりにも閑散としていて、全国から集まった出展者の方々に「静岡に悪印象を持ってもらったら哀しい」と思い、ついつい皿、マグカップ、急須、会津塗やらを買いだめしてしまいました。地震で壊れたら実も蓋もないと、100円ショップ食器しか使わなくなった自分からしたら、ビックリするような大人買いです。

 

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 帰宅後、クレジットの明細を見て少々後悔しつつも、当日拝聴した芳澤勝弘先生の白隠のお話を思い浮かべながら織部で白隠正宗を一献、磯自慢をなめらかな質感の会津塗でグイッとやったら、なんとも至福な気分になりました。いい器は、やっぱり味わう気分を盛ってくれますね。それに、なんか、やっぱり、日本酒には手のひらサイズのぐい飲みのほうがしっくりくる・・・。酒器って大事だなあと改めて感じました。

 

 

 

 Imgp0571 ちょうど、京都今宵堂さんが8月あたま、静岡で展覧会を開催されるということで、月一回、日刊いーしずで連載している地酒コラム【杯は眠らない】では酒器について書こうと思い立ち、酒器の話を聞くならまずはこのご夫妻!ということで、伊豆の国市の安陪均さん絹子さんを訪ね、その2日後には今宵堂さんの個展を拝見し、富士山酒器で愉しませていただきました。

 

 

 安陪夫妻はアンティークコレクターでもあり、江戸時代のモダンな蕎麦猪口で冷えた吟醸を夏らしくさっぱりいただきました。

 

 

 

 今宵堂の上原夫妻の酒器は遊びこころ一杯。Imgp0605 私は青の酒杯&ぐい飲みを購入しました。金明、高砂、富士錦、富士正・・・富士山周辺の銘柄を楽しむにはもってこいです。

 

 

 

 

 

 

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 しずおか地酒研究会では、1999年9月、「月夜に 乾杯!酒器あわせ」という地酒サロンを開催しました。日本三大地蔵「延命地蔵菩薩」のある宣光寺(磐田市見付)で陶芸家吉筋恵治氏(森町)の陶芸談義を楽しみ、42名の参加者がMY酒器を持参し、参加してくださった蔵元7社の秋上がりの美酒を楽しみました。

 今でも忘れられないのが、地元・千寿酒造の山下社長(当時)が、門外不出という山下家秘蔵の古伊万里をお持ちくださったこと。お酒の味よりも(ゴメンナサイ)、古伊万里独特の鮮やかなデザインが今でも目に浮かびます。

 

 

 Imgp0583 日本の酒器は、形状、品質、絵柄の違いに加え、時代や地域性の違いも楽しめます。地酒同様、造り手が身近にいて、ともに語り合える。お気に入りの陶芸家・酒器との出会いは、本当に貴重です。そんな酒器の力を借りることで、美酒の記憶がさらに鉄板なものになるでしょう。こういう経験はワイングラスでは得られないと思うし、日本酒を海外に持っていくなら日本酒はこういう酒器で愉しむんだ!という文化も紹介すべきではないかと思うんですが、どうも今のトレンドから外れているような・・・。

 

 とりあえず、酒器についての雑感をまとめた【杯は眠らない】、ご覧くださいませ。