杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

林隆三さんの朗読

2008-02-01 08:36:17 | 映画

 私の自宅兼仕事場は、国1静清バイパスのインターすぐそば、唐瀬街道沿いにあり、近くに県立総合病院や城北小学校もあって、トラックや救急車の騒音、学校の校内放送などが耳に障るため、昼間なら、NHK-BSのクラシック番組や海外ニュースをBGM代わりに付けています。

 

 夜、楽しみにしているのは「敦煌莫高窟」と「ちりとてちん」再放送。ともに15分番組で息抜きにちょうどいい長さ。そして、なんといってもナレーションが素晴らしい。「敦煌」は、私自身が大学で学んだ東洋仏教美術(西域壁画)がテーマであることに加え、佐藤浩市さんの抑制の利いた、低く、乾いた声が、砂漠の画廊の美にとてもマッチします。逆に「ちりとてちん」の上沼恵美子さんは、ネイティブ関西弁のやわらかさと、主人公の心の声を絶妙なタイミングではさむ間のよさが魅力です。

 

 

  「敦煌」や「世界遺産」のような歴史紀行番組に、男性俳優のナレーションが合うのは、重厚なテーマを受容する演技力があるからでしょうか。演技しているわけではないと思いますが、淡々としゃべっているようでも、どこか、その時代の人の思えたり、やっぱり現代の旅行者のように聞こえたり、不思議な抑揚を感じるときがあります。

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  映像作品『朝鮮通信使』で朗読とナレーションを務めた林隆三さんも、現代の傍観者、朝鮮通信使、徳川家康の声を、監督や私があれこれ注文つける前に、見事に演じ分けておられました。もっとも、脚本デビュー作で、いきなり、隆三さんのようなビッグスターに自分が書いたものを読んでもらうというだけで舞い上がっていた私には、注文をつけるどころの話ではありませんでした。

 

 

  監修の金両基先生に韓国側の見解に配慮した細かな修正を入れてもらい、ナレーション台本が完成したのは、ナレーション録音の当日昼。金先生のお宅から静岡駅へ直行し、新幹線の中から、携帯メールで修正箇所を静岡の制作ルームに送り、静岡からファックスで東京の録音スタジオで待機する監督と隆三さんに送り、収録が始まってからも、「浜名湖の“今切”を、いまぎれ、いまぎり、いまきれ、いまきり…一体どう読むのか!?」と青くなる始末。録音スタジオは携帯が通じないため、もう一人の監修・北村欽哉先生に連絡がつくまで大慌てでした。

 

 

  本来ならばどなられても仕方ない私の手際の悪さに、隆三さんは不快な顔一つせず、、監督の指示に誠実に応えておられました。とくにしびれたのは、興津清見寺に残る通信使の詩『夜過清見寺』の朗読。元の漢詩を、監督の指示で、私が大胆に意訳し、関係者から「大丈夫か」と心配された箇所でしたが、隆三さんの、海を越えて厳しい長旅を続ける通信使の心の声そのもの、といった情感あふれる朗読に、誰もが感動したと思います。

 

 

 ご自分からリクエストされたのは、声の調子を整えるため、休憩がほしいとおっしゃったくらい。「指示やダメ出しは遠慮なくどんどん出してください。みんなで創り上げるものですから」と若輩者の私たちにハッパをかけてくれます。深夜まで収録が続き、終了後にお願いしていたメイキング番組用のインタビューを遠慮しがちに始めたときも、一仕事終えた後の爽快な表情で、楽しそうに応じてくださいました。

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  隆三さんがとくに活躍されたのは、駿府城東御門、三保の松原、久能山東照宮、大井川川越遺跡でのイメージシーンで、200名を超えるエキストラ・スタッフと、極寒の長時間撮影をこなされたとき。私はこの現場では、ただの記録写真係として傍観していたので、隆三さんや監督の本当の苦労はわからなかったのですが、隆三さんが、「エキストラの方々はこういう現場に慣れていらっしゃらないから、気の毒ですね」と気遣っておられたのが印象的でした。

 

 

 

 現場での苦労話や、俳優林隆三の朗読・ナレーションの魅力については、2月15日に静岡市クリエーター支援センターで開催される『朝鮮通信使』上映会で存分に披露されると思います。14時から隆三さんと山本起也監督のトークセッション、15時から上映会です。入場無料・事前申し込み制となりましたので、ぜひお申し込みくださいね!

 


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