今年のGWは、昼間は原稿執筆、夜は読書にたっぷり時間をかけられました。おかげで眼精疲労MAX状態ですが、知的刺激のある疲労は苦になりません。とくに仕事とは無関係のジャンルだと、いい気分転換になります!
1冊目はNHKの元ワシントン支局長だった手嶋龍一さんが書いた『スギハラ・ダラー』。日本版シンドラーこと杉原千畝がナチスから救ったユダヤ難民が、9・11、ブラックマンデー、リーマンショック等を取り巻く金融市場の裏で暗躍しているというスパイ小説で、ジャーナリスト出身の筆者だけにネタはすべてホンモノで、本当にそうかも…!と思わせてくれます。
北朝鮮の偽札作りを扱った前作『ウルトラ・ダラー』も面白かったけど、サスペンスとしてはストーリー展開がイマイチで、結末にもガッカリさせられたものですが、今作は最後まで読み応えがありました。『ハゲタカ』みたいなテイストの連続ドラマにしたら凄いだろうな~。
2本目は『ロスト・シンボル』上下巻。ダヴィンチ・コードの筆者ダン・ブラウンの最新作です。上下巻合わせると700ページを超えるボリュームですが、ダヴィンチ・コードと同様、あっという間に読破しちゃいました。ダン・ブラウンも手嶋さんも、実在する都市、組織、史実をベースにし、掘り下げていくことで、あり得そうなストーリーを肉付けしているから面白いんですね。はるか次元は劣りますが、取材力を深めていくうちに妄想が浮かぶ経験、私もよくします。
ストーリー展開は、映画でトム・ハンクスが演じたラングドン博士が謎解きをするおなじみの構成ですが、一見、古代史や宗教とは無縁に見えるワシントンDCが、ローマやパリ並みに魅力的で深~い町に感じ、怪しげな秘密組織というイメージを持っていたフリーメイソンの存在価値にも新たな物差しを与えてくれます。この、既成観念に新しい物差しを与えてくれるというのが、私にとって読書の最大の醍醐味。最近読むのはノンフィクションばかりでしたが、こういう小説が増えると本当に楽しいです!
3作目はマリアス・ジャンセン著『坂本龍馬と明治維新』。1965年に初版発行され、司馬遼太郎が『竜馬がゆく』執筆時に最も参考にしたとされる龍馬ファンおなじみの名著だそうです。今年の龍馬ブームを見込んでか、昨年末に時事通信社から復刻版が発売されました。
私はやっぱり静岡人だからでしょうか、幕末史では幕臣側への思い入れがあって、龍馬や薩長側にはイマイチ関心が持てませんでしたが、大河ドラマの脚本家が同世代ということもあって、龍馬というテーマをどう料理していくのか興味深く観ています。
ここまで観てきて、大河というお茶の間エンターテイメントにせざるをえないせいか、どうも龍馬を持ちageすぎ…?周辺人物(武市半平太や吉田東洋など)の描き方があまりにも図式的で中途半端に思えて、幕末ってそんな単純じゃないだろーって疑問を持ち、今まで小説でしか読んだことのなかった維新側の解説本を探し、最初に見つけたのがこれでした。
タイトルこそ「坂本龍馬と・・・」と入っていますが、龍馬だけじゃなくて、この時代の土佐を中心とした多くの上層・下層の人間が、激変する時代の荒波にどう対処したか、時代全体のうごめく熱気やピリピリとした空気感が伝わってきて、「龍馬もその中でどう立ち振舞ったか」がわかります。彼一人を英雄視せず、またなぜ彼が後世、英雄視されるようになったもわかります。
時代背景を解説する部分が多いので、龍馬の足跡をたどろうとするとじれったく感じますが、その時代の空気を読み解くことで、なぜこの人が、こういう行動を取ったのかがよくわかります。歴史というのはようするに、人が、置かれた環境の中でどう判断し、どう行動したかの積み重ねですから・・・。
この本の草案を1958~59年にまとめたという著者のジャンセン(ブリンストン大学教授)は、ハーバード大のライシャワー教授門下生だった人で、中国の辛亥革命を研究していたとき、革命指導者たちが日本の明治維新の志士たちに憧れていたのに関心を持ったそうです。明治維新の成功が19~20世紀のアジア近代史に与えた重要性に西洋の学者が気づかず、坂本龍馬についても、欧米の本にはほとんど取り上げられていないことから、土佐を例に研究を深めていかれたようです。
この本を読んだ後では、つくづくドラマのキャラクター設定というのは難しいだろうなと思います。脚本家が意図した設定が、演出で変容してしまうこともあるでしょう。
ドラマをきっかけに、登場人物に関心を持って、本を読んだり現地へ行って調べたりする人が増えて、ドラマと実像とのギャップをそれぞれが埋めてくれるといい・・・たぶん多くの歴史家や出版社やご当地ゆかりの方々は、そう思っているはず。私も見事その術中に嵌ったわけですね(苦笑)。