杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

通信使をめぐる瀬戸内の旅その1

2008-03-11 16:42:25 | 旅行記

 8日(土)午後から、NPO事業サポートセンター常務理事の田中尚輝さんを囲む『NPO塾inしずおか』に参加した後、そのまま、22時静岡駅発の夜行バスに乗って一路神戸へ。翌9日、新幹線に乗り換えて、岡山県立博物館で9日まで開催の『特別展・朝鮮通信使と岡山』を観に行きました。

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  ちょうど1年前、映像作品『朝鮮通信使』の制作で、各地へ撮影または写真フィルムを借りた史料の一部が展示されているとあって、思い出深い再会となりました。実際に撮影に行く時間がなく、フィルムを借りただけの大阪歴博の辛基秀コレクション、想定外の大きさに、撮影に苦労した佐賀県立名護屋城博物館の刷還諭告文など110点あまりの展示に、しばし時間を忘れて見入ってしまいました。

 

  

  初めて存在を知ったものもいくつかありました。名古屋市蓬左文庫蔵の「朝鮮人来朝道通り絵図」は、漢城(ソウル)から江戸までの通信使の行程を示した日本と朝鮮半島の地図。1年前はこの絵図の存在に気がつかず、山本起也監督から「江戸時代の古地図に行程をCGで書き加えたい」と指示され、古地図の図鑑を片っ端からめくって、監督のイメージに一番フィットした地図の写真フィルムを、千葉の国立歴史民俗博物館まで借りに行き、CGの調整に、完成披露上映会の直前まで徹夜でかかったのでした。名古屋のこの地図があれば、そんな苦労もせずに済んだ・・・と無性に悔しさがこみ上げてきました。

  

  監督がどうしても画が欲しいと言っていた新井白石の詩集「白石詩草」も、その存在を突き止めることが出来ず、漢詩研究の大家で知られる石川忠久先生(二松学舎大学長)に新井家子孫の蔵本の紙焼き写真を借りるなど八方手を尽くした挙句、映像上の判断で、静岡県立中央図書館にある活字の復刻本で妥協したのですが、この展覧会には下関市立長府博物館蔵の実物が展示されていました。これを観たときは、悔しさを通り越して涙が出てきました。

 

  もっとちゃんと調べればよかった。時間がないからとカンタンに妥協すべきではなかった。映像として何十年も残るものだもの、しっかり調査して、どこに出しても恥ずかしくない素材を監督に提供することが、なぜできなかったんだろう・・・。

 今となってはどうにもならないことですが、この、「どうにもならない悔しさ」だけは忘れないでおこうと思いました。

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  9日午後からは、福山市鞆の浦で、『朝鮮通信使寄港地シンポジウム~朝鮮通信使、これから』に参加しました。通信使が寄港した瀬戸内海の港町(下関、上関、下蒲刈、鞆の浦、牛窓、室津)の関係者が初めて一堂に介し、各町に残る通信使の遺産の現状と今後のまちづくりへの活かし方を考えるシンポジウム。夢はスバリ、瀬戸内海の世界遺産登録です。

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  昨年、撮影でお世話になった上関の安田和幸さん、下蒲刈の蔦村和雄さん、鞆の浦の戸田和吉さん、牛窓の若松挙史さんはじめ、顔なじみの皆さんにいっぺんに再会できるとあって、楽しみに参加しましたが、話が「世界遺産登録」というスケールに及ぶとは思ってもいなくて、「静岡から見てどうお考えですか?」と意見を求められ、しどろもどろ。

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  信仰の道・熊野古道、銀の道・石見銀山に続き、海の道カルチュアルルートとして朝鮮通信使が往来した瀬戸内海も、確かに未来に伝えたい遺産といえそうです。今後、どんな運動に発展していくのかわかりませんが、通信使研究の有志たちがこのような形で集まったのは今回が初めてらしいので、まずは人的交流から、でしょう。

 とりわけ、鞆の浦は、港湾埋め立ての工事に町が賛成反対で2分されています。この鞆がどうなるかが、瀬戸内海の世界遺産構想を大きく左右するようです。去年の撮影時は見かけなかった、世界遺産を目指す登り旗と工事反対署名コーナーが、港の常夜燈に設置されていました。

  

  静岡でも、先日、県全域で有志が朝鮮通信使研究会を立ち上げました。朝鮮通信使というのは、今の私たちの、地域、立場、階層を超えた縁結びになるんだなぁと実感しました。

  

  実は、前夜、静岡駅に向かうタクシーの中で、同席したNPO関係者から「朝鮮通信使の研究って、韓国朝鮮系の政治団体なんかと関わってるの?」と聞かれ、その言葉の響きにちょっとした違和感を覚えました。世間一般の認識って、まだこうなんでしょうか…。

 

  知れば知るほど奥が深く、いろんな地域の人とつながり、知らないことが悔しくなるようなテーマに出会うチャンスは、なかなかありません。ライターとしてこのチャンスにめぐり合えた幸運を、私は精一杯活かしていきたいし、自分が面白がって追いかけている姿に、一人でも新鮮な興味を持ってくれる人がいれば本望です。やっぱりキーになるのは『人』なんですね。

 

*映像作品『朝鮮通信使』(監督・山本起也、主演・林隆三、脚本・鈴木真弓&山本起也)鑑賞とゆかりの地酒賞味/3月25日(火)18時30分から、静岡市産学交流センターB-nest 6階プレゼンテーションルームにて。酒代&おつまみ代2000円。

申込み・問合せは18日までに、シズオカ文化クラブ事務局 TEL 054-271-3111(財団法人満井就職支援財団内、担当・内田)まで。


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