昨日(7日)は、16時から『杉錦』の杉井均乃介社長と一緒に、静岡伊勢丹フーズフェスティバルの蔵元講演会に参加。志太地区の蔵元の中でも、生酛・山廃造りが8割を占めるという異色の蔵元杜氏・杉井均乃介のこだわりと挑戦について、突っ込んだお話をしました。
前日の『志太泉』望月社長とのトークでは、静岡吟醸の素晴らしさ、志太地域の水のよさ、そして各蔵元が技を競い合って酒質が向上したという背景をお話しましたが、昨日は、静岡イコール吟醸(高級酒)というイメージから少し離れ、常温で気軽に呑める昔かたぎの酒を大事にし、そのクラスで吟醸並みの質の良さを追及していきたいという杉井さん個人の姿勢にスポットを当ててみました。
杉井さんはマイクを持つとついつい話に入り込んで、専門的な話にどんどん嵌っていきます。「生酛」「山廃」「速醸」「県と局の鑑評会」なんて言葉、デパートの客層にいきなり聞かせてもピンと来ないなず。内心ヒヤヒヤしながら、フォローできるところはフォローしながらの対談。それでも、彼のように、毎年のように今までやったことのない造りや新規格の商品に挑戦するアグレッシブな造り手のよさを伝えるには、専門的な話で聞いた人が理解できなくても、なんとなく「蔵元自身が一生懸命に考え、体を張って造っているんだ」と感じてもらえればいいと思いました。
最近、映画作りのことでいろいろなメディアの取材を受け、そのたびに改めて「地酒の定義って何ですか?」と聞かれることが増えました。地元の水、地元の米、酵母等など、原材料の産地で定義されるというのが一般的ですが、私自身は、造っている人の顔と姿勢が見えるもの・・・それが、地酒の魅力に相違ないと思っています。同じ水源(大井川伏流水)の水で、地元の山田錦、静岡酵母で造った酒は志太地域にもいくつかありますが、それぞれ味は違います。演者や奏者は同じでも、監督が変われば映画も変わる、指揮者が変われば演奏も変わるのと同じです。『杉錦』は、杉井均乃介の製作・脚本・監督作品なんですね。
デパートのお客さんに、そこまでのこだわりが通じて実際の購買動機につながるかどうかはわかりませんが、杉井さんの生酛造りの話が、マニアックな地酒の会ではなくデパートの催事場で聞けたというのは、ある意味、ひとつの“事件”かもしれません。
トーク後の吟醸バーカウンターでは、杉錦生酛純米大吟醸が飛ぶように売れました。何を呑もうか迷っているお客さんには、「蔵元が来てますよ」とさりげなく杉錦をアピール。隣接コーナーで売っていた雑誌sizo;kaの地酒特集号も、「今日だけで30冊売れてます。ふつうの書店ではありえない数字」と編集長本間さん。
金曜夜は会社帰りのサラリーマンで閉店時間まで大賑わいでしたが、土曜夜は夕方をピークに静かになり、20時を過ぎた頃から、仕事が終わった伊勢丹の社員がネクタイやバッジを外して呑みに来てくれました。
インテリア売り場に勤務しているという若い女性2人組が、いろいろな銘柄を熱心に呑み比べしているのを見て、私もつられて喜久酔松下米40と50を1杯ずつ自分で買って呑み比べ。2人に「同じ蔵で同じ米で造り方も同じだけど、比べてみて」と勧めたところ、彼女たちは、さんざんあれこれ呑んでいたにもかかわらず、軽く口に含んだだけで違いが解ったようで、「お酒ってホントに奥が深いんですねぇ」「こうして説明してもらいながら呑むと、違いがよく解ります」と目を輝かせてくれました。こういう販売員が「自分の実体験や感動をお客様にも伝えたい」という気持ちでセールスしてくれたら、デパートの酒売り場も、人が集まる・蔵元の信頼も集まる売り場に変わるのかも。
杉井さんも「自分は、冷蔵保存なんか気にせず、台所に常温で置いて気軽に晩酌できる酒も大事に造っていたい。誰もが気軽に買いに来れるデパート売り場というのは、十分意識する必要がありますね」と振り返ります。
伊勢丹社員の間に、地酒ファンを増やすこと。これが、今回の企画の“裏の着地点”かもしれません。