今日(12日)から静岡県立美術館で『国宝鑑真和上展』が始ります。私は4月に京都の高麗美術館で偶然お会いした県美学芸員福士雄也さんのご厚意で、昨日(11日)の内覧会に参加させてもらいました。
エントランスホールに一歩踏み込むと、壁一面に等身大の千手観音立像、盧舎那仏坐像、薬師如来立像のシルクスクリーンが。県美エントランスの壁面がこれだけ効果的に使われたのを見るのは初めてでした!
唐招提寺の松浦俊海長老はじめ、関係者の挨拶やテープカットで開場。展示場で最初に目にするのは国宝の四天王立像です。奈良時代(8世紀)に造られた木造乾漆併用の立像で、ふだんは金堂の須弥壇上の4隅に安置されています。
四天王立像といえば、同じく鑑真和上ゆかりの東大寺戒壇院の塑像四天王像が有名ですね。とくに世の中を広く見聞し記録する役目を担った広目天像は、ライターの私にとって大事な“MY仏像”のひとつ。眼光鋭い戒壇院の広目天に比べると、こちらはどっぷりとして愛嬌のあるお顔をしています。それでも眉毛をしかめ、口をへの字にグッと閉じて睨む表情は、校門の前で風紀検査をする学校の先生みたい(笑)。
いずれにしても、金堂須弥壇に置かれた状態とは違い、アートとしての仏像の美しさや仏師・工人の技の推移を、ここ静岡で間近に堪能できるなんて、本当に貴重な機会です。
台座の裏に、当時の工人たちが書き残した落書き、しかも動物の絵などに交じって男根・女陰!のひと筆描きまであることも、初めて知りました。こういうトリビアネタも金堂に置かれた中では封印されていたでしょう。
『朝鮮通信使』制作をきっかけに、絵巻物や古文書への関心も深まりました。これを書き残した人は、ライターの大先輩なんだという見方ができるようになったのです。今回は鑑真和上の伝記をつづった『東征伝絵巻』が見もの。
また『戒律伝来記』や『四分律行事鈔』など修行僧のためのマニュアル本ともいえる文書には、ルビや注釈やメモ書きのようなものも残っていて、当時、進学塾のように詰め込み学習していた若い僧たちの汗と涙が偲ばれます。
最大の目玉である『鑑真和上坐像』の前では、松浦長老らによる法要が執り行われました。法要のあと、坐像間近まで接近して見ることができましたが、4月に東京国立博物館で見た薬師寺展の日光月光菩薩立像と違い、ガラスケースに守られ、背中は両脇から見られるものの、360度グルッと見渡すことができませんでした。さまざまな事情があってのレイアウトだとは思いますが、薬師寺展のダイナミックな展示に比べると、どうも迫力に欠けます。比べても仕方ない話ですが…。
それでも鑑真和上の生き仏のようなお顔を、こんなに接近して見られるのはめったにないこと。弟子の忍基が、講堂の梁が砕ける夢を見て和上の死が近いことを察し、そのお姿をとどめようと弟子たちとともに造ったそうです。もし忍基がカメラを持っていたら、和上のドキュメンタリーを撮っていただろうなぁと想像しました。
記憶を記録として残し、感動を伝える・・・。天平の仏師や筆人たちの仕事の価値を実感し、静岡でライターとして生かされる自分は、静岡の何を次代に伝え残せるかを改めて考える、そんなきっかけになった展覧会でした。
鑑真和上展は7月12日から8月31日まで開催。入場料は大人1200円、中学生以下は無料です。子どもたちがこういう展覧会を無料で気軽に見られるなんて、これは県の文化政策としてはヒットですね!ぜひご家族連れでどうぞ。