静岡県広報課が年4回季刊発行する総合情報誌『ふじのくに』最新号(10号)が発行されました。今回は読み応え満点です。電子版がこちらで読めます。
●名園への誘い 秩父宮記念公園(御殿場市)の紅葉
●知事対談 川勝知事×申�枕秀駐日韓国大使
●県政特集 ふじのくに新銘茶戦略
●防災最前線 津波避難タワー建設ラッシュ
●癒しの一杯 掛川茶・深蒸し茶へのこだわり全国発信
●新東名を使って行って見よう 新富士IC、新清水IC
●ものづくりものづかい 静岡の酒・誉富士と静岡酵母
●しずおかの食 駿河シャモ
●旬の人 女優・鈴木砂羽さん
私が担当した記事の中で、今回、とりわけ心に残ったのが、知事対談で川勝知事と申大使が朝鮮通信使と家康の平和外交について言及されたことでした。対談終了後、思わず、大使館スタッフの方に、自分が脚本を担当した映画『朝鮮通信使』のことを宣伝してしまったほどです(苦笑)。対談は今年8月はじめ、竹島問題が表面化する直前に行われましたので、今、読み返すと感慨深いものがあります。対談記事の一部分を再掲します。
大使 昔にさかのぼるといろいろな交流があったのは確かです。静岡県とゆかりの深い徳川家康が開いた江戸時代、朝鮮王朝との関係が正常化し、朝鮮通信使を通して善隣友好関係が深まりました。これは、21世紀の韓日関係を考える上で非常に参考になると思うのです。
知事 大使から徳川家康の名前を出していただいて嬉しく思います。朝鮮侵攻を行った豊臣秀吉が亡くなった後、対馬の宗氏を仲介役に和平交渉を行い、秀吉軍の被慮となって日本に連れてこられた朝鮮の人々を本国へ帰し、朝鮮通信使を招聘しました。
朝鮮通信使は当時の朝鮮王朝の第一級の文化人です。対馬から九州、瀬戸内海を経て淀から東海道へ入り、江戸まで国書を運ぶ行列を進めます。大陸の進んだ文化を運んでくる通信使は、日本の知識人にとって学びの存在です。とくに静岡市清水区の清見寺には多くの足跡が残っています。朝鮮通信使の招聘は、鎖国の時代におけるもっとも重要な文化交流といえますね。
大使 朝鮮通信使は誠信の心を持って、直接、相手の国に行って地方を訪ね、相互理解に努めました。21世紀も同じです。隣国同士にさまざまな問題が生じても、たとえばアメリカとカナダのように安定的な関係を保てる例もあります。韓日関係も互いに努力すれば出来るのだと信念を持ち、韓日関係に起きる様々な問題にとらわれず、大きな思想を持って取り組んでいくべきだと思います。
知事 徳川家康は朱子学を官学と定め、林羅山を大学長に任命しました。林羅山の師である藤原惺窩(せいか)は禅宗の僧侶でしたが、壬申倭乱で朝鮮から被慮人として連れてこられた朝鮮王朝の儒学者・姜�楢(カン・ハン)と交流するうちに朱子学に目ざめ、袈裟を脱ぎ棄て朱子学者へ転向しました。
徳川政権下で林羅山が学んだ朱子学は、朝鮮王朝屈指の儒学者である李退渓(リテゲ)が16世紀に確立した学問です。朱子学が官学になって、武士は刀を筆に持ち替え、例外なく読み書きができるようにあったのは革命的です。朱子学を正規の学問とした江戸時代には、鉄砲の撃ち合いはなくなり、刀は武士の魂のシンボルとなって、むやみに振り回すことがなくなり、天下泰平の時代になりました。
こうして考えてみると、家康が行った和平交渉というのは大変な重みがあります。今日お茶を入れていただいた高麗青磁もそうですね。朝鮮半島で作られる青磁は本場の中国を超えています。優秀な朝鮮陶工も被慮人となって日本に連れてこられましたが、彼らの優れた陶工技術が有田や伊万里のような名窯を生み出しました。このことから、朝鮮侵攻を「焼き物戦争だ」という人もいるくらいです。
朝鮮民族にとっては不幸な戦争でしたが、結果的には、戦前から海を荒らしていた倭寇は影を潜め、平和な交流の時代がやってきて、被慮人にされた朝鮮学識者がもたらした学問が日本の学問となり、武士道が確立するという、革命的大転換をもたらしたと思います。
大使 時代のものの見方を変えることは大事であると思います。それは、今の韓国と日本にも必要なのでしょうね。両国はアジアの中でただ2つのOECDメンバーであり、民主主義、市場経済、法の支配、人権など人類普遍的な価値を享有しています。これを基に両国の関係を発展させ、また次元を高めて、地域的なレベル、またはグローバルなレベルで協力して、世界で規範となる存在になれたら、と心から願います。もっともっと協力の輪を広げてほしいと思います。
県総合情報誌『ふじのくに』は、毎回1万3千部程度、主に県外・海外のオピニオンリーダー向けに発行されているもので、一般の人には公共施設の情報閲覧コーナーで回覧するぐらいしか目に留まらず、こういう雑誌があること自体、あまり知られていないと思います。
今回の知事対談では社会文明論の専門家でもある川勝知事が、朝鮮通信使と家康の功績を、実に端的に解説してくださいました。申大使の受け答えも見事です。朝鮮通信使でもっとも大切なキーワードである『誠信』の2文字を、大使の口からお聞きできたのは、通信使の歴史を多少なりともかじった身からすると、大変な重みがあり、深く感動しました。この対談記事は、ぜひ歴史の授業に使ってほしいと思うほどです。
『ふじのくに』をぜひ有効活用してくださいね!