今日(16日)は朝からあわただしい一日でした。
まず、朝8時30分から杉井酒造(藤枝市)で『吟醸王国しずおか』ロケ。焼酎の麹づくりの撮影です。
この時期、仕込み蔵が稼動している酒蔵は、機械化が進んだ大手を除けばほとんどありません。蔵元の仕事は、もっぱら瓶詰めや営業が中心で、冬場に取れなかった休みをまとめて取って海外旅行などでリフレッシュする人もいます。
焼酎やみりんも造っている杉井酒造では、仕込み作業がないのは8月ぐらいで、年間を通して蔵が稼動しています。生産量が少ないので、作業そのものは、さほどハードではなさそうですが、蔵を休ませないということは、蔵元も気が休まる時期がないということ。改めて杉井さんのバイタリティに感心してしまいました。
今日、仕込んだ麹は、山田錦の米粉で造る焼酎の麹。米粉を液化させて造る焼酎は、数年前、米粉の後処理になるということで、液化装置を買った酒造メーカーが競って造った時期があったそうですが、本格焼酎の味にはかなわないのか、すっかり廃れてしまったとか。杉井さんは山田錦を自社栽培する県外の蔵元から、山田錦の米粉は焼酎に出来るかという相談を受け、試しに造ってみることに。確かに、山田錦の米粉焼酎というのは聞いたことがありませんよね。どんな味になるのか楽しみです。
ちなみに麹米は山田錦ではなく、静岡県産の一般米(精米歩合70%)。造り方は基本的に日本酒の麹づくりと同じで、蒸してから麹室に引き込んで総破精(そうはぜ)麹を造ります。種もやしを豪快に振り撒く作業に、カメラマンの成岡正之さんはビックリ。確かに、吟醸麹の極端な突き破精造りしか見たことのない人には好対照だったでしょう。
杉井酒造の麹室へ続く木造の階段や屋根の梁、柱なども、被写体としては実に魅力的。どこかの民俗資料館とか古民家展示場でしか触れることの出来ない蔵が、この時期、現役の作業場として人の足音、息吹を響かせながら稼動しているのです。心あるカメラマンなら、撮らずにいられなくなるというのも道理で、成岡さんは建物のイメージショットを夢中で撮っていました。『吟醸王国しずおか』では、人のいとなみや技術の気高さと同時に、酒蔵という建物の価値や魅力も伝えられたら、と思いました。それには撮る側の体制もそうですが、撮った画をどうやって再生するか、ハードの問題も重要になってきます。
昼過ぎに静岡へ戻って、13時からアイセル21葵生涯学習センターの『平成20年度アイセル歴史講座第1回・朝鮮通信使鑑賞会』に。過去ブログで紹介したとおり、3月のシズオカ文化クラブ定例会の朝鮮通信使上映会に参加した静岡歴史愛好会の長田和也会長が、ご自身が世話人を務めるアイセル歴史講座の今年度第1回講座に招いてくださったのです。
この講座は年10回の開催で、講師は中村羊一郎さん、黒澤脩さん、田口英爾さん、前林孝一良さんなど静岡を代表する歴史研究家のお歴々。そのトップバッターとして、私なんぞが講師なんて肩書きで招かれていいのか冷や汗モノ。しかも90名の受講生のうち、この作品を観たことがある人はわずか4人。歴史好きの市民に観てもらえる初めてかつ貴重な機会だけに、期待と緊張が入り乱れ、70分の上映中、直立したままでした。
携帯用のDVD再生機を使い、黒板の半分くらいのサイズのプロジェクターに映しただけの上映だったので、ハッキリいってハイビジョン作品がまるで台無し。始まっていきなり「観にくいなぁ」「もともとこんな暗い映像なのか」のつぶやき声が漏れ聞こえてきます。上映後、長田会長は「市税を投じて作ったのに、市は作りっ放しで、DVDもただ配ればいいというだけ。本当に観たい市民が、いい画質で観られるようにしてほしい」と私が言いたくても言えずにいたことを、はっきり提言してくれました。
気になる受講生の反応ですが、質問タイムには一人も手が上がらず、肩を落としたものの、帰り際に直接「20日の静岡市民文化会館の上映時間は?」とか「冊報使という言い方をしている資料もあるがその違いは?」などと矢継ぎ早に質問を受けました。
そして最後に、品のよさそうな高齢のご婦人が「今まで観た朝鮮通信使関連の映像作品の中で、一番よかったわ!」とこちらの手を取らんばかりに駆け寄って褒めてくれて、不覚にも涙が出そうになりました。知り合いやメディア関係者がそれなりに(おつきあいで?)褒めてくれることは多々ありましたが、まったくの一般市民で、歴史好きの高齢者の方から、こういう反応をいただけるというのは、作り手冥利に尽きるというもの。念のため持参した赤字だらけの脚本を、思わず胸に抱きしめました。
こんなひどい画質でも、これだけ喜んでくださったのなら、なんとしてでもハイビジョン仕様のベストコンディションで観てもらいたかった…!
酒もそうですが、造り手がどんなに心血注いで造っても、出来上がった作品がすべてです。嗜好品ですから当然といえば当然ですが、蔵元は、できれば気分や体調のいい時に味わってもらいたいと願うもの。映像も同じで、監督や脚本家の苦労のほどと、作品の評価とはまったく別。ならば、せめて、いい環境(画質)で観てもらいたい。
今、撮っている『吟醸王国しずおか』も、ベストコンディションで鑑賞できる環境づくりを真剣に考えなければ、と思います。