杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

複眼と深厚

2008-06-15 12:10:04 | 吟醸王国しずおか

 ここ3日間ほど、買い物以外は外に出ないで、自宅で雑務に追われていました。

 静岡の酒の映像化を思い立ってちょうど1年。激動のこの1年を振り返りながら、映画づくりに寄付をしてくれた力強いパートナーのみなさんに感謝のメッセージと、映画づくりへの決意表明&末永いご支援をお願いする『吟醸王国しずおか映像製作委員会・会報誌』を作り、なんやかんやで印刷・発送準備に3日かかってしまいました。内容は、現在、制作にあたる3名のプロフィール紹介。このブログの記事をベースにしていますので、ブログをご覧の会員さんからは「二番煎じじゃないか」とお叱りを受けるかもしれませんが、会員の半数以上はネットをほとんどやらず、撮影の進捗状況をまったくご存じないので、紙媒体の情報提供も必要だと思った次第です。書き下ろしの記事も2本入っていますので、お許しください。

 

 

 さて、昨日(14日)は、会報誌の発送準備の合間に時間を縫って、アイセル21葵生涯学習センターで開催された『静岡人権フォーラム総会』に参加し、久しぶりに金両基先生の“ふだん着の人権論”を拝聴しました。秋葉原事件を受け、先生は「最大の人権侵害は殺人と自殺です。人権について考えることは、イコール良心とは何かを追求すること。それはイコール自分を人間として鍛え、高めること。それを忘れてはいけません」と強調されていました。

 

 

 私はフォーラムに入会したばかりなので、どんな人が集まるのかわからず、20日に静岡市民文化会館中ホールで予定されている金先生監修の『朝鮮通信使』無料上映会のPRが出来れば、と、軽い気持ちで参加したのですが、メンバーの顔ぶれにはビックリ。同和問題、朝鮮総連、韓国民団、県会議員、県や市の職員、教師、歴史研究家等など。人権問題にとりたてて詳しいわけでも、何か身近に問題を抱えているわけでもない一市民の私から見たら、「人権」というキーワードだけでこれほど幅広い階層から、しかも東は沼津から、西は浜松から集まってくるというのが、まず驚きで、、総連、民団、公務員が一堂に会して、言いたいことを言い合うというのも、たぶん、めったに見られない光景じゃないかと思いました。

 

 

 メンバーの中からは「静岡県民は人権意識が低すぎる」という苦言もありましたが、人権を、侵す・侵されるの立場で見る限りは、いつまでも対立の構造や、一般の人のとっつき難さは解消されないのでは、と感じました。金先生が“ふだん着感覚で”と呼びかけるのは、人権を考える間口を広げようとされているのでしょう。この会は、先生のそんな深厚ある語りかけがあってこそ、いろいろな階層の人々が気負いなく集えるのだと思います。人権を侵された経験のある人から見たら、生ぬるいと感じるかもしれません。ただ、そのぬるさが、私のような一市民や若い人々に扉や間口を広げてくれるような気がします。

 先生は事あるごとに「外国人の私が公の場でこういう発言をするのは初めて」とおっしゃいますが、たぶん、(帰化も改名もせず韓国人として生き抜いてこられた)先生でなければ、公で発言をして多くの人々の共感と納得を得ることはできなかったでしょう。こういう導き手がいて、対立軸で見られがちな立場の人々がフランクに集える場があるというのは、未来志向で考えれば、静岡はむしろ新しい人権意識が芽吹く街になり得るんでしょうか。

2008061413550000

 

 

 総会の後の講演会では、県会議員で県史編纂にも携わった歴史研究家の前林孝一良さんが、徳川慶喜の静岡時代について解説をしてくれました。慶喜に対する評価は、今の大河ドラマのように勝者側(薩長)から見たら“統領の器にあらず”なのかもしれませんが、歴史というのは、私も朝鮮通信使取材で痛感したとおり、複眼で読み取らなければなりません。

 

 前林さんは「慶喜が鳥羽伏見や戊辰戦争の矢面に立っていたら、それこそ全面戦争になっていた。自分がそういう立場にあることを自覚していたからこそ、勝海舟の進言を受け入れ、身を引いて、その後も恭順を貫き、結果的に日本を流血の革命に突き進ませずに済んだ」と評価します。そして、静岡時代は、幹事役に勝海舟と山岡鉄舟、公用人に関口良輔(初代静岡県知事)、陸軍学校頭取に西周、新番組之頭(SP)に中條金之助(牧之原大茶園開拓者リーダー)、学問所頭に向山黄村(“静岡”の命名者)、一等教授に中村正直(日本初の翻訳本=日本初の100万部ベストセラーを書いた学者)、そして慶喜の“相棒”新門辰五郎が側にいた。静岡学問所は当時の最高インテリジェンスが集結した場で、東京大学が開校したとき、そっくり移されたそうですから、明治初期の静岡というのは、ある意味、何かが生まれるエネルギーの塊みたいな街だったんですね。

 

 

 慶喜が江戸開城後に寛永寺から水戸へ移ったとき、イケイケ統領だったらそのまま上野~会津~函館戊辰戦争に突入していたかもしれません。徳川家16代を継いだ家達の駿府移封に従って静岡へ移ったことが、結果的に、静岡という街に無形の財産を残したわけです。

 

 

 金先生の語りかけは、すぐには成果が現れないと思いますが、何十年か経ったら「結果的に、静岡の街に無形の財産を残した」と評価される、そんな兆しをビンビンと感じました。

 私が吟醸王国しずおか映像製作委員会の会報誌に書いた原稿にも、「映画づくりというのは、すぐに静岡の酒の売上げに跳ね返るというような成果に現れない試みですが、制作者としてこういう気持ちで取り組んでいます」というメッセージを込めました。

 

 

 人権フォーラムの席上、刷り上ったばかりの会報誌を参加者に紹介し、アイセル21を後にして近くにあるNPO法人活き生きネットワークの事務所にお邪魔し、デスクを借りて梱包作業をし、夕方、曲金の宅急便センターへ。

 予算もないので、とりあえずお送りしたのは、会員さんプラス映画制作のPRをしてくださったメディア関係者あわせてきっかり100名。今はクロネコメール便ならA4サイズの書類も80円(×100通=8000円)で届けられるんですね。ありがたい時代です。間もなくお手元に届きますので、ぜひご感想などお寄せください。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
鈴木真弓さん。 (遠藤正雄)
2008-06-16 11:33:46
出席ありがとうございました。なかなか多忙なメンバーを参加していただくのに苦労です。でも、何とか総会らしく終えたのでホットしてます。活き生きネットを見ました。監査に民生委員で一緒に活動を昨年までしていた、青島さんが載っており吃驚しました。多くに人が自分のと立場で頑張ることが人権ではないでしょうか。クロネコの80円の情報ありがとうございます。私も利用します。
     静岡人権フォーラム  遠藤
返信する
こちらこそおつかれさまでした。大変有意義な会で... (鈴木真弓)
2008-06-16 17:43:36
こちらこそおつかれさまでした。大変有意義な会で、参加できて光栄でした。クロネコメール便はA4でも全国一律80円で重宝しますが、配達が翌々日です。速達にするには+100円かかり、一般郵便より高くなるみたいですから、ご注意を。
返信する