昨日、入手した喜久酔の酒粕を持って、金谷の染色画家・松井妙子先生のお宅へ年末のご挨拶に行ってきました。牧之原の茶畑のど真ん中にある、先生お気に入りの自家焙煎珈琲店アルムでお茶をしながら、この一年の出来事を振り返り、表現者として生きる悦びや難しさを語り合いました。
松井先生とは、1992年3月発行のJA静岡中央会産直ガイド『四季ORIORI』の取材で、お茶にまつわるお話をうかがって以来、親しくおつきあいをさせていただいています。
先生は、ふくろう、カワセミ、なまず、アンコウなど愛らしいキャラクターが自然と寄り添う姿を、優しく、温かいまなざしで描かれます。5月のGW明けに松坂屋静岡店で開催される年1回の個展は、初日午前中に大半が売約済みになってしまいます。「小さな作品しか手が届かないけど、1年間、コツコツ貯めて買いに来たの」というお客さんが大勢来ます。お正月の福袋のときのように、初日開店前から並び、オープンと同時に6階画廊までエスカレーターを駆け上がる(エレベーターより早いらしい)人もいるそうです。
10数年前、1枚だけ、自分に買えそうな額の作品が奇跡的に残っていたことがありました。作品を選ぶ、というよりも、作品に選ばれた、という思いに近かったでしょうか。雪の中、じっと春の訪れを待つカワセミの姿は、当時の自分を映し出しているようでした。
「余分なものは要らない、シンプルに生きられるのが一番ね」とおっしゃる先生。かといって自然豊かな山里でアトリエを構えたり、気ままに放浪生活をする作家とは違い、生家である金谷の古い商家で、実母を介護しながら、市井のつつましい暮らしを続けておられます。
「母が元気な頃は気持ちが外にばかり向いて、カリカリ尖がった生き方をしていたと思う。今、こうして母の面倒を見るようになって、心がずいぶんおだやかになったの」と前向きに語ります。先生の作品は、先生のお人柄そのものだな…と改めて実感しました。
松井妙子先生の作品は、静岡グランドホテル中島屋&焼津グランドホテルに常設展示されています。2008年は2月に金谷のミンクル(図書館)、5月に松坂屋、秋にお茶の郷で展示会が予定されています。ぜひ一度ご覧になってください。