杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

全国新酒鑑評会その1

2008-05-23 11:07:33 | 吟醸王国しずおか

 5月21日~22日、広島市で開催された全国新酒鑑評会と関連行事の撮影に行ってきました。

 まず21日は13時から広島市南区民文化センターで第44回独立行政法人酒類総合研究所講演会。かつての国税庁醸造試験所、現在の(独)酒類総合研究所(東広島市/東京都北区滝野川)が、新酒鑑評会にあわせて日本酒に関する日ごろの研究成果を発表する会で、テーマは

〇清酒のおいしさを探る~清酒の口腔内刺激によるおいしさと生理的なおいしさ、摂食下での清酒の嗜好など

〇大吟醸麹の秘密はどこまで科学で探れるか?~ゲノム麹学研究の現状と未来

〇麹の品質は予測できるか~製麹時間に応じて変化する製麹条件の下での麹の酵素力価と菌体量、気中菌糸と基底菌糸の比較

〇排水処理用酵母が生産する酵素の環境保全への利用~バイオプラスチックの分解が期待されるクチナーゼ様酵素

〇酒類の飲酒動機について~飲酒回数や量が増加した酒類は?その動機は?

〇平成19酒造年度全国新酒鑑評会の結果について

〇清酒のブランド戦略について

と実に幅広いジャンル。素人の私にはゲノム解析とか酵素力価云々にはとてもついていけませんが、おいしさの感じ方やら飲酒動機など消費者を対象とした研究分野のお話にはなんとか食いついていけたかな、という印象。もっとも聴講よりも撮影が主目的でしたから、最初は出席している静岡の蔵元の表情を追いかけるのに必死でした。

 

 

  印象に残った解説では、

 「ヒトと動物(ラットやマウスで実験)の清酒の嗜好は、生理的な差(=体調や心理状態によって生じる違い)はないが、口腔内刺激(=きき酒で感じる味・香り・口当たり等)には差があり、飲酒初心者と経験者でも同様の結果となった。とくに初心者は空腹時と摂食時では嗜好が大きく異なる」

・・・つまり、新たな日本酒ファンを増やすには、食事との組み合わせを上手に提案していくことが重要だと、科学的にも証明されたってことですね。

 

 

 「麹菌が分離されて130年経つが、酵母に比べ、未だに麹の解析は進んでいない。麹菌は約1万の遺伝子を持っているが、半数以上が機能未知の遺伝子」

 「吟醸麹はアミノ酸の取り込みや合成に関わる遺伝子が多く、普通麹は脂質の利用に関わる遺伝子群が多い。今後は“麹の品質”そのものともいうべきタンパク質生産に関する遺伝子解析が究めて重要になる」

・・・麹の文化って長い歴史があるにもかかわらず、科学的な解明がほとんどなされていないというのは意外でした。日本酒造りでも「一に麹、二に酛、三に造り」といわれるように、最も重要な工程とされているのに。科学が容易に踏み込めない未知の分野だからこそ、造り手の差が最も表れる、といえるのかもしれません。

 

 「手入れをしない麹は、基底菌糸よりも気中菌糸が多く、温度や湿度によってその量が大きく変わる。しかも気中菌糸は酵素生産をほとんど行わない。条件を整えたとしても、手入れをしないと目視でわかる程度に増殖する。酵素を作らない気中菌糸が増えてしまうのは麹の品質を大きく左右する」

・・・つまり、杜氏や麹屋は経験値から、米粒の表面や内部に栄養を求めて増殖する基底菌糸と、米粒から離れて勝手に成長し、最後には胞子になる気中菌糸の機能をわきまえた上で、種もやしをどれだけ振るか、手入れの回数をどれだけ行うかを決めているんですね。腕の高さを一定にし、振るタイミングや量に全神経を集中させる磯自慢の多田杜氏の麹作りを思い出しました。

 

 「日本酒を呑む回数が増えたと答えた人の理由は、“おいしく感じるようになったから”“知る・わかる・目覚める・出会う”“和食・日本料理に合うから”が多い。他のアルコールと比較してもきわめて多い」

 「日本酒を呑む量が増えたと答えた人の中で、20代では“好みのタイプはわからない”“自分では買ったことがない”との回答が多かった」

・・・会場から「日本酒を呑む回数が増えた人の解析よりも、呑まなくなった人の解析をすべきではないか」という質問があり、「呑まない理由を分析したところで、それに対処する手立てを考えるのは容易ではない。むしろ、呑むようになった人の動機を参考にするほうが有益だと思う」と発表者。質問者(どこかの蔵元さん)は不満げな顔でしたが、私も、マイナス要因よりもプラス要因を伸ばすことを考えるほうが実効的だと思いました。

Dsc_0017

 

 

  21日夜は、地元広島市の酒販店『酒商山田』さんが主催する『全国新酒鑑評会前夜祭~2008蔵元を囲み美酒を愛でる会』を撮影させてもらいました。北は青森の田酒さんから、南は福岡の独楽蔵さんまで、全国39蔵が集まり、参加者は170人ぐらい。参加人数に比べ、蔵元の数が多くてぜいたくな会だなぁというのが第一印象でした。翌日の鑑評会のために全国から蔵元が集結する機会だからこそ実現したのかもしれません。ちなみに静岡からは喜久酔さんのみで、しかも青島さんは全国新酒鑑評会に出品しておらず、翌日は朝一番で広島を離れる予定。酒商山田さんがこの会を数蔵で店の2階で始めた8年前からのつきあいだそうです。

Dsc_0021_2

 

  同席するのは、鑑評会で金賞銀賞落選に泣き笑いする蔵元がほとんどです。彼がどんな思いで広島に来たのか、ホテルに戻ったら少し時間をもらってインタビューを撮ることにし、私と成岡さんは会場を後にしました。


最新の画像もっと見る