杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

ブックカバーチャレンジの出会い

2020-05-20 17:14:10 | 本と雑誌

 Facebookのユーザーは、STAY HOME 期間中、体験された方も多いと思います。7日間ブックカバーチャレンジ。読書文化を盛り上げるため、7日間毎日1冊好きな本の表紙を投稿し(内容説明はしない)、ついでにFB友だちを一人指名しチャレンジを依頼するというもの。あくまでもSNS上の “余興” で、罰則規定があるわけではないので、依頼が来てもスルーしてもいいし、7日間続けなくてもいいし、1冊ずつじゃなくてもいいし、内容を紹介しちゃってもいいし、友だちを招待する・しないは自由だし・・・等々、チャレンジしている人の投稿を見ると、結構自由に解釈しながら楽しんでいるようです。

 私のところへは5月1日に依頼が来て、せっかく ”縛り” がある余興ならば、ちゃんと守ってやるのも面白いと思い、ルールにのっとって7日間チャレンジを楽しみました。ただ、本を選んだ理由と感想をひと言ぐらい付けておかないと、読んでくれる人に不誠実だろうと考え、クドクドしない範囲でコメントを付け、一人ずつ紹介するFB友だちは、選んだ本に何らかのつながりがありそうな人を選ばせてもらいました。

 本と友だちを組み合わせる難しさは、このチャレンジ最大の楽しさでもあり、紹介したい本があっても友だちが見つからない or この人を紹介したいと思ってもふさわしい本がないという(自分で勝手に作った)ジレンマにやきもきしながらも、このブログで書評記事を書くときには体験できない、読書と交友関係の “棚卸し” ができたように思います。

 そしてこのチャレンジ最大のご褒美は、自分とは接点のなかった本との出会い。自分が紹介した7人のFB友だちが各々紹介した7冊の本は、そのジャンルさえ自分では触手することがなかった新発見の本がたくさんありました。

 もちろん、そういう出会いを求めて、好みが近そうな友人はあえて選ばなかったということもありますが、年齢を重ね、同じジャンルの似たような傾向の本ばかり選んで、それが結局自分の思考を一定方向に硬直させていることに気づかされます。便利だからとネットでばかり買うと、似た傾向の本を薦められるという功罪もありますね。

 本は、膨大なジャンルから自由に選択できる、なんの縛りもない知のフロンティア。自由に回遊できる書店や図書館をもっとしっかり利用しなくてはいけません。

 

 こちらが私に知の新たなフロンティアを拓いてくれた友人のオススメ本。7人×7冊の中から、とりあえず友人1人につき1冊ずつ、すぐに手に入った&借りられたものを紹介します。

 

 最初に紹介した友人(先輩記者)が、最初に紹介した本が『夢見る帝国図書館』。しゃれてる題名だなあと思ったら、帝国図書館って終戦の年から2年余り実在した占領下の「オキュパイト・ジャパンの帝国図書館」だったんですね。図書館を擬人化させる構成が素晴らしかった。

 絵本作家のヨシタケシンスケさんは、子どものいない私にはまったく未知の存在。『ころべばいいのに』の内容は、おそろしく含蓄のある対人交際術でした。紹介してくれたのは、認定NPO法人の代表者で障害を持つ子どもたちを我が子同様に支え続ける肝っ玉母ちゃんみたいな素敵な女性です。

 洋書の翻訳本もふだんほとんど触手しないジャンル。『フィネガンズ・ウェイク』を紹介した友人(編集者)は、無人島に持って行く1冊としてすすめる翻訳文学の金字塔と絶賛ですが、言葉だけでぶっ飛んだ感覚って、初めて陀羅尼経を音読したときを思い出しました。言葉を理解するのではなく感じる感覚。作者はもちろん、これを日本語に翻訳した人の頭の中ものぞいてみたい。

『心臓を貫かれて』は紹介してくれた友人(翻訳家)が「訳者の村上春樹さんが、翻訳してきた作家にはだいだい会ってきたけど、ギルモアだけはあんなに辛い話を読んだ後に会うことが出来なかったと語っていた、凄みのある本」と薦めてくれました。

『七〇歳からの挑戦ー電力の鬼・松永安左エ門』は、茶人松永耳庵としても名高い電力王松永安左エ門の評伝。この本を紹介してくれた友人(酒匠・料理人)のご主人が、耳庵の書生として茶道文化を学んでいたというご縁。安左エ門は60歳で茶の世界に入り、論語の「六〇にして耳順う(したがう)」から耳庵と号するようになり、71歳のとき終戦を迎え、「これから俺の戦争の始まりだ」と私財をなげうち、戦後の電気事業再編に尽くしました。こういうかっこいいお爺さん、いないですよねえ・・・。

 今から30年ぐらい前、平成の米騒動が起きる直前に、井上ひさしが『コメの話』を書いていたとは新発見。読書家で自著もある友人(米農家)が薦めてくれました。「工業国はどこもしっかりとした農業国だという大鉄則がある」というくだりを読んで、モノづくり県を自認している静岡県はコメをちゃんと作っているのだろうかと不安になりました。

 珈琲豆ハンターの友人が薦めた『サツマイモの世界・世界のサツマイモ』。筆者山川理氏は静岡市出身のサツマイモ博士です。日本は世界のサツマイモの生産量の1%ぐらいしか占めていませんが、機能性研究は日本発祥かつ最先端。山川先生は九州農業試験場でフルーティーで淡麗な焼酎ができる新品種ジョイホワイトを開発して宮崎の「山猫」「ひとり歩き」を、有色サツマイモ系新品種を数種開発して鹿児島の「赤霧島」「茜霧島」を大ヒットさせた功労者だそうです。静岡市出身でそんな御仁がいらっしゃったのかとビックリ!

 

 上記7冊を紹介してくれた7人以外にも、FB上でユニークな本の存在を教えてくれた方々に、心から感謝します。

 私が紹介した7冊と、候補に選んでギリギリまで迷った7冊は、ここでも追々紹介させていただきますね。

 

 

 

 

 


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