今朝(3月14日)の新聞朝刊でも報道のとおり、昨日、静岡県清酒鑑評会が県沼津工業技術支援センターで開催され、『喜久醉』が吟醸の部首位賞(県知事賞)に選ばれました。また
純米の部首位賞は『富士錦』が選ばれました。両蔵のみなさま、本当におめでとうございます! 結果は県酒造組合のこちらのページを。
先日、喜久醉の出品酒搾りをみた時、久しぶりだったせいもあって、本当に感動したのと同時に、素人ながら、搾った段階でかなりの完成度だとわかって、思わず杜氏の青島孝さんに「守・破・離」の「守」は完全に超えたね!と言ってしまいました。
品質管理に厳しい青島さんは、搾りの後の処理工程や、出荷までの熟成度合を考慮して、搾った直後はかなりひきしまった、素人目には(香味的に)物足りないくらいの状態にするのが常でした。ところが、このところ業績絶好調の喜久醉は、熟成期間を置かずに出荷せざるをえなくなったようで、私も正直に「まだ飲み頃じゃないじゃん!」と文句をつけちゃったりすることもありました。造った当人も、そのことはよく解っているので、熟成のピークをいつ持っていくか、そのためにどういう造りをすべきかを熟考したわけです。
この計算って、ものすごく高度で難しいと思う。・・・熟成変化する酒を1~2年先まで市場でどう動くか予想しながら、さかのぼって在庫管理→貯蔵管理→さらにさかのぼって品質管理→仕込み管理→原料米の仕入れ&従業員の勤務管理までしなければならないわけです。市場の変動が激しい時代、マニュアルどおりにやろうと思ったら、どこかで目をつむらなければならない。青島さんにしてみれば、ファンドマネージャー時代に鍛え上げたリスク管理のノウハウを、今こそ応用すべきなんでしょう。
それはさておき、3月のこの時期での出品・審査は、蔵元にとっては大いに神経を遣います。「出品のため」とわりきって、この時期にピークを持っていく蔵もあれば、「あくまで市販酒で勝負する」という蔵もある。出品酒は最高級のプレミア酒=大吟醸・純米大吟醸です。蔵の規模によって、タンク何本も仕込めるところもあれば、1本ずつしか仕込めない、というところもあります。当然、何本も仕込める蔵は、そのうちの1本を「特別仕様」にできる。有利といえば有利ですね。
いずれにせよ、出品・審査を意識した蔵は、出品用に斗瓶に取り分けた意味の『斗瓶取り』というラベルをつけて、特別仕様の限定酒と謳って市販することが多く、これはこれで、ファンにとっては貴重な逸品となります。
逆に、特別仕様のアイテムは増やさず常にレギュラー商品の品質安定にこだわる蔵、あるいは大吟・純大吟をタンク1~2本しか仕込まず、一滴も無駄にしないで売りたい、という蔵にとっては、この時期にピークを持ってこれる蔵の酒と同時期に審査されるのは若干の不利です。審査員にしてみても、「この酒は今は味も香りもイマイチだが、上手に貯蔵熟成させたら、半年後には素晴らしい酒になる」・・・と判っても、審査時にピークをあわせてちゃんと造ってくる蔵の酒をおしのけてまで評価する、というのは難しいんじゃないかしら。
そもそも、鑑評会への出品自体をどうとらえるか、どちらの蔵の考え方がベターなのか・・・つきつめてみれば、それぞれの蔵の経営方針なんだろうな、と思います。鑑評会での高評価は、造り手のモチベーションを確実に高めてくれますし、ファンにとっても「特別仕様」の酒はワクワク感があるし、酒屋さんも話題性があって売りやすいでしょう。
青島さんはつねづね、限定酒や特別仕様酒等のアイテムは極力減らし、レギュラーアイテム(普通酒・特別本醸造・特別純米・吟醸・純米吟醸・大吟醸・純米大吟醸)が、いつ、どこで飲まれても、つねに安定した品質で、「これぞ喜久醉の味!」とファンに安心して喜んでもらえる酒を造り続けて行く、と言っています。そのための、製造・販売面での課題に全力投球する蔵元であり、新酒鑑評会で賞を取ることは二の次なのでは・・・と私は見ています。
ファンや取引先に、どう喜んでもらうか、の選択なんだと思う。メーカーにとっては永遠のテーマかもしれませんね。
その意味でも、今回、青島さんが首位賞を受賞したというのは、とても感慨深いものがあります。
・・・偶然ですが、前回、青島さんが首位賞を受賞した2008年は、吟醸王国しずおかの撮影で仕込み~搾りまで完全密着して撮影しました。搾りを撮るのはそれ以来の、今年2013年、見事に首位賞を取ってくれました。搾りたての酒に「いい酒になるぞー!」と思いを込めた私のささやかな念力が効いたのでは、と、独り、ほくそえんでいます。毎年搾りに撮影に行けば連続受賞してくれるかしら(笑)。
さて、ここからが大事なお知らせ。恒例の静岡県清酒鑑評会一般公開(蔵元自慢の酒きき酒会)は3月25日(月)12時~14時、グランディエールトーカイ(JR静岡駅前葵タワー4階)。入場無料で、出品全種が試飲できます。県知事賞受賞酒は早く行かないと品切れになりますので要注意!
そして、しずおか地酒研究会恒例の松崎晴雄さん(県鑑評会審査員・・・上記新聞写真の中央に写っていますね!)の新酒講話を聞く松崎サロンを、4月2日(火)19時から静岡県労政会館5階会議室にて開催予定です。詳細が決まりましたらお知らせしますので、ぜひお楽しみに!