杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

2013年静岡県清酒鑑評会「喜久醉」県知事賞

2013-03-14 11:09:33 | しずおか地酒研究会

 今朝(3月14日)の新聞朝刊でも報道のとおり、昨日、静岡県清酒鑑評会が県沼津工業技術支援センターで開催され、『喜久醉』が吟醸の部首位賞(県知事賞)に選ばれました。またImgp1266
純米の部首位賞は『富士錦』が選ばれました。両蔵のみなさま、本当におめでとうございます! 結果は県酒造組合のこちらのページを。

 

 

 

 先日、喜久醉の出品酒搾りをみた時、久しぶりだったせいもあって、本当に感動したのと同時に、素人ながら、搾った段階でかなりの完成度だとわかって、思わず杜氏の青島孝さんに「守・破・離」の「守」は完全に超えたね!と言ってしまいました。

 

 品質管理に厳しい青島さんは、搾りの後の処理工程や、出荷までの熟成度合を考慮して、搾った直後はかなりひきしまった、素人目には(香味的に)物足りないくらいの状態にするのが常でした。ところが、このところ業績絶好調の喜久醉は、熟成期間を置かずに出荷せざるをえなくなったようで、私も正直に「まだ飲み頃じゃないじゃん!」と文句をつけちゃったりすることもありました。造った当人も、そのことはよく解っているので、熟成のピークをいつ持っていくか、そのためにどういう造りをすべきかを熟考したわけです。

 

 この計算って、ものすごく高度で難しいと思う。・・・熟成変化する酒を1~2年先まで市場でどう動くか予想しながら、さかのぼって在庫管理→貯蔵管理→さらにさかのぼって品質管理→仕込み管理→原料米の仕入れ&従業員の勤務管理までしなければならないわけです。市場の変動が激しい時代、マニュアルどおりにやろうと思ったら、どこかで目をつむらなければならない。青島さんにしてみれば、ファンドマネージャー時代に鍛え上げたリスク管理のノウハウを、今こそ応用すべきなんでしょう。

 

 

 それはさておき、3月のこの時期での出品・審査は、蔵元にとっては大いに神経を遣います。「出品のため」とわりきって、この時期にピークを持っていく蔵もあれば、「あくまで市販酒で勝負する」という蔵もある。出品酒は最高級のプレミア酒=大吟醸・純米大吟醸です。蔵の規模によって、タンク何本も仕込めるところもあれば、1本ずつしか仕込めない、というところもあります。当然、何本も仕込める蔵は、そのうちの1本を「特別仕様」にできる。有利といえば有利ですね。

 いずれにせよ、出品・審査を意識した蔵は、出品用に斗瓶に取り分けた意味の『斗瓶取り』というラベルをつけて、特別仕様の限定酒と謳って市販することが多く、これはこれで、ファンにとっては貴重な逸品となります。 

 

 逆に、特別仕様のアイテムは増やさず常にレギュラー商品の品質安定にこだわる蔵、あるいは大吟・純大吟をタンク1~2本しか仕込まず、一滴も無駄にしないで売りたい、という蔵にとっては、この時期にピークを持ってこれる蔵の酒と同時期に審査されるのは若干の不利です。審査員にしてみても、「この酒は今は味も香りもイマイチだが、上手に貯蔵熟成させたら、半年後には素晴らしい酒になる」・・・と判っても、審査時にピークをあわせてちゃんと造ってくる蔵の酒をおしのけてまで評価する、というのは難しいんじゃないかしら。

 

 

 そもそも、鑑評会への出品自体をどうとらえるか、どちらの蔵の考え方がベターなのか・・・つきつめてみれば、それぞれの蔵の経営方針なんだろうな、と思います。鑑評会での高評価は、造り手のモチベーションを確実に高めてくれますし、ファンにとっても「特別仕様」の酒はワクワク感があるし、酒屋さんも話題性があって売りやすいでしょう。

 

 

 

 青島さんはつねづね、限定酒や特別仕様酒等のアイテムは極力減らし、レギュラーアイテム(普通酒・特別本醸造・特別純米・吟醸・純米吟醸・大吟醸・純米大吟醸)が、いつ、どこで飲まれても、つねに安定した品質で、「これぞ喜久醉の味!」とファンに安心して喜んでもらえる酒を造り続けて行く、と言っています。そのための、製造・販売面での課題に全力投球する蔵元であり、新酒鑑評会で賞を取ることは二の次なのでは・・・と私は見ています。

 ファンや取引先に、どう喜んでもらうか、の選択なんだと思う。メーカーにとっては永遠のテーマかもしれませんね。

 

 その意味でも、今回、青島さんが首位賞を受賞したというのは、とても感慨深いものがあります。

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 ・・・偶然ですが、前回、青島さんが首位賞を受賞した2008年は、吟醸王国しずおかの撮影で仕込み~搾りまで完全密着して撮影しました。搾りを撮るのはそれ以来の、今年2013年、見事に首位賞を取ってくれました。搾りたての酒に「いい酒になるぞー!」と思いを込めた私のささやかな念力が効いたのでは、と、独り、ほくそえんでいます。毎年搾りに撮影に行けば連続受賞してくれるかしら(笑)。

 

 

 

 さて、ここからが大事なお知らせ。恒例の静岡県清酒鑑評会一般公開(蔵元自慢の酒きき酒会)は3月25日(月)12時~14時、グランディエールトーカイ(JR静岡駅前葵タワー4階)。入場無料で、出品全種が試飲できます。県知事賞受賞酒は早く行かないと品切れになりますので要注意!

 

  そして、しずおか地酒研究会恒例の松崎晴雄さん(県鑑評会審査員・・・上記新聞写真の中央に写っていますね!)の新酒講話を聞く松崎サロンを、4月2日(火)19時から静岡県労政会館5階会議室にて開催予定です。詳細が決まりましたらお知らせしますので、ぜひお楽しみに!


メタンハイドレートと大陸棚

2013-03-13 12:41:31 | 国際・政治

 ニュースで、渥美半島沖遠州灘で「メタンハイドレート」のガス産出に世界で初めて成功したと聞いて、驚きとともにワクワクしました。ご近所の海の中から天然ガスが取り出せるなんて、夢みたいな話だし、実証実験にはもう少し時間がかかると思っていました。

 現在、月2回、FM-Hi で放送中の『かみかわ陽子ラジオシェイク』で、昨年5月、ちょうど金環日食で湧いていた頃、上川陽子さんとこんな話をしました。台本を再掲しますので、ニュースを理解する一助になれば幸いです。

 

 

 

 

 

(鈴木)海の底というのは宇宙と同じくらい、人間にとって可能性に満ちたフロンティアなんですよね。<o:p></o:p>

 

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(上川)私は、フロンテイアという言葉を聞くと体がウズウズしてきて力が湧いてくるんです。開拓者精神というのが大好きなんですね。議員時代には宇宙にも海洋にも、力を入れてきました。女性初の国土交通大臣であった扇千景大臣から、あるときお電話をいただきまして、「大陸棚推進議員連盟」という組織を立ち上げ、事務局長に就任してほしいと言われたのです。<o:p></o:p>

 

わが国は、約447万平方kmという世界で6番目に広大な排他的経済水域を擁する海洋国家です。私自身、「22世紀 海洋国家日本」と題した百年レベルの国家戦略を、当時の福田総理に提言したこともあるんですよ。この先、日本が持続可能な発展を続けていくためには、何としても海洋資源や空間を有効に活用し、海洋権益をいかに確保していくかが重要です。そんな問題意識が前提にありました。<o:p></o:p>

 

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(鈴木)海洋資源というと、最近では「メタンハイドレート」というのが、次世代の新エネルギーとして注目されていますね。<o:p></o:p>

 

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(上川)海底資源の中でも、希少鉱物資源である「レアメタル」や「メタンハイドレード」が注目されています。「メタンハイドレート」は、メタンガスと水が結び付いたシャーベット状の物質で、火を付けると燃えることから「燃える氷」と呼ばれています。燃える時に出るCO2が、石油や石炭の半分以下というエコ資源なんですね。これが水深5001000メートルの海底の地下に、数百メートルの層にわたって存在すると期待されています。<o:p></o:p>

 

日本の周辺海域では、北海道周辺と本州南方沖の斜面、そして静岡県の遠州灘沖も有望といわれています。経済産業省に、「メタンハイドレート研究開発コンソーシアム」という組織ができて、2016年度ぐらいをめどに試掘をして研究開発する目標で活動しています。まさに新エネルギー開発の期待の星です。<o:p></o:p>

 

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(鈴木)・・・なんかすごいですねえ。ちょっと初歩的な質問で申し訳ないんですが、公海と大陸棚と排他的経済水域ってどう違うんですか?<o:p></o:p>

 

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(上川)まず、日本の領海は12海里、そしてその先の200海里までを排他的経済水域といい、海底資源はもちろんのこと、海洋にある資源も占有することができます。それより外は、公の海である「公海」が広がり、船舶は自由に通行することができるルールとなっています。そして、国連の海洋条約により、新たに「大陸棚」が200海里の外側、つまり公海上に伸びていることが証明できれば、その部分の海底資源を占有できることになったのです。<o:p></o:p>

 

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ここで問題は、日本の周辺海域で、大陸棚がどこまで外側に伸びているか、海底の様子を調査し、証明しなければなりません。私たちの住んでいる陸地にも2000メートル級の山や谷がありますが、それと同じように、海の中にも海嶺といわれる山や海溝といわれる谷があるんですよ。<o:p></o:p>

 

そうした海洋のうち、太平洋岸の調査区域を設定し、1万メートルの海底を探査できる探査船「地球」や資源探査ができる船を総動員して、数年がかりで調査し、さらに集めた膨大なデータを解析して、その結果を国連に「大陸棚」を申請するプロジェクトが発足したんです。その過程で、私たちの「大陸棚推進議員連盟」が全面的に応援しました。<o:p></o:p>

 

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(鈴木)「大陸棚」は各国が独自に調査するわけですか。<o:p></o:p>

 

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(上川)実は、「大陸棚」については海洋権益をめぐる国際関係が背景にあります。<o:p></o:p>

 

 現在、海洋は、「海洋法に関する国際連合条約」(UNICLOS)によって管理されていますが、大陸棚の定義は、第2次世界大戦以前は、地質学的に大陸や島をとりまくなだらかな斜面の台地を海底水域と認定し、水深200メートルを範囲として大陸棚、と位置付けました。<o:p></o:p>

 

ところが1945年、アメリカが天然資源の保護を理由に、「たとえ公海であってもアメリカ海岸に接続している大陸棚の海底下の管理と天然資源の権利を有する」と宣言したのです。トルーマン宣言といわれるものです。そして、13年後の58年には「領海のすぐ外側の200メートル海底までとし、それ以外でも天然資源の開発が出来るならそこまでOK」となり、高い技術力を持つ国が事実上、無制限に大陸棚を拡張できることになりました。<o:p></o:p>

 

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(鈴木)アメリカが、いわば海洋資源を争う時代の引き金を引いたんですね。<o:p></o:p>

 

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(上川)1960年代は、アジアやアフリカ諸国が続々と独立して国連入りをし、経済的自立を目指して資源ナショナリズムを全面に押し出します。そうなると、どこの国にも属さない手つかずの公海に手を出す国も出てきます。そこで、67年に、世界の海は国際機関が平等に管理し、平和利用すべきだという「バルト提案」が出され、82年に海洋法条約が採択されたんですね。このとき、領海線から200海里以内を『排他的経済水域』と定義づけ、水域内での天然資源の探査・開発・保存・管理を保障したんです。<o:p></o:p>

 

82年に採択されはしましたが、国連加盟の60カ国以上が批准しなければ条約として正式に発効されないので、実は発効されたのは12年後の1994年なんです。しかも、加盟国が「うちの国の大陸棚はここまでです」と申請するのに、調査に膨大な時間を要し、国連の委員会のほうもはっきりガイドラインを決めたのが99年のことでした。99年以前に条約を批准した国については、99年から10年間を申請期間とし、96年に批准した日本もここに該当します。<o:p></o:p>

 

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(鈴木)ちょうど陽子さんが国会で活躍されていた時期と重なりますね。<o:p></o:p>

 

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(上川)ええ。それで私も申請手続きに関わることになったんです。日本は200811月に申請しました。九州パラオ海領南部海域、南硫黄島など7つの海域約74万平方メートルを申請したんです。<o:p></o:p>

 

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(鈴木)他の国ともめたりしませんでしたか?<o:p></o:p>

 

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(上川)申請についての審議内容は非公開なんですが、大陸棚が向かい合っている国同士、海岸線を隣接する国同士、たとえば太平洋上や北海周辺の国は、当然、権利主張が重なってきますね。<o:p></o:p>

 

日本は2010年に「海底資源エネルギー確保戦略」を発表し、東シナ海や日本海でも、中国・韓国と排他的経済水域をめぐる主張の対立が表面化しました。とくにこの領域でのレアメタル資源探査は、次世代エネルギー開発にも大きな期待がかかります。日本がこの問題で、外交上、どうやって折り合いをつけるのか、他国と権利主張がぶつかり合っている国々、とくに発展途上国は、非常に注目しているんですね。<o:p></o:p>

 

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(鈴木)そういう話を伺うと日本には外交、防衛に強い政権が必要だと実感しますね。<o:p></o:p>

 

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(上川)大陸棚の問題に限ってみても、外交防衛の最前線にかかわるものですし、これからの安全保障は、防災対策や水資源環境の問題も含まれます。大陸棚の調査で巨大地震の巣を見つけられたわけですし、水を巡っては石油に代わるほど国際紛争の火種になると懸念されています。<o:p></o:p>

 

日本のよう島国は、海洋資源の権益を守るということが国益に直結するのです。同じ島国のイギリスがいち早く近代文明を築いたのは、世界の海に船を出し、水兵たちが世界中の国の情報を集め、本国に報告した、情報力の強さだとも言われます。日本は少なくともこの分野の情報戦を勝ち抜かねばならない、と実感します。<o:p></o:p>

 

  

 

*注)この回の収録後の2012年4月27日、外務省は日本の大陸棚の拡大が太平洋4海域の計31万平方キロメートル(国土面積の約82%)に認定されたと発表されました。日本政府は2008年に7海域74万平方キロメートルの拡大を申請していますので、今回認められなかった海域についても審査内容を分析し、今後の対応を検討するとのことです。


『理性の限界』に挑む読書時間

2013-03-07 11:44:19 | 本と雑誌

 このところ読書熱に冒されています。AmazonのKindle paperwhite をようやく使いこなせるようになって、一気に10冊購読・読破しました。10冊分を持ち歩くことを想像したら、200g程Dsc_0071
度のタブレットに収まるってやっぱり便利です。

 

 部屋の本棚もすでに容量オーバーで、どれをブックオフしようか迷っている状態ですから、今後は、電子書籍化された本はKindle で読むようにしていこうかな。それに、紙の本もそうだけど、Amazonの良さって、購入した本の著者や同ジャンルの関連本を自動的におすすめリスト表示してくれる点。これでずいぶん本選びの幅が広がり、また深まっていく感じがします。

 

 とはいえ、物書きを生業にしている身、外出時に本屋さんで過ごす時間は、他の場所では得られない宝物のような時間です。

 先日も、セノバで映画を見ようとして上映終了時間を確認したら、仕事の打ち合わせに間に合わないと判って観るのをあきらめ、立ち寄った5階の丸善で、『酒をやめずにやせる技術』(木下雅雄著・扶桑社新刊)、『山田錦物語~人と風土が育てた日本一の酒米』(兵庫酒米研究グループ編著・神戸新聞総合出版センター刊)を偶然見つけてゲット。2階にあるカフェで読んでいるうちに、映画2本分の満足感が得られました。Amazonは、関連本をより奥深く発掘できるけど、本屋さんでは偶然の出会いが愉しめますね!

 

 

 よくカフェで受験勉強する学生の“長居”が可か不可かって話を聞きますが、正直な話、カフェや電車内のように適度に喧騒のある場所って、ものすごく自分の世界に集中しやすいんですね。読書も、自宅よりはるかに、はかどります。

 

 願わくば、自宅では得られないゆったり、ぜいたくな読書タイムが満喫できるよう、コーヒーはマシンではなくハンドドリップでていねいに淹れてほしいし、イスやテーブルの配置も、独り客がくつろげるようなレイアウトにしてほしいな。音楽は耳に心地のよいクラシックかジャズで。

 昔はそんな、読書におあつらえ向きの珈琲専門店が街中にいくつもあったけど、今は味気ないチェーン店の味気ないマシンコーヒーばっかりになっちゃいましたね・・・。セノバの2階にあるカフェも、せっかく「くれあーる」さんの特選珈琲豆使用って謳っているのにマシンで淹れてあるからイマイチ。これで一杯600円ってどうなんだろう・・・。家でも「くれあーる」のコーヒーを飲んでいるけど、やっぱり自分でひきたてをハンドドリップするほうが美味い。

 

 

 これだけ通販が発達すると、わざわざ店でモノを買う、時間を買うという行為には、目的以上のプラスαの満足感がなければ、リピーターにはなりにくい・・・つくづくそう思います。

 

 

 

 さて、今、Kindle でハマっているのが、高橋昌一郎さんの『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』シリーズ。小難しい論理哲学を、架空のパネルディスカッション仕立てで、学生や一般市民が専門家とディベートしながら解説してくれるんです。

 

 たとえば「ゲーテルの不完全性定理」の解説では、こういう例題が。

 

 

 ナイト(正直者)とネイプ(嘘つき)の2種類の住人しか住んでいない島がある。島民Xが「自分はネイプです」と言ったとすると、Xは、はたしてナイトかネイプか?

 

 

 Xがナイトなら、嘘をつくはずがないから、ネイプだろうし、Xがネイプなら、正直に言うはずがないから、ナイトということになります。つまり、この島の住民は、真実と嘘しか発言しないのに、「自分はネイプです」という発言は存在できない。「自分はナイトではない」「自分は嘘つきです」という発言も存在しない。一般市民が「なら、いったい何を基準に真偽を定めるのか」と疑問を呈する。そこから、「命題論理」とか「ペアノの自然数論」の話に展開していきます。途中で何度も挫折しそうになるけど(苦笑)。

 

 別の例題では、大学教授の掲示板に次のような告知が。

 

 「月曜日から金曜日のいずれかの日にテストを行う」

 「どの日にテストを行うかは、当日にならなければわからない」

 

 

 これを見た学生Aは、いつ、ぬきうちテストがあるかわからないから、毎日勉強しなきゃ、と考えた。一方、学生Bは「もし月~木曜までに行われなければ、金曜に行うはずだが、“当日にならなければわからない”という条件に反するから、金曜にテストはない。月~水曜までに行わなければ木曜に行うはずだが、同様の理由で木曜にもない。で、月・火に行わなければ水曜となるが、同様にテストは不可能。結局テストは行われない」と判断した。

 

 ところが教授は金曜日にテストを行った。反発した学生Bに、教授は「君が、今日はテストがないと思っていたなら、ぬきうちテストは成立するだろう」と応えた。

 すると別の学生Cが「私はそう先生が答えると思って準備をしてきた」といい、教授は「だったら私が嘘つきになってしまうから、テストはやめよう」と言い、また別の学生Dは「僕は先生がそう応えると思ったから準備はしていない」と言い、教授は「だったらテストをやろう」と・・・。この会話は延々と続いて結論が出ません。

 

 

 ここで「おおーっ」と思ったのは、この無限循環論が、ノイマンとモルゲルシュテルンの『ゲーム理論と経済活動』という論文で取り上げた、シャーロック・ホームズとモリアーティー教授が対決した「最後の事件」と同じ構造だったこと。まさか、ついこないだまで夢中になって読んでいたホームズ本がここでリンクするとは・・・。

 「最後の事件」では、ホームズが犯罪王モリアーティの魔手から逃げようと、ロンドンのビクトリア駅から大陸連絡急行列車に乗ります。停車駅はカンタベリーとドーバーだけ。当初、ホームズはドーバーで下車して船でヨーロッパ大陸へ渡る予定でしたが、追いかけてくるモリアーティーにとっては“想定内”です。ならばその裏をかこうと、ホームズはカンタベリーで途中下車し、難を逃れた。小説ではそうですね。しかし、もし、モリアーティーがさらに上手で、ホームズがカンタベリーで途中下車することを見越していたら、彼も降りて追いつくはず。しかししかし、ホームズがさらにもう一回り裏をかき、ドーバーまで行ったとしたら、大陸へ無事渡れる。ところが、モリアーティーがそのことも見抜いていたら・・・、堂々巡りが永遠続きます。

 

 

 ゲーム理論は、プレーヤー双方の利得が相殺されてゼロになる「ゼロサムゲーム」を取り扱っています。このゲームで最も合理的な戦略は、「ミニマックス作戦」。つまり、自分の損失を最小限におさめる=勝とうとするよりも負けない戦略、だそうです。

 この戦略を発展させたのが、「ナッシュ均衡」。一方のプレーヤーが最適な戦略をとったとき、他方のプレーヤーもそれに対応する戦略があることを証明したんですね。ちなみにジョン・ナッシュは数学者として初のノーベル経済学賞を受賞した人で、映画『ビューティフル・マインド』でラッセル・クロウが演じました。「ナッシュ均衡」、私のレベルでは解説不可能なので、興味があったらこちらを。

 

 

 

 ぬきうちテストの話に戻ると、もし、最初に「教授は嘘をついた」と責めた学生Bに、教授が「だったら私の嘘を信じた君は正気者か?」と問えば、Bは自分に自信がなくなってしまいます。かりに、Bが「教授は嘘つきだ」と信じるとすると、教授の発言の否定(・・・つまりテストを行う)を信じることになる。『自分は嘘つき」という発言は、どう転んでもパラドックスを生じさせてしまうわけです。

 

 

 学生Bは論理的に解釈しようとして、ぬきうちテストの罠、つまり不完全性定理に陥ってしまいましたが、一方、教授の発言を深く考えず、真面目にテスト勉強をしていた学生Aのほうが、結果的に賢かったということになります。最も非合理的な戦略が、実は最も合理的な戦略になっているってことですね。対戦型ゲームやドラマのネタによく出てきそうです。

 

 

 

 もし「ゲーテルの不完全性定理」「ナッシュ均衡」なんてキーワードが全面に出ていたら、絶対に触手しなかった本ですが、パネルディスカッション風の対話形式で、しかも、シャーロック・ホームズやビューティフル・マインド等、一般の人に馴染んでいる大衆カルチャーを上手に取り入れて解説してくれる。この体裁自体、大変参考になりました。言葉の理解には限界があるという内容だけに、ライターという仕事の存在意義を考える、よい機会にもなっています。

 

 

 

 それにしても、脳と視力が疲弊する読書タイム、やっぱり、美味しいコーヒーと心地よい音楽が欲しいですね。ついでにクイックマッサージとか占いなんかのコーナーが併設されていたら、リピーターになるんだけどなあ・・・。ようするに、通販で済ませないで店まで出向くっていうのは、人の手間がちゃんとかかっているサービスを求めるってことだと思います。あくまで個人的意見ですが。


消臭剤と吟醸香

2013-03-01 12:18:02 | ニュービジネス協議会

 このところ、(社)静岡県ニュービジネス協議会の取材が立て続けに入っています。今週2月27日には、起業家支援セミナーがあり、“真無臭”でおなじみの消臭剤メーカー㈱ハル・インダストリの松浦令一社長に、起業や会社経営の苦労話をうかがいました。

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 「消臭」という言葉は、大手メーカーがコマーシャルでバンバン謳っているように、今では当たり前の言葉ですが、もともとは、松浦社長が30年前に作ったもの。清水港周辺の缶詰メーカーから相談を受け、魚の処理につきものの生臭さを解決するため、試行錯誤の末、臭いを別の香りでマスキングするのではなく、臭いそのものを完全に消し去る画期的な液剤を開発したのです。

 

 

 最初に依頼のあったメーカーには液剤だけを納入したところ、そのメーカーが噴霧器を造ってくれて、「すばらしい液剤だから機械とセットで売ったらどうだ」と背中を押してくれたそうです。2軒目のクライアントにはセットで、しかも、元手をはるかにペイできる価格で売れたとか。取材に来た新聞記者に「これは脱臭剤ですか?芳香剤ですか?」と聞かれ、何かに吸着させるわけではないから脱臭剤ではないし、香りはないので芳香剤でもない・・・。思案していたところ、「臭いを消すというなら、“消臭”と書いて“しょうしゅう”と読ませちゃいましょうか」との何気ない一言で生まれた言葉でした。“しょうしゅう”と聞けば、当時は「招集」だと思われていたんですね。で、以降の営業では、「消臭」という言葉の説明をはじめるところからスタートしたそうです。

 

 

 そんなとき、大手メーカーがコマーシャルで「さわやかな花の香りの消臭剤」と謳い始めた。「香りがするのに消臭剤!?」と訝しんだ松浦さんですが、特許や商標について相談した弁理士からは、「商標は今更とっても遅い。技術は特許を取って公開するより、製法秘密を貫いたほうがよい」とアドバイス。結果的に30年経て正解だったようです。

 

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 現在、大手が「消臭」と謳う製品のほとんどは、微妙に香料が含まれており、松浦さんが開発した完全消臭技術は誰にもマネできない、オンリーワン技術。しかも、未だに化学的に解明されていないというから面白い。

 松浦さんは、「自分でもなぜ臭いが消えるのか、完全に合理的な説明が出来ない。あたりをつけてやってみて、運よくマテリアルができた」とサラッと笑って言いのけます。でもオンリーワン技術を持っているってスゴイ!

 

 

 

 これまでは、生もの処理工場やパチンコ店等をクライアントにした業務用製品を柱にしていましたが、静岡県ニュービジネス大賞を受賞した時、表彰式でジャンボエンチョーの遠藤社長から「一般家庭向けに作っては?」と助言を受け、「今さら大手メーカーと張り合っても売れないだろう」と、望み半分で一般住宅用・自動車用の消臭ビーズ剤を開発しました。

 

 

 案の定、当初はまったく売れなかったものの、エンチョー三島店の店長が自分の車用に使って「これはスゴイ」と実感し、店独自に売り場コーナーを設けたところ、三島店だけバカ売れし始め、やがてエンチョー全店に広がっていきました。「自分から売り込みに行っていたら、いつまでたっても独自のコーナーなんて作ってもらえなかったでしょうね」と松浦さん。現在は高田薬局はじめ約250店舗で山積みコーナーがある大ヒット商品になっています。詰め替え用のほうが売れているそうですから、リピーターがしっかり付いているってことでしょう。私も、エンチョーさんで置かれ始めた頃に、松浦さんからサンプルとしていくつかもらって、ずーっと使い続けています。

 

 独り住まいで外出の多い私は、家で洗濯物をほとんど室内干ししてますが、コマーシャルで言っているような「生乾きの臭い」を気にしたことが一度もないのは、10年以上、ハルさんの真無臭を使い続けている効果じゃないかな、と思っています。数えたら、狭い家なのに8個も置いてあった。ゴキブリホイホイ並です(笑)。

 

 

 

 私にとって、家に籠もって原稿を書いているときの唯一の楽しみといったら、お茶やコーヒーの香りでリフレッシュすること。最近では、独特の香りをウリにするお茶が増えてきて、家でもいろんな種類のお茶をそろえ、気分によって飲み分けたりしています。コーヒーも専門店2~3ヵ所から違うタイプの豆を買い置きし、朝と夜、飲み分けているので、室内をつねに「消臭状態」にしておかないと、香りの違いがわからなくなるんですね。もちろん、家呑みで吟醸酒を愉しむためにも、日ごろの「消臭」は必須です。

 

 松浦さん曰く、「ヒトを含め、動物は、慢性的に嗅ぐニオイに安心し、違うニオイには危険性を察知する。ただしヒトは違和感のあるニオイでも5分経つと慣れてしまう」そうなんですね。

 

 

 松浦さんの話をうかがった前日の26日、所用があって『喜久醉』の青島酒造を訪問し、純米大吟醸の上槽(搾り)作業を見学しました。真剣な表情で鑑評会出品用の斗瓶取り(といっても斗瓶は使わず、透明の一升瓶に取るのですが)を行う杜氏の青島さん、蔵人の原田さんの雄姿を運よくカメラに収めることができました。

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 搾りたてを一口、試飲させてもらったとき、ものすごく懐かしくて、癒され気分になりました。上立ち香はさほど強くなく、口中に含むと、水溜りに水滴が落ちて円を描くように、清らかな香りがまるくじんわり広がっていく。・・・香りのタイプも強さも広がり方も、自分の素肌感覚にちょうどフィットする感じでした。

 

 

 「懐かしい」と感じたのは、25年前、自分が酒の取材を始めた頃の、静岡酵母全盛期のことを想起させてくれたからなんだと思います。当時の静岡吟醸は香りを全面にウリにしていて、その印象が強かったから今でも記憶に残っているのですが、この日の喜久醉は、静岡酵母の香りと味のバランスが絶妙で、香りの立ち具合と引き具合が適度に抑制されていました。・・・酒造りの世界に入って17年、青島さんはここまで静岡酵母を自己コントロールできるようになったんだ、「守・破・離」の「守」は完全に超えたなあと心底嬉しくなりました(・・・スミマセン、上から目線の物言いですねw)。

 

 

 それにしても、自分の素肌感覚に最もフィットするのが、ハーブやアロマではなく、この、静岡酵母の吟醸香なんだということにビックリ。日ごろ、いろんな新しい香りを選んで愉しんでいたつもりでも、この香りに一番ホッとできるなんて・・・。翌日、松浦さんの話を聞いた後は、自分がどれだけ静岡酵母の香りに“飼いならされていた”のか、我ながら呆れてしまいましたが(苦笑)、杜氏さんたちが専門的に使う「カプロン酸エチル」とか「酢酸イソアミル」といった吟醸香成分を云々いう以前に、静岡酵母の香りに“ホッとする”・・・この、身体に染み付いた動物的な反応を大切にしなくちゃなぁと思いました。

 

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 酒蔵の人々は、とくに、香りやニオイに敏感です。自然発酵から生み出される香りをしっかり見極めるためにも、よけいな香りやニオイはご法度。まぁ、彼らは香りのプロでもあるわけで、当然といえば当然ですが、我々も酒蔵訪問するときは、身だしなみに本当に気をつけねばなりません。車の中にも松浦さんの消臭剤が必須だな、と実感しました。

 

 ちなみにものすごい偶然ですが、松浦さんは、『正雪』の蔵元・望月正隆さんのいとこで、若かりしころは、正雪の仕込み蔵でバイトしていたこともあったんですって。ヒトの縁って面白いですねえ・・・。

 

 最後にコマーシャル。本日UPの日刊いーしずコラム【杯は眠らない】第4回では、『喜久醉』の青島さん、『喜久醉松下米』の松下さんと出会った頃のエピソードを紹介しています。彼らの“成長ぶり”が垣間見られる写真も載っていますので、ぜひご覧ください。