杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

平成25酒造年度全国新酒鑑評会

2014-06-07 15:48:33 | 地酒

 平成25酒造年度、第102回全国新酒鑑評会。全国から845品が出品され、入賞は442品、うち金賞は233品という結果でした。詳細は酒類総合研究所のサイト(こちら)で確認してください。

 

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 5月28日、東広島運動公園アクアパーク体育館で開かれた製造技術研究会。JR西条駅前から出るシャトルバスの朝一番(8時5分発)に乗ったのに、会場に着いたらすでに長蛇の列。猛暑の中、開場10時まで外で立ちっぱなしはキツイですが、注目産地の金賞受賞酒を試飲するにはみなさん必死です。去年(こちらを参照)と同様、今年も好成績だった東北・北関東エリアは試飲コーナー前に長蛇の列が渦を巻いていました。

 

 

 

 

 前日の講演会で聞いた鑑評会の審査結果によると、全出品酒を通し、カプロン酸エチルの指摘数が去年の2850点から今年は3457点に激増。グルコース(ブドウ糖)も高かったようです。つまりヘビーな香りで甘い酒がたくさん出品されていたということ。審査員から「香りが高く、甘く、くどい。甘味が浮くような酒が多い。酒としてどうなのか?」と疑問の声すら上がったそうです。

 

 そうはいっても、審査するとき、甘いから落とす、というわけではないようで、甘くてくどい酒ばっかりの中で、まあまあバランスの取れたものが入賞するのでしょう。静岡のように、甘くはないし香りもハデではないけどバランスが取れているって酒が優位ってわけでもないようです。

 

 以前は原料米を、山田錦5割以上使用と、他の米を5割以上使用、の2部門に分けて審査していましたが、今は分けずに一緒に審査します。また県や各国税局主催の鑑評会では吟醸の部、純米の部を分けて審査していますが、全国ではずっと一緒です。そのことをこちらで書いたとき、読者から「出品酒のほとんどが純米ではなく吟醸(アルコール添加酒)だったなんてショック!」というコメントがありました。

 

 一般消費者や海外市場で支持されている純米酒や、地域独自に栽培されるご当地米を使った酒が、吟醸酒の原料としてゆるぎない実績と信頼を持つ山田錦と、酒質を安定させるアルコール添加酒が必勝条件ともいえるコンテストで入賞するのは至難の技だと思います。審査基準を決めるとき、酒造業界の将来を見据え、純米やご当地米の酒を伸ばしていこう=多様性を認めていこうというコンセンサスが必要でしょう。多様性を評価するには審査方法もそれなりに高度化させなければならないと思います。

 講演会でも「なぜ純米の部を設けないのか?」という質問が会場から上がったのですが、なんと、「研究所は推進したいが、鑑評会共催者の日本酒造組合中央会が反対している」とのこと。・・・う~ん、理由がわからない。

 

 

 

 

 

 

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 それはさておき、私はいつものように、誰もいない静岡県出品酒コーナーにイの一番に駆けつけ、ゆっくり試飲しました。静岡県からは18品が出品され、入賞6品、うち金賞は4品という結果です。金賞ゼロだった去年に比べたらまあまあの成果でしょうか。会場でお会いした【開運】土井社長のホッとした表情が印象的でした。

 

 毎回お会いする【杉錦】の杉井社長、今回は入賞を逃しましたが、出品リストをボートに貼り付けて真剣に寸評を書き込む姿はいつもどおりです。こういう熱心な蔵元さん、昔はたくさんいたのに、私みたいな素人がハバを利かせているなんて・・・複雑な思いで、結局、他県をみてはまた静岡へ戻り、というのを繰り返し、つごう4回静岡県出品酒を試飲しました。

 

 

 

 最初は「カドがたってるなあ」と思えた酒も、時間が経って温度が上がるとバランスよく感じられます。今回自分の口にマッチした【英君】は、1回目に利いたときは香りが立ちすぎ、渋味も強く、新酒の硬さがありましたが、回を重ねる毎に落ち着いてきました。【磯自慢】は素人でも一口で静岡酵母らしさが判る香り。味とのバランスにやや乖離感があったのですが、4回目に利いたときは、香味バランスがふんわりマッチしていました。品温の差が審査にどれほど影響を与えるのか、素人には判りませんが、両方とも、静岡酒を愛飲し続ける者にとっては、まぎれもなく静岡代表だと自慢できる酒質でした。

 

 

 去年、ベストワンだと思った【若竹】。今回も誉富士精米40%の純米大吟醸で堂々と出品されていました。香り控えめのおとなしい出来で、他県の入賞酒と比べたら印象が薄かったかもしれません。でもこれは〈今がピークではない〉だけのこと。熟成が進めばすっきりまろやかな静岡らしい純大に仕上がると思います。

 

 

 他県では、山田錦以外の県で奨励する酒造好適米を使用した出品酒が増えていました。もちろん圧倒的に多いのは山田錦ですが、

○北海道(出品12)―『吟風』3、『彗星』2

○青森(出品15)―『華想い』4

○秋田(出品31)―『秋田酒こまち』6、『美郷錦』2、『美山錦』1

○新潟(出品70)―『越淡麗』28、『越神楽』2、『五百万石』2

○長野(出品59)―『美山錦』14、『ひとごこち』4、『金紋錦』2

○広島(出品39)―『千本錦』16

 

 

 という県もあります。上記は米の産地で、比較的規模の大きな酒蔵が多く、1社で何品も出品できるメリットもあろうかと思いますが、山田錦以外の米が少しずつ実績を作って行かなければ、いつまでたっても多様性が評価されるコンテストにはなれないでしょう。

 国を挙げてのアルコール飲料の品質評価コンテストが100年以上も続いている、世界でも稀有な鑑評会です。伝統的に培ってきたものと、時代と共に変革するもの、そのバランスをうまくとってほしいですね。

 

 

 静岡県も、静岡酵母や誉富士といった独自性を貫き、実績を作っていってほしいと思います。そうでなければ『吟醸王国しずおか』という名の映画を発表する自信がなくなりそうで怖い・・・です。

 

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 お昼近くなって、人気のエリアから人が分散し始め、静岡県コーナーにも列が出来始めたころのこと。いつまでたっても先に進まない老齢の3人組がいて、手元を覗いたら、なんと、静岡県の出品酒を片っ端からブレンドしていたのです。「静岡は、気イの入ってない酒ばっかりや」と捨て台詞。西日本の方言の、酒造職人らしいおっちゃんたちでした。出品した蔵元さんたちが見たら、どんな思いをされるだろうと、思わず、近くに土井さんや杉井さんがいないか見回してしまいました。

 

 

 ・・・いろいろな意味で、鑑評会が変わる時期に来ているのではないでしょうか。

 

 


酒類総研講演会~Jカーブと微生物叢

2014-06-05 11:13:47 | 地酒

 5月27日、東広島市市民文化センターで開かれた第50回(独)酒類総合研究所講演会。今年の演目は、

 

①少量飲酒の健康への影響(Jカーブ)

②お酒の中の微生物を改めて知る

③清酒の中鎖脂肪酸等分析法とその成分調査

④平成25酒造年度全国新酒鑑評会について

⑤特別講演「世界は日本酒を待っている!~南部美人の海外戦略と世界の日本酒を取り巻く現状」

 

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 このうち、興味深かったのはお酒と健康に関する最新研究①でした。詳細は来週UPする日刊いーしずの地酒コラム【杯は眠らない】で報告しますので、さわりだけ紹介すると、古来より“酒は百薬の長、されど万病の元”と言われていた説を、マウス実験で立証した研究です。

 

 「Jカーブ効果」って聞いたことありますか? お酒を全く飲まない人の死亡リスクを1とすると、適量飲む人はリスクがマイナスに下がり、適量を超えてしまうとプラスに急上昇=ハイリスクに転化する。グラフ化すると、アルファベットのJのようなカタチになるのです。マウスの実験でこれが生理学的に立証され、適量はマウスではアルコール1%程度。人間ならば1日あたりビールで250~500ml、日本酒なら80~160ml と計算できたそうです。毎晩飲むなら1合弱ってところでしょうか。もちろん「それっぽっちで済むはずがない」と苦笑する酒徒も多いと思いますが、いい年齢になれば、適量をわきまえ、細く長~く呑み続けていきたい、それがオトナの流儀って感じでしょうか。

 

 いずれにしても、科学的に証明されたってことは心強い限りです。アタマから自分は飲まないと決め付けている人と宴席を共にする機会があったら、それとなく、ウンチクってみようと思います。

 

 

 

 

 ②の微生物の話も聞き応えがありました。微生物と聞けば、麹菌や酵母菌など酒造りにとって優良な菌を思い浮かべますが、もろみを腐らせる腐敗原因菌(酢酸菌や納豆菌など)も存在します。いわゆる微生物叢=醗酵の途中で何種類ぐらいの微生物が何割ぐらい活動しているのかは、実は正確なことはわかっていないそうです。というよりも、わかっている微生物というのは“人間の手でも培養できる特別な微生物”に過ぎなかったということ。つまり、既存の培養法では検出できる微生物が限られていたというわけです。

 

 

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 今回、酒類総研では新たな遺伝子解析法(次世代シーケンサーと定量PCR)を開発。今までの培養法では10属程度だった微生物叢が、新しい解析法では57属にまで広がり、菌の種類を一つ一つ数えたら、今までの数倍~数百倍存在していることを確認できたそうです。

 

 日本酒では醗酵途中では酵母菌や乳酸菌の働きが強すぎるため、なかなか難しかったようですが、発泡性清酒・・・後から炭酸ガスを吹き込むのではなく、瓶内二次醗酵によって発泡性を付与したいわゆる活性型では、乳酸菌系の微生物が多く検出されました。これらの中には品質に影響する細菌も多く含まれるため、細心の品質管理が必要であるとのこと。

 

 

 多くの時間が割かれた解析法の説明は、理系の知識がない素人にはとてもついていけませんでしたが(苦笑)、微生物の実態把握につながる分析技術を究めていくことで、品質管理面のみならず、醸造発酵酒の真の理解につなげてほしいと思います。こういう科学研究の成果にふれると、微生物とヒト、生物同士の叡智が融合した地球上で最も価値あるものの一つだ・・・と感動させられます。ヒトは自然の前で傲慢になり、ときに謙虚にもなる、そのやっかいな普遍性を、一杯の酒が示してくれるんですね。

 

 ①と②の研究については、酒類総研の広報誌エヌリブ最新号に概要が紹介されています。こちらを参照してください。


広島西条酒蔵通り

2014-06-03 09:57:41 | 地酒

 5月末、広島に行ってきました。27日は東広島市の西条酒蔵通りを散策したあと、第50回(独)酒類総合研究所講演会。28日は第102回全国新酒鑑評会製造技術研究会に参加しました。酒の取材をライフワークにする者にとっては年に1度、初心に戻る大切な自主研修の場です。

 

 

 

 

 

Imgp0219  いつも講演会と鑑評会だけのトンボ帰りでしたが、今回は朝、夜行バスで広島に着いて、いつもの【てらにし珈琲】でモーニングを食べた後、西条へ直行。午後いちの講演会まで、酒蔵通りを初めて散策しました。

 

 

 

 

 

 

  ご承知の通り、広島西条は兵庫の灘、京都の伏見と並ぶ日本屈指の銘醸地。JR山陽本線西条駅の周辺に8蔵が点在し、酒蔵の白壁、赤レンガの煙突、江戸時Imgp0220代の宿場町の面影を残す御門や商家が立ち並ぶ趣きのある町です。毎年10月には『西条酒祭り』が開かれ、大いに賑わいますね。今年は10月11日(土)・12日(日)の予定。こちらをご参照ください。

 

 

 

 

 

 

 

 白牡丹酒造では棟方志功が描いた額絵が、賀茂鶴酒造では昭和の大女優山田五十鈴と田中絹代をモデルにした看板絵や文化人の【酒】の墨字を見て、ここが単なる製造産地ではなく酒が町の歴史やImgp0221 文化に昇華していた姿を実感しました。

 

 

 

 

 

 

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  賀茂鶴酒造の大吟醸特選ゴールド、4月に来日したオバマ大統領が銀座のすきやばし次郎で味わった日本酒だそうです。

 

 Imgp0227 磯自慢が洞爺湖サミットの乾杯酒に使われたときは、酒蔵や小売店がそのことをガンガン宣伝する・・・なんてことはありませんでしたが、賀茂鶴では蔵はもちろん、小売店・百貨店・土産物店の酒売り場でもオバマさんと安部さんのツーショット写真入りでガンガン宣伝していました。もちろん、使われた乾杯酒のスペックや生産量が違うし、蔵全体の生産規模や流通範囲もまったく違うので、同列に語れません。が、地酒がその土地の顔になり、文化や歴史として認知されるためには、こういう仕掛けも必要なんだろうな・・・と感じさせられます。

 

 

 

 なんですきやばし次郎で賀茂鶴?とこちらが質問する前に、蔵のガイドさんが「うちは日本で初めて大吟醸を初めて商品化した、品質最高峰を究める蔵元。大吟醸の最初のお客様が東京の高級すし店」と自信たっぷりに説明してくれました。

 

 

 

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 「静岡から来たなら、こういうの、欲しいでしょう?」と見せてくれたのが、富士山模様の白磁徳利。昔、外国人向けのノベルティとして造ったそうです。すっきりしたデザインで品があってイイですよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 お昼は賀茂鶴のガイドさんが薦めてくれた駅前の居酒屋で魚ランチを食べ、午後1時から東広島市市民文化センターでの酒類総研講演会に向かいました。

 演題は以下の通り。

 

 

 

①少量飲酒の健康への影響(Jカーブ)

②お酒の中の微生物を改めて知る

③清酒の中鎖脂肪酸等分析法とその成分調査

④平成25酒造年度全国新酒鑑評会について

⑤特別講演「世界は日本酒を待っている!~南部美人の海外戦略と世界の日本酒を取り巻く現状」

 

 

 

 

 詳細は後ほど。