6月5日 編集手帳
北海道を走る列車から見た景色だろう。
宮沢賢治に『駒ヶ岳』という詩がある。
〈その無遠慮な火山礫(れき)の盛りあがり〉と描かれる山容は、
どこか暗色を帯びている。
旅の前年、
最愛の妹を失った詩人の胸中を表しているのか、
〈いまその赭(あか)い岩巓(がんてん)に/一抹の傘雲がかかる〉ともつづられる。
山頂部を傘状の雲が覆っているという情景である。
山が見る者の心を映すなら、
いまの駒ヶ岳は穏やかな表情をみせているに違いない。
その麓、
北海道七飯(ななえ)町で行方不明になっていた7歳の少年が無事帰還し、
安堵(あんど)の声が広がっている。
おにぎりを食べる写真が愛らしい。
少年は山で両親に置き去りにされた。
10キロ以上歩いて陸上自衛隊の宿営施設にたどり着き、
水だけで命をつなぎ留めたらしい。
さぞ怖くて不安だったろう。
「しつけのため」と考えた親の行為は軽挙と言われても仕方あるまい。
試練を乗り越え、
子供を見守りたい。
〈永久の未完成これ完成である〉。
賢治の『農民芸術概論綱要』に残る言葉である。
たとえ答えが見つからなくても、
不断に探し続けてこそ道が開ける。
人生にも子育てにも通じる教えである。