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困り事さえ創作の楽しみに 安野光雅さん

2021-02-05 07:02:13 | 編集手帳

2021年1月19日 読売新聞「編集手帳」


安野光雅さんは炭鉱で働き兵役、
教員を経て画家になった。
『絵のある自伝』(文芸春秋)に、
空想家の安野さんらしい逸話がある。

小学校の教員時代、
子供たちと実験をした。
アリを校舎の2階から落としたら死ぬだろうか? 
どこに落ちたか、
分からなくなった。
殺虫剤の粉と砂糖を混ぜると、
アリはどうするか? 
砂糖だけを持っていった。
子供たちは歓声をあげた。

安野さんが94歳で亡くなった。
絵本や風景画はもちろん、
ユーモアの上に情の流れる随筆…先の教え子のような気持ちにさせてもらったファンは多かろう。

画家仲間に評判の悪い友人がいた。
劇作家井上ひさしさんである。
遅筆で台本ができないうちにポスターを描くはめになるからだ。
安野さんはしかしそれを楽しんだ。
想像力を巡らす喜びがあると。
「黙阿弥オペラ」という劇のポスターにはちょんまげ姿の井上さんの似顔絵らしきものが描かれており、
故郷の島根県津和野町の美術館で秘密めいた冗談に触れることができる。

困り事さえ創作の楽しみに変えた人だろう。
そんな安野さんには残した数々の絵、
文章のなかでいつでも会える。

 

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