2021年4月13日 読売新聞「編集手帳」
ゴルフはなぜ18ホールで競うのか。
時は18世紀に遡る。
1764年、
スコットランドのセントアンドルーズのコース改造でたまたまそうなったからだという。
その当時の日本は、
江戸時代が半分を過ぎた頃である。
歴史も見えない壁の一つだろうか。
日本の一流選手が挑戦しては惜しいところで敗れてきたメジャー大会で、
松山英樹選手(29)が栄冠を射止めた。
マスターズ・トーナメント優勝の偉業は、
沈みがちな気分を明るくするニュースだろう。
松山選手は優勝者に贈られる「グリーンジャケット」に袖を通し、
両手を振り上げて喜んだ。
つられてほほ笑んだ方は多かろう。
詩人の杉山平一さんに「蕾」という作品がある。
<誰がつくった文字なのだろう
草かんむりに雷とかいて
つぼみと読むのは素晴らしい…
とき至って野山に
花は爆発するのだ>(「杉山平一詩集」土曜美術社)。
春から初夏にかけての景色だろう。
あまり感情を表に出すことのない松山選手が、
春の鮮やかな芝生の上で満面の笑みをたたえた。
マスターズへの挑戦は10度目になる。
蕾のままでいた時間は短くない。
爆発する花を思った。