secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ロード・トゥ・パーディション(V)

2008-05-04 23:22:28 | 映画(ら)
評価点:59点/2002年/アメリカ


「アメリカン・ビューティー」のサム・メンデス監督のギャング映画。

1931年、マイク・サリヴァン(トム・ハンクス)は、ギャングのボス、ジョン・ルーニー(ポール・ニューマン)の片腕として働いていた。
父親の仕事を教えてほしいと思っていた、12歳のマイクの息子・マイケル(タイラー・ホークリン)は、
ある日、仕事へ出かける父親が乗る車に、こっそり乗り込む。
そこでマイクが目にしたのは、父親が人を殺すところだった。
その口封じのため、母親と弟のピーターを殺されてしまったマイクとマイケルは、
その殺人を依頼したボスの息子、コナーへの復讐を誓う。
一方、コナーは殺しそこなったマイクへの刺客として、殺し屋のマグワイヤ(ジュード・ロウ)を雇い差し向ける。

トム・ハンクス、ポール・ニューマン、ジュード・ロウと、非常に豪華なキャスティングだ。
本当は映画館で観たかったが、タイミングを悪くして見逃してしまった。
後で知ったことだったが、監督もあの「アメリカン・ビューティー」のサム・メンデス。
これらの名前を観ていると、期待が高まるのは無理もない。
しかし、見終わった後、オスカーが取れなかった理由がわかった気がする。
これでは「撮影賞」どまりで、「作品賞」には届かないだろう。

▼以下はネタバレあり▼

ストーリーが非常に滑らかに進み、殆んど文句をはさむ余地がないほどだ。
息子のマイケルは12歳という、父親の職業に興味を持ち始める年齢であり、
それがよくわかるように見せている。
妻子を殺され、復讐を決めるのも当然だ。
親の七光りである息子コナーを、どうしても、殺せ、と言えなかったボスの心情も良く伝わってくる。

しかし、全てが綺麗過ぎる。
どこにも疑問が入る余地がない。なさすぎる。
逆にそれが気持ち悪く、ギャングを題材にしていれば当然あるはずの
「汚さ」までもなくなってしまっている。「フェイク」の方が、よっぽど「ギャングらしい」。

例えば、マイクとマイケル父子の危機感の欠如である。
孤立無援となったはずの二人は、ジュード・ロウ扮する異常な殺し屋に命をねらわれる。
しかし、追ってくるのは彼一人であり、実際に危機に直面するのは二度だけだ。
ボスの金を奪いに回っている父子はやりたい放題に銀行を襲う。
殺し屋に撃たれても、民家に逃げ込み安全に静養してしまう。
ラストでは、ボスとその息子を無傷で殺し、復讐を完成してしまう。
もちろん、各地との伝達手段が乏しかった当時としては、銀行強盗くらい出来たのかもしれない。
また、ど田舎であれば、敵に見つかることもなく傷を治せたのかもしれない。
そして、闇討ちであれば、ボスの周りのボディーガードの攻撃をすり抜け、殺すことも可能かもしれない。

しかし、それではあまりに上手く行き過ぎる。
非情であり、泥臭く、残酷なのがギャングの世界のはずだ。
そして何かにつけて、徹底的なのがギャングだ。
圧倒的に不利な状況のはずなのに、まんまと街に舞い戻り、ボスの後ろの席で、「話がある」なんていえるはずがない。
「生きている間にアイルランドに逃げろ」と忠告するが、あの程度の刺客で、あの程度の必死さならば、
復讐をしなくともアメリカのどこかに逃げられたはずだ。

オスカーの撮影賞をとっただけあり、画面の画はとても綺麗だ。
徹底的に、「死」を象徴する赤い血をみせなかったり、街を描くときは、常に薄暗く不気味さをたたえている。
静養中は、まぶしいほどの光が溢れてくる画でとり、ラストのマイクが殺されるシーンでは、マグワイヤがいることを予感させるように真っ白な部屋になっている。
閉まっていく鏡張りの扉には、復讐を遂げたことを示す、コナーの死体が映る。
正に演出のお手本であり、「アメリカン~」でみせた非凡さを本作でも感じさせる。

にもかかわらず、重さが全くない。
画の綺麗さのために、「血」を廃したことによって、ギャング特有の恐ろしさがなくなってしまった。
ギャングの残酷さがないので、主人公の危機感も生まれない。
冒頭で、少なくとも観客がビビるくらいの残酷さを、見せておく必要があった。

冒頭で、息子がナレーションすることも、失敗している部分のひとつだ。
「1931年に6週間旅をした。」といった時点で、「トム・ハンクスは死にます」、
「息子は生き残ります」といっているのと同じだ。

観ている最中は、感動はできるし、面白いかもしれない。
しかし映画を観終わって感じるのは、言いようもないむなしさだけだ。
マイクとともに復讐を遂げた達成感でも、マイクが殺された無情感でもない。
「ああ、終わった」という脱力感と徒労感だけだ。

感情に訴える部分がないと、ギャング映画としてはつらいと思う。
 
(2003/10/17執筆)

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