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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

AKIRA(V)

2008-05-04 23:26:29 | 映画(あ)
評価点:67点/1988年/日本

監督:大友克洋

2019年の日本を舞台にした近未来アニメ。

1988年に謎の爆発により、東京は改めてゼロからの復興と発展を余儀なくされていた。
そして2019年、東京湾に巨大な人口の島が出来上がり、
二回目の東京オリンピックが開催されようとしていた。
都市は過剰に豊かになり、貧富の差も拡大していた。
暴走行為を繰り返すグループの一人、島鉄雄は、ライバルの暴走族との格闘中、
突然現れた老人の顔を持つ子どもを避けようとしてバイクを転倒させてしまう。
そのまま意識を失ってしまった鉄雄は、
リーダーの金田たちの抵抗むなしく、軍に捕らえられてしまう。
翌日、謎の少女ケイは、鉄雄が捕らえられてしまった晩に起こった反政府行動の取調べのため、
列に並んでいたところを、同じく軍に取調べを受けていた金田に助けてもらう。
そして鉄雄を救出するため、奔走する金田の前にまたケイが現れる。
実は、ケイは、なぞの子どもを救出しようとしていた反政府組織の一人だった。
その子どもは、不思議な力を操り、鉄雄もまた、その力に目覚めようとしていた。

アニメや漫画に興味がある人なら、一度は聞いたことがあるだろう。
この映画は、日本のアニメ映画の中で、もっとも有名な映画だといっても、言い過ぎではない。
「マトリックス」の監督、ウォシャウスキー兄弟も影響され、日本よりもむしろ海外で人気の高い映画だ。
世界観や、映像技術、あらゆる面において画期的な作品だ。
ちなみに、原作を読んでから観た。

▼以下はネタバレあり▼

長い原作をいかに2時間に収め、その中で、原作の魅力を伝えるか。
これが、この作品の命題であったと思う。
世界観や、細かい絵柄、ストーリーなどは、全て原作の魅力の内にある。
問題は、「AKIRA」という、複雑な物語をどう切り取るかだ。

脚色というこれらの仕事は、日本ではあまり有名ではない。
最近の傾向として、アニメ、漫画、小説など、原作を基にした日本映画が増えてきているが、
原作の雰囲気や面白さを、うまく映画化している映画は少ないようだ。
しかし、実は、原作があるという場合に一番重要なものが、脚色という仕事だ。

その脚色で一番成功したと僕が思える作品は、「風の谷のナウシカ」だ。
原作では7巻という長い物語を、2時間強という時間に集約させた。
もちろん、原作を知ってしまうと、映画がとても短く物足りないように感じてしまうが、
ナウシカ」という物語を貫く魅力は、色あせていない。

ストーリーを知っている僕としては、「先が知りたい」というよりも、
「どう短くしているのか」という点が非常に興味があった。
先に結論を言ってしまえば、そういう意味では、この作品は、「成功はしていない」と思う。

殆んどわからないのだ。
原作を知るものならば、わかっていることでも、いきなり映画を観る人間にとっては「ついていけない」部分が多すぎる。
まずはその世界観だ。
東京が爆発によって消し飛んでしまい、復興を余儀なくされてしまうということは、理解できる。
しかし、なぜ政府にたてつく人間がいるのか、
また、彼らの不満は何なのか、それが全く説明されないままに、ケイというレジスタンスの一味が登場する。
だから、ケイという人物の所属がわからない。
だから、レジスタンスを陰で操っている議員も、なぜレジスタンスを操っているのかわからない。

しかし物語は容赦なくどんどん進み、「AKIRA」という意味不明なことばまで飛び交う。
研究員らしき博士が、「おお!」と妙なレーダーをみて叫ぶが、
何に驚いているのか、あのレーダーは何を示しているのか、
もっと言えば、「26号」や「タケシ」君、鉄雄は、どんな研究をされているのか、
彼らの力は何なのか、何一つ説明的な台詞もシーンもないため、漫画を知らなければ、全く話についていけない。

唯一救いなのは、主人公・金田の行動動機が明確なことくらいだ。
「仲間の鉄雄を助ける」という金田の思いだけが、原作を知らない観客を引っ張れる。
しかし、その観客に待ち受けているのは、これまた容赦ない鉄雄の裏切り。
鉄雄が裏切る理由は、比較的きちんと説明されるが、
金田に感情移入している観客にとっては、非常につらい仕打ちだ。

そして「AKIRA」がやっと封印を解かれ、現れると思ったら、「筒」の登場。
「研究材料にされたAKIRAの成れの果てがそれだ!」
という大佐の説明だけでは、観客は納得できない。
あれだけAKIRAということばで引っ張っておきながら、結局いなかった、というのでは、
ますます話が抽象的になり、わかりづらくなってしまう。
唐突にSOLというシステムを呼び出すのも、かなり強引だ。

もちろん、面白いことには間違いない。
すべてにおいて実験的であり、そして衝撃的である。
アニメ(漫画)を映画としての鑑賞に堪えうるものにしたという意味でも偉大だ。
世界観は「新世紀エヴァンゲリオン」も影響されているようだし、リップシンクも多少の違和感があるものの、画期的だ。
画の細かさは、感心する。

しかし、だからこそ、原作を知らない者にも通用するように作ってほしかった。
この映画は、衝撃的であったがゆえに、過大評価されている気がする。
何十年も評価される映画というのは、やはり映像技術ではなく、世界観なども含めた「中身」だと思う。
そういう意味では少し残念だ。

そうそう、衝撃的だといえば、本作で登場する不良のしゃべり方。
「一昔前の近未来」という印象だ。
若者が、今のようなバカっぽいしゃべり方をするようになるとは、当時誰も思っていなかっただろう。

(2003/10/23執筆)

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