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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

小熊英二「帰ってきた男」

2015-11-23 10:08:06 | 読書のススメ
★ネタバレなし★

「社会を変えるためには」を読んでから注目していた。
大型書店で平積みしてあったのを見て、手に取った。
「戦時中」「戦後」をこのような形で切り取る本はあまりなかったと思う。

筆者の父、謙二がどのような人生を歩んできたのか、ということを当時の社会的背景とともにまとめたものだ。
中国への出征、シベリア抑留、結核療養など、戦中戦後に問題となった出来事を体験している。
その一方で、日本を揺るがすニュースに触れ、「とくになにも感じなかった」といった「一般庶民」の感覚を記している。

私が学んできた日本の戦時中、戦後の生活とは違った様相が語られている。
どのような「過去」もバイアスのかかっていない過去はない。
そのようにして歴史は語られるものだろう。
その中で、右派でも左派でもない、もう一つの歴史の問い直しとして注目される作品だ。

なによりおもしろい。
語り口がよみやすく、一人の人生を追体験できる。
また、あとがきにも記されていたように、この時期を生きていた私の親族にも同じようにその人生を紐解いてみたいと思わせる。
なぜなら、自分の親や祖父・祖母の人生がどのようなものだったのか、私のルーツはどこにあるのか、それがどんどん失われていくからだ。

私たちは歴史を学んできた。
しかし、それは一つのカイロス(時間・機会)にすぎない。
私たちは個々人に生きているクロノスを持っている。
戦後70年にあたって、そのことをもう一度掘り起こす新書だと感じる。

まあ、私の父はこんなふうにきちんと話してくれそうにないが……。

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