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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

時計仕掛けのオレンジ(V)

2008-05-11 12:12:37 | 映画(た)
評価点:86点/1971年/アメリカ

監督:スタンリー・キューブリック

この映画はあまりにも鮮烈すぎて、誰もが忘れることが出来ない。

近未来のロンドン。青年アレックス(マルコム・マグダウェル)は地域の警察も頭を抱えるほどの悪党。
彼は、グループのリーダーで、悪の限りを尽くしていた。
ある日、仲間たちのもちかけで、襲おうとしたが警察に包囲され、すんでのところで仲間に裏切られて逮捕されてしまう。
襲った相手を殺してしまった彼は、14年という刑を受ける。
2年後、模範囚となった彼は、面倒をみてもらっていた牧師に、心理治療の実験を受け、数週間で出所することをもくろむ。

近未来好きなスタンリー・キューブリックの有名な作品。
官能的な独特の世界観に、人間性を見出す。
有名な作品であることは肯けるし、一度観るとなかなか忘れられない作品だろう。

キューブリックについてあまり詳しくない(観ていないから)ので、下手なことを言いたくはないが、
一言で言えば、この映画は「人間賛歌」がテーマになっているといえるだろう。

ストーリーが巧みな展開になっている。
アレックスは、どうしようもない悪で、「我慢する」ということを知らない。
野性のまま生きている、そんな感じの悪党である。
彼の暴力性をみせるために、嫌悪を感じさせるレイプシーンをみせたり、仲間にまで暴力を振るわせたりする。
普通の人間なら、この冒頭のシーンはかなり重たいものになる。

しかし、これを一気に後半でひっくり返してしまうのがキューブリック。
受ける心理治療は、悪の象徴であるアレックスであっても、あまりに「残酷」なように描く。
彼は暴力シーンやセックス・シーンを見ると吐き気を催してしまうように改造されてしまう。

ここで活きてくるのが「ベートーベン」が好きだというアレックスの設定。
暴力だけでなく、ベートーベンをも「否定」されることでアレックスへの同情を観客から買うことに成功しているのである。

そして無事(?)出所した彼に立て続けに降りかかる仕打ちは、先ほどまで彼への不幸を望んでいた観客にとって、
逆に「救ってやれよ」と思いたくなるほどである。
このあたりの観客の心理操作が非常に上手い。
そして、終幕では、心理治療を推進していた大臣が、今度は自分の正当性を見せるために、彼を利用しようとやってくる。
元の人格を手に入れた彼は、その破格の待遇を快く受け入れる。
しかし、カメラを手にやってくる記者たちの様子はまるで吐き気を催し続けた「セックス」シーンのように見えるのである。

ここには痛烈な社会批判があり、また、人間性の肯定という監督のメッセージが受け取れる。
その社会批判のために、前半部をありったけ悪の限りを尽くした主人公を見せるのである。
そして社会システム(=選挙活動)に裏づけされた、罰を受け続けるアレックスに対して、全く反対の感情を抱いている自分に観客は気づくことになる。
冒頭に嫌悪した人は、この映画を犯罪を推奨している映画だと思うかもしれない。
でも、本当は人間性の復興であり、社会という目に見えない無目的な組織の「暴力」に対する強烈な批判が
この映画であるのだ。

ストーリーもさることながら、音楽の使い方もうまい。
悪党のアレックスがベートーベンを「ルドウィヒ」と呼ぶほど好きだということも芸術に対して権威をもつ、旧態依然とした評論家たちへの痛烈な皮肉である。
犯罪のシーンにやたらとつかわれるのも同じ理由だろう。

セックスがモティーフにされたオブジェも面白い。
アジトにある大量のマネキン風家具はもちろんのこと、殺されることになった女が、「それを壊さないで」といったあの造形も明らかに男性性器をモティーフにしている。
あれだけインテリ風の女性も、本能はそこにあるのだということを揶揄しているのだ。
しかも彼女は叫ぶ。
「そのオブジェは高価なものなのよ、触るな!」

タイトル、「時計じかけのオレンジ」とは
「時計」……人間社会の象徴である時間をつかさどる時計に仕掛けられた、
「オレンジ」……人間性、野性の象徴。
つまり、人間に見えるが実は社会に中身を奪われた人間(の形をしたもの)を
象徴しているのだろう。

この作品は、観る人によってずいぶん感じ方が違うだろう。
嫌悪感を感じるだけの人も大勢いるはずだ。
でも僕としては十分「面白い」と思うのだが、どうだろう。
いずれにしても、本当の鮮烈さとはこういうことを言うのだと教えてくれる作品だ。

(2003/8/3執筆)

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