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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

踊る大走査線 THE MOVIE 2

2008-05-11 12:18:47 | 映画(あ)
評価点:65点/2003年/日本

監督:本広克行

人気を博したドラマの映画化第二弾。

あの「1」の事件以来、湾岸署は様変わりし、観光名所となって人気を集めていた。
後ろから少女ばかり噛み付く「吸血鬼」や親子でスリを繰り返す「絵に描いたようなアットホームな」家族など、
青島(織田裕二)にとって熱くなれる事件はなかった。
そんななか、湾岸署の管轄内で一体の謎の死体が見つかる。
SMのように縛られた死体には洋ナシが添えられている。
重要事件として、またしても本店(警視庁)が動き出す。
今回の捜査指揮官には、女性官僚の沖田仁美(真矢みき)が抜擢される。
彼女の現場の所轄を無視したやり方に、青島や恩田すみれ(深津絵里)は反発する。

フジテレビの最終兵器、「踊る大走査線」。
僕としては「1」で終わっていたので、あまり作ってほしくなかった。
でもやっぱりできたとなると観たくなるのが、「踊る」の魅力。
今作もやはり、いい意味でも悪い意味でも「踊る」らしさが随所に見られた。
ファンは納得の出来ではないだろうか。
ただ、いち映画として観られる出来かどうかは、疑問もある。

▼以下はネタバレあり▼

今までのファンが納得できるつくりにするため、あらゆる面において今までを踏襲した形になっている。
「踊る」のテーマでもある「本店と所轄」の対立はもちろんのこと、最新(?)の捜査システムや技術を採用したり、いくつもの事件が乱発したり、リストラなどの時事的な問題を取り入れたり。
「それがマンネリと思うあなたはきっと本当のファンじゃないんだろう」的なシリーズの見所満載、でも逆に言えば、目新しさのない安定したつくりといったところだろう。

女性差別のない官僚機構を見せるため、自ら広告塔になった沖田は、非常に「組織」重視の指揮官。
「事件は会議室で起こっているの」と青島に言い放つほど、指揮系統が重要だと考えている。
一方、現場との仲が深い官僚の室井(柳葉敏郎)や、現場の青島、和久(いかりや長介)は、現場を重視してくれない彼女にあからさまに反発する。
しかし、彼女はキャリアを積むために自分を犠牲にし続けてきたのだった。
事件を解決しようと必死な両者の考えは一致することができず、恩田すみれが犯人の凶弾に倒れる。
この失態により室井が指揮を引き継ぎ、宣言する。
「現場も官僚も役職も全て忘れてくれ。今後の捜査は各自の判断で動いてくれ」
この危険な(?)指揮(と呼べるのかどうか知らないけど)によって事件は速やかに解決される。

今回の室井の判断が、現実的なものかどうかは知らないが、今まで対立的な構造や、矛盾の存在が現れるだけであったのが、
今回は具体的な捜査方法としての「回答」してみせたことは、両者の関係に新たな進展を見せたという意味で、大きな意味があるだろう。
漠然とした期待や希望で終わっていたシリーズの結末から言ってそうとう具体的な方向性が見えた形になった。

しかし展開に疑問がある。
柏木雪乃が犯人にさらわれるまで、シリーズの総編集を見せられているかのような迫力のない展開。
殆んどどこかで見たことのあるようなシーンの連続で、緊迫感にかける。
おそらくそれは、犯罪自体がそれほど大きなものではなく(前作では副総監が誘拐される)単なる殺人事件であるという影響だろう。
捜査員が誘拐されて、はじめて大きな事件になったという印象が強い。
普通の殺人事件では緊迫感に欠けるし、死体が二つではそそられない(不純だけど)。
雪乃さんが誘拐されてから、俄然面白くなるが、わからないのは沖田の反応。

被害者のキャリア・ウーマンには同情的な態度を示す割りに、雪乃さんや、すみれさんの場合は「兵隊」よばわり。
女性差別に対抗したいという思いがあるなら二人にも同情的な態度をとってほしかった。
そうじゃないと、沖田は矛盾してしまっているし、矛盾を起こしていると
「悪役の美学」が失われてしまい、悪役として愛することもできなくなってしまう。
これでは、フェミニストから批判が出ても仕方がない。
「やっぱり女は指揮官に向いていない」という、暗黙の了解があるようにとれてしまう。
もちろん、そういう意図はないにしても、そういう批判が大好きな人たちがいるのだから
女性蔑視を髣髴とさせる展開はやめた方が良かった。

いやいやでも盛り上がってしまう、すみれさんの負傷も無理やりな印象がある。
「1」のときも、青島が負傷したが、今回もすみれさんが負傷する。
しかも素人が発砲した銃弾が、胸を貫通するという致命傷である。
にもかかわらず、エンディングでは元気に捜査しているのはあまりにも都合が良すぎる。
確かに緊迫感は出るが、二度も同じ手口で盛り上げようとするのはどうかと思う。
日本人は誰かが怪我をするとか、死ぬとかしないと感動できないのだろうか。
なんか悲しい。

岡村吸血鬼と署長の不倫もいただけない。
岡村は面白くないし、とってつけたような事件になってしまった。
張り込み中で発見するというシーン以外では効果的な役どころになっていない。
むしろそのネームバリューの大きさが世界観を壊し笑いという方向へと逆効果になっている。

署長の不倫も笑えない。
「1」では、領収書が盗まれるという事件が発生し、実は経費削減の手口だったことが判明する。
今回はその位置づけに、署長のラブメールがある。
しかし、不倫となると笑えない。
問題が大きすぎて、公になると、今の警察では辞職に追い込まれる危険性さえある。
前回は毒のない笑いが良かったのに、今回のは毒々しすぎる。

また細かいことだが、耳栓の理由が知りたかった。
耳栓をしていたので閃光弾が効かなかったのだろうが、なぜ耳栓をしていたのか、説明がない。
映画的にはこの説明ははずせなかったと思うのだが、残念である。

しかし、全体としては安定した笑いと感動を生み出していたので、シリーズのファンは十分に楽しめるだろう。
現代社会を象徴したような犯人だったので、「安全な」日本でも楽しめる内容だった。
シリーズのファンでないと楽しめないということはないだろう。
しかし、ファンに向けた作品であるので、映画としての独立性は乏しいかもしれない。
対立構造や、展開が全く進展がなく、指揮系統への雛形を見せたこと以外に目新しさはない。
期待を裏切らなかったが、その期待をさらに裏切るほどの面白さも、またなかった。
これをいいとするかどうかが、評価の分かれ目だろう。

(2003/07/20執筆)

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