secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

プロメア(V)

2021-02-13 15:50:52 | 映画(は)
評価点:85点/2019年/日本/111分

監督:今石洋之

すべてのアメメーションを置き去りにする映画。

30年前、突然人体が発火するという事件が世界各地で起こった。
原因不明で、人口は約半数までに落ち込んだ。
現在、その火事を消すための専属の消防隊が結成され、速やかに消火活動が行われるようになり、世界は安定していた。
だが、ある日、その人体発火現象を利用したテロリスト、マッドバーニッシュが街に現れた。
消防士のガロ(声:松山ケンイチ)は、テロリストの首謀者であるリオ(声:早乙女太一)に対峙する。
なんとか逮捕したリオだったが、脱獄、逃走中にガロはリオと出会ってしまう。
そこでガロが見たのは、バーニッシュとして迫害されていた人間の、あるがままの人間の姿だった。
バーニッシュを忌み嫌っていたガロは、命の恩人であるクレイ・フォーサイト(声:堺雅人)に疑念を抱く。

知人から勧められていたアニメ映画。
ずっとリストにあったが、このたび見ることにした。
ほとんど前評判を知らずに、設定もストーリーも知らずに見た。

冒頭のガロとリオの対決から、度肝を抜かれる映像作品で、世間の知名度は知らないが、間違いなく名作である。
音響の使い方もすばらしいので、ヘッドフォンなどで鑑賞することをお勧めする。
大音量、大画面で見るべき作品で、劇場公開時に見なかったことを存分に後悔できるだろう。

▼以下はネタバレあり▼

音響、色彩、カット、作画、アングル、テンポ、すべてが新しい。
これまでの牧歌的なアニメ映画をすべて置き去りにするような、斬新さがある。
そしてそれは、アニメでなければ表現しきれない必然性を感じさせるという点が素晴らしい。
日本のアニメ映画の可能性を感じさせる、金字塔とも言える映画だ。
新しすぎて、むしろ冗長に感じるほど、情報量が多い。
こちらの集中力が上映時間中もたないほどのテンポの良さだ。
もう一度みないと正直、理解し切れたとは思えない。

キャラクターの造形がよい。
火消しを生業とするガロは、熱い思いをもって仕事に取り組んでいる。
それは、過去に街の英雄クレイに火事から助けられたという経験からきている。
彼の思いはまっすぐであり、故に危なっかしいところもあるが、正義感の強さが行動力に繋がっている。
そんなガロは、当然火事を起こすバーニッシュに対して強い嫌悪感を抱いている。

そのガロが、マッドバーニッシュのリーダー、リオに出会うことで自分自身に疑問を抱くようになる。

リオは人々から恐れられているような、悪のリーダーではなかった。
バーニッシュは炎の意志とつながることで、炎を燃やしているだけで、他の人間と同じ心と意志を持っていた。
そして、バーニッシュは人を殺しているのではなく、人体実験されている仲間の解放を望んでいただけだった。
その人体実験をしている張本人が、クレイだというのだ。

二人のキャラクターをしっかり描いたことで、両者の行き違いがはっきりわかり、そしてそれが社会的なメッセージにもつながることが理解できる。
この話は、レイシズムをはじめとした様々な我々の人種差別をシンボリックに描いているのだ。
無理解や無知からくる正義ほど恐ろしいことはない。
お互いが正しいことを信じて相手を攻撃すれば、そこに解決策はありえない。
その対立を二人の主人公に担わせた。
そして、炎と火消しという色彩の対比(コントラスト)でも、両者を描きわけている。

もう一人、クレイという人物もまたしっかりと描かれている。
彼は自分がバーニッシュであることを怨み、その運命から逃れるために、地球を離れて他の星に移住する計画を立てる。
その船に乗れるのは1万人。
その船の燃料は、バーニッシュから得られる強大なエネルギーに頼るしかない。
しかし、その燃料を燃やすと、パラレルワールドのプロメアが悲鳴を上げ、地球をますます壊してしまう。
彼の中にある矛盾は、我々の世界にある矛盾と同じだ。
開発や技術を進めれば進めるほど、そのことが自分たちを苦しめる。
その苦しみを乗り越えるためには、やはりより高い技術を求めるしかない。
富を求めることで、ますます飢える人を作ってしまう資本主義や、自国を優先することで自国と敵対する人間を生み出し、ますます国防や敵対関係を強めるしかないナショナリズムによく似ている。

クレイはその矛盾に気づいている。
けれども、ここではないどこかでやり直すことができれば、その矛盾も乗り越えられるのではないかと期待している。
ほとんど笑えるような開墾技術や掘削技術を開発してまでも、新しい世界を夢見ている。
だが、私はそこに悲哀を見出す。
自分たち1万人以外が犠牲になり、それでも新しい世界に飛び出たとしてもそこに平和な星が存在するとは限らない。
それでもバカみたいにその可能性にすがるのは、そこにすがるよりほかない、地球の人間たちのバーニッシュへの迫害があるのだろう。
クレイはクレイで、人間とバーニッシュとの対立が生み出した犠牲者の一人だと言えなくもない。

あの、冷静で、理知的なクレイが、ラストでは顔面が崩壊している。
作画がミスしたのではないかというくらい、デザインが変化している。
だが、これもまた、この映画の、アニメーションでなければならない必然である。
その顔面崩壊こそが、彼の矛盾を自覚していたことを象徴しているのだから。

このように三者のプロットががっちりと噛み合っている。
だから展開に無理がないし、最後のカタルシスも大きくなる。

もう一つ、特筆すべきなのは声優陣だ。
俳優と本職声優を織り交ぜたキャストはみごとだった。
しっかりとキャラクターに息を吹き込み、「アニメの声優は本職の声優に任せれば良い」という批判を蹴散らすに十分なクオリティだった。
特に、堺雅人は名演技だ。
実写ではやり返しているのに、アニメではやり返されているという展開も、おもしろい。
冷静な男から、なりふり構わず暴論を叫ぶ男まで、その豹変ぶりは彼の声に支えられている。

とにかくもっと評価されてもいい、評価されるべきアニメだ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« カメラを止めるな!(V) | トップ | イエスタデイ(V) »

コメントを投稿

映画(は)」カテゴリの最新記事