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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

アイアンマン3

2013-05-14 20:09:42 | 映画(あ)
評価点:81点/2013年/アメリカ/133分

監督:シェーン・ブラック

やっぱりアイアンマンはこうでなくっちゃ。

アベンジャーズ」の戦いからトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)は不眠症が続いていた。
宇宙人たちにおそわれて自分の無力さを思い知ったからだ。
そんな悩めるヒーローを尻目に、爆発物の痕跡がないのに爆発するというテロ事件が起こる。
マンダリン(ベンキング・スレー)と名乗る中東テロ組織のリーダーはアメリカのメディアを電波ジャックし、犯行声明を繰り返していた。
一方で、トニーが作ったアイアンマンの汎用兵器として「ウォーマシーン」を開発、アイアンマンの地位は奪われつつあった。
警備担当のハッピー(ジョン・ファヴロー)が爆破に巻き込まれたことをきっかけに、トニーはテロ事件の捜査を本格的に始めるが……。

アベンジャーズ」公開後、初めてのマーヴル・コミックスのヒーローものが映画化された。
言わずとしれた「アイアンマン」シリーズの第三弾である。
この後、「ソー」、「キャプテン・アメリカ」と続き、「アベンジャーズ」の続編も公開が決定している。
新たな物語が始まったわけだ。

物語が壮大(矮小?)すぎて、何がなにやらわからなかったシリーズが、いったんリセットされたように「アイアンマン」だけの世界観で構成されている。
シールドも出てこないし、だからスカーレット・ヨハンソンも出てこない。
だから、それほどマニアックな作品になっていないので、間口は広いだろう。
それでも、この作品からシリーズを見るのはやや厳しいだろう。
とくに今回はテンポが速い。
くどい説明もないので、少なくともアイアンマンからの前作二つは見ておいた方がいい。
アベンジャーズ」は見なくても特に支障はない気がする。

▼以下はネタバレあり▼

おもしろかった。
非常に、おもしろかった。
正直、「アベンジャーズ」の出来を考えると、期待していなかったが、三作目にしてうまいシナリオになっていた。

物語は、「トニー・スタークがアイアンマンのスーツを脱ぐ」物語である。
言い方を変えると、トニーのアイデンティティが安定するまでの物語。
あるいは、トニーが不眠症を克服するまでの物語である。

アイアンマンをやめるのに、ラストで全く悲壮感がないのは、映画の冒頭で「アベンジャーズ」の続編を公開すると宣言しているからだろう。
ファンはどうしても一本の映画として観るよりは、一連のシリーズの中での鑑賞となる。
当然物語の自律性は低くても仕方がない。
その中でも、物語のまとまりはうまかったと思う。
脚本がきわめて優秀だったといえるだろう。

トニーは不眠症という課題をかかえている。
その不安は、「もう一度強大な敵に襲われてペッパーを守れるのか」ということ。
そして、「ウォー・マシーン」なる量産型アイアンマンの出現により、自分は本当にアイアンマンとしての価値があるのか、ということだ。
よくあるアイデンティティの乖離や喪失なのである。

もはやアイアンマンであることを公言し、しかもシリーズ合計四作目の本作では、観客は「アイアンマンである」ことに違和感を持っていない。
それを逆手にとったような課題なのだ。
この映画ではアイアンマンがスーツをあまり着ない。
スーツを着ないでトニー・スタークの素顔での出演が多い。
アクションが大好きなファンにとっては物足りなかったかもしれないが、物語の起伏を考えたときには、この展開は良かった。
何でもかんでもアームがやってくれていたそれまでの開発は、トニーみずから試行錯誤する。
敵のアジトに侵入するのもスーツなし。
だから、スーツが再び手に入ったとき、観客は「待ってました」とカタルシスを得ることになる。
「やっぱりトニーがスーツを着なきゃ」と素直に思えるのだ。

スーツ脱ぐ決意をしたラストで「私はアイアンマンだ」と言われて納得できるのも、「こいつしかいない」と思わせるだけの「回り道」をしてきたからだ。
アイアンマンが終わってしまうのに悲壮感よりも爽快感があるのはそのためだろう。
ダークナイトやスパイディのようにいつまでも暗い思考回路にならないあたりが、いかにも、「らしい」。

演出も非常に大人で見応えがある。
今回の主要な敵となる者の設定は、高度な再生能力をもつ兵士たちである。
高度な再生能力を生かして、副大統領は新しい「パトロン」となり、国家転覆を狙う。
新しい「パトロン」が副大統領であることがわかるのは、娘の誕生日祝いに娘の足がないという描写で表現する。
下手な脚本家なら、それを台詞やもっと長いカットで説明してしまうだろう。
トニーがただでさえアメリカを右往左往する展開なので、すっきりみせることができたのはすばらしい。

また、トニーが右往左往するには意味がある。
トニーの自宅が襲撃された後、迷うことなく向かった先は、不審な爆発事故で死んだ現場だった。
スーツの充電がなくなり、ピンチに陥るわけだが、それによって物語の真相へ一歩近づく。
1カット程度の台詞だが、行き先を指定していることで次の展開へ導かれていくというおもしろさがある。

脚本がタイトに、観客を信じるような余計な説明が少ないことで、物語が俄然テンポがよくなった。
子供向け映画なんて言わせないくらい、複雑な脚本で、ちょっと不親切な演出になっている。
だからこそ、おもしろいのだ。

また、敵に説得力があったのが良かった。
原因不明の爆発は「テロ」ではなく、実験の結果だった。
その爆発を「テロ」のように見せることで、世界を混乱に陥れていくという展開も、アメリカの国民性をよく表している。
「恨まれていても仕方がない」という出発点がアメリカ国民にはあるのだ。
それを利用した、キリアンの思惑はとても蓋然性がある。
情報が錯綜する世の中だからこそ、不安を煽る犯行声明は効果がある。
しかも、その犯行声明を行うマンダリンのキャラクターが良い。
気が抜けるようなコミカルなキャラクター設定は、いかにも「アイアンマン」である。

スーツ対スーツというこれまでのマンネリ化した対立構造から「科学者対科学者」とシフトさせたのも良かった。
リアル(?)な、肉体の高温化も、わかりやすい。
3000度というのがリアルなのかどうかは別にして、「そういうこともあるかもしれない」と思わせてくれる。
ガイ・ピアーズを黒幕アルドリッチ・キリアンに配役したのも、ずばりだ。

ラストのスーツ着替えまくりアクションは、ちょっと不満が残る。
一つ一つの個性的なデザインがあるものの、ほとんどそのバージョンについての説明がない。
数を出せば出すほど、無個性になってしまう。
ラストの最も盛り上がるクライマックスでのシークエンスなので、もう少しひねりがほしかった。

トニー・スターク、ますます良いキャラになってきた。
次の「アベンジャーズ2」に少しは期待できるだろうか。
すべては脚本次第であることは、やはり変わらない。


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