secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ホワイト・アウト

2008-06-15 12:33:29 | 映画(は)
評価点:59点/2000年/日本

監督:若松節朗

当時の日本映画の中でほとんど唯一の本格派アクション映画。

富樫(織田裕二)は新潟奥遠和ダムの職員。
同僚である吉岡(石黒賢)が発見したダム近くの遭難者を、ともに助けに行く際、吉岡は負傷する。
応援を呼ぶために富樫は一人下山する。
しかしその道中、自分のたつ位置や向かう方向を見失うと言う「ホワイト・アウト」という現象に陥る。
立ち尽くす富樫は意識を失い吉岡は遺体で発見される。
三ヵ月後、吉岡の恋人平川(松嶋奈々子)は彼の死を克服するために奥遠和ダムに向かう。
しかしちょうどそのとき、ダムが武装集団に占拠される。
運良く逃げ出せた富樫は単身、彼らと対峙することになった。

▼以下はネタバレあり▼

かなり期待して観にいった作品で、それなりに満足して帰った作品。
でも「日本映画にしては」という但し書きが必要であることは間違いない。
でも日本でアクション映画を撮ったということは評価に値すると思う。

それでもどうしても日本という映画後進国のつくりの荒さが目立ってしまう。
まず松嶋奈々子役の平川。
彼女の存在のおかげで展開がどうしてもスムーズにいかない。
他のダムの職員がみな、「富樫さんならなんとかしてくれる」的雰囲気をかもし出しているのに、
ひとりだけ「彼は来ないわ」と三ヶ月前の事故を引きずり続けている根暗女になっているからだ。
織田裕二がんばれ、と思って観ている(はずの)観客は彼女のその後ろ向きで無理解な態度のおかげで見る意欲が減退する。
最後のヘリコプターまで理解を示さないのはあまりに冷徹だし、状況を理解していないと言える。

それだけではない。
平川の作るサンドイッチの量。
明らかに作りすぎだし、状況を考えても不自然だ。
トレイいっぱいに乗せたサンドイッチの材料はどこにあったのか不思議でならない。
いまからどこかに販売しに行くというなら理解できるが、わずか数人の人質のためにあれだけのサンドイッチを用意する姿をテロリストたちが見せられれば、
誰だって「そんなに栄養つけて反抗する気か?」と疑うだろう。
サンドイッチの量なんて幾らでも変えられるのにあえてあれだけの量を持たせた製作者の意図が理解できない。

さらに平川が銃を撃つシーン。
事前に安全装置のことを教えてもらっていたとはいえ、それでもあの肝の据わった撃ち方はない。
富樫でさえ一番最初銃を撃つときは怖がっていたのに人質の女性があんなに堂々と撃たれたら
もうあんたが解決しろよとしか言えなくなる。
少し考えればわかることなのに、なぜそんな配慮もないのか。

松嶋奈々子だけではない。
この映画の展開そのものがアクション映画を知らない人間のつくりだ。
アクション映画にはサスペンス映画ほど緻密なシナリオはないが、それでも物語に惹きつけさせる展開がある。
この映画では犯人たちの動機が物語の終盤にわかるようなシナリオだから明かすことはできないだろうが、それでも彼らの意図をもっと早い段階で明確にすべきだ。
伏線のために「兄貴を釈放させる」とか言っているが、効果的な伏線になっているとは言いがたい。

犯人の目的が明かせないのなら、もっと早く犯人たちの身元が分かるようにしなければならなかった。
そうじゃないと状況が分からないから緊迫感がない。
「赤い月」というかっこいい名前をもらっている集団のくせにそれがわかるのは物語の終盤だ。
それからバタバタと物語の核心に迫り、クライマックス。
これでは急展開過ぎる。

1つのアクションが1つの真相を導くと言う構造にならないと物語が進行していく楽しさを味わえない。
アクション、アクション、真相、真相、ではアクションが生きてこない。
少なくとも赤い月の名前が分かった後に、あの富樫が水で流されるシーンを組むべきだった。
赤い月の設定が分からない観客にとって、赤い月という名前が分かったところでなんの効果もない。
そのあと説明的な台詞がつづく、その説明にこそ観客の知りたい情報があるのだ。
だから赤い月という名前をあそこまで引っ張ると、もうクライマックスと近すぎて、彼らに与えられた設定が死んでしまう。
敵が分からないのに勝ちたいとは思わない。

アメリカのアクション映画が最近(当時)敵を探し続けているのはそうした意味もある。
観客が勝ちたいと思わない敵と対峙しても全然盛り上がれないのだ。

しかも敵に説得力がない。
設定を見せるのが遅いと言うこともあるが、日本にはそれほど過激集団はいない。
精力的に活動しているテロリストもほとんどいない。
だからどうしても素人くさい敵に見えて仕方がない。

全体的にアメリカ映画の焼きまわしと言う感が拭えない。
アメリカ映画に憧れた素人が作った映画のように思える。
冒頭の友人が死ぬシーンは「クリフハンガー」、展開は「ダイ・ハード」などの閉鎖的な環境で起こるアクション映画を感じさせる。

また「銃には安全装置がついているんだ」と吹越満に言われると

「ああ、製作者がこのシーンは絶対入れようと、懇願したんだろうなあ。素人臭っ」

と思ってしまう。
僕なら絶対安全装置なんて外してから撃つ。
いまどきアクション映画を1つでも観ていたらそんなことにはならないと思うんだけど。
そんな台詞を入れるから、アメリカ映画を追い越すことが出来ないんだよ。

最後に、スケールの小ささ。
予算の関係上仕方がないとは思うが、それでももっと引いた画が欲しい。
どう考えてもあれでは箱庭で起こった事件にしか思えない。
黒部ダムを貸しきったのだから、徹底的にやるべきだった。

でもけっこう頑張っていたとは思う。努力賞はあげたくなる映画だ。

(2003/01/07執筆)

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